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「いい人」文化の組織変革でエグゼクティブがやるべき3つのこと
2022年10月18日
私たちのクライアントである最高デジタル責任者(CDO)は、彼女の会社が市場で競争力のある存在であり続けるために不可欠な、DXを主導するための協力なビジョンを持っていた。彼女はこのイノベーションを実現するために雇われており、このビジョンを実行できなければ、会社はあと4、5年しか生き残れないことを誰もが認識していた。
しかし、そのCDOは、経営幹部の仲間がこのことについて議論をして、進むべき道について決断をするように促すことができなかった。他の幹部たちはこの問題を避けており、彼女が彼らに働きかけようとしても、答えは返ってこない。彼らは敵対していたわけでもなく、むしろ変革の重要性に同意していた。にもかかわらず、必要な対応や行動をとろうとしなかった。この会社には、健全な議論さえも避ける受け身とも言える「いい人」文化があったため、CDOは完全に行き詰ってしまっていた。彼女は、急速に周囲からの支持を失っていったにもかかわらず、成果を出さなければならない状況に置かれていた。彼女はどうしたらいいのかわからなかった。
コーチングのセッションで、彼女は私にこう言った。「彼らに私のいら立ちと怒りを伝えるというリスクを冒すべきでしょうか?おそらく、そんなことをしても大きな成果はないと思います。どうすれば仲間を動揺させることなく、今の私自身に正直でいられるのでしょう?私は、『いい人』でいることに疲れてしまって、そのあげく何の成果もあげられていないのです。今、行動を起こさなければ、競合する2つの強力な新興企業に私たちは潰されてしまうのです。役員達は、今のままの無策な状態が会社の存亡に関わることがわからないのでしょうか?私は重要なミッションを任されたのに、誰も議論しようとしないし、何の決定も下さない。私は気が狂いそうです!」
「いい人」文化 - 無数の声を持たない傷口が最悪を招く
彼女は、これを受動的・攻撃的組織と表現していた。このような組織文化は珍しいものではなく、実際、25%以上の企業が受動的・攻撃的型に分類されるという調査結果も複数ある。そのような企業では、表面的には、誰もが友好的で合意形成は容易である。問題は、建設的な議論が行われないまま合意形成が行われるため、その合意が実は偽りの合意であるということだ。その結果、決断を完全に受け入れるというよりも従うだけなため、本当にその決断にコミットしている人はほとんどいない。そのため、実行を支援する段階になると、誰もが足を引っ張り始めるのだ。
偽物の合意の状態としてよく見られるのが、決まったことをあとからとやかく言うという現象だ。チームメンバーは、最初の時点では本当の懸念を表明せず、チームは決定を下したと思った後で、懸念や疑問を持ち出すことがある。そして、誰も対立を好まないので、この後からやってくる批判や疑念ですべてが止まってしまう。
だれもが心地良さそうにしているが、何も実現できない状況が続く。そして、この状態が数ヶ月、いや数年続くこともある。その一方で、競合他社はシェアを奪い始めているのだ。
リーダーにできる3つのこと
私たちはこのリーダーとともに、進むべき道を考えた。この3つの行動を組み合わせることで、会話やコラボレーション、より健全な議論が可能になり、「いい人」文化をうまく利用しながら、自分のアイディアを実行に移すことができる。
主張する - 自分の立場を超えて前進すべき価値と利益があることを経営陣に説得する
なぜ今、デジタルトランスフォーメーションが必要なのかを、簡潔な言葉で重要なデータを示しながら説明する。たとえば、会社のデータベースが相互に連携していないためにある顧客が苦情を申し立てたといった、2~3分の手短な、しかし説得力のあるストーリーを話すのだ。あるいは、変革の必要性を訴える業界研究を紹介する。聞き手である経営幹部の同僚たちにとって重要なデータを示そう。
目標は、今すぐ行動を起こす必要があることを彼らに伝えることだ。
相手の抵抗感を探る - 相手の行動の背景にあるものを理解することで、相手にとって何が重要なのかを知ることができる。
もちろん、あなたが説得している間、聴き手はあなたが大胆な行動をとらないようにあらゆる理由付けを考えている。
受動的・攻撃的な文化の常識を打ち破るには、人々がより安全に懸念を表明できるようにすることが重要だ。彼らの抵抗を無視するのではなく、理解する必要がある。相手の抵抗の理由を理解することなくして、どうやって対処できるだろうか。懸念は、「いい人」の隠れ蓑に埋もれることなく、オープンにしておきたいものだ。そのためには、話し合いがしやすく、かつ建設的になるような環境を整えることが大切だ。
今回の場合、私たちは、経営陣を3、4人のグループに分け、次のような会話から始めるようにこのCDOをコーチングした。「皆さんは、私のデジタル変革の計画を聞いていますね。私の計画はすべてを網羅していないかもしれないと思っています。もしかしたら、私が想定していなかった意図しない結果となるかもしれませんし、私は皆さんがお持ちのデータを知らないかもしれません。あるいは、私の計画の一部が曖昧であったり、明確でないように見えるかもしれません。分科会では、皆さんが最も懸念していることや疑問について話し合ってください。それを知ることで、私の計画に適切な修正を加えることができるのです。一番心配なことをリストアップして戻ってきてください」
こうすることで、彼らが彼女に挑戦する許可を与えているのだ。しかし同時に、彼女は自分の計画を進めることも明確にしている。これは、「いい人」文化の中で求められる謙虚さと、物事を成し遂げるために必要な自己主張(アサーティブネス)の両方の大切さを示す良い方法だ。
このような練習をすることで、うまくいけば相手の本当の抵抗感を知ることができて、そのことで懸念に対応しやすくなり、場合によっては、相手のニーズに合わせて計画を調整することができるようになる。また、時には相手のニーズを満たすことができない場合もあるが、相手は少なくとも自分達の話を聞いてもらえたと感じることができ、あなたから別の解決策を提示することができるかもしれない。たとえば、「この取り組みがあなたのリソースを奪うことになることは理解していますが、最重要課題であるこのプロジェクトは会社の利益に繋がり、私たちが持続可能な状態を維持できるようにするものなのです。おそらく、この期間にあなたを手助けをする方法を見つけることができるでしょう」と伝えることができる。
彼らの懸念に耳を傾け、それに応えることで、賛同を得られる可能性が高まり、後々起こりがちな蒸し返しを最小限に抑えることができる。
もし、あなたが上記のステップ1をうまく説明できて、また会社を変革する責任を与えられているのであれば、全員が100%あなたに同意しているかどうかを確認する必要はない。意思決定や合意でさえも、目指すのは全会一致ではなく、団結であるからだ。
そして、その団結、つまり変革を進めるという合意が得られたら、次のステップは部隊を結集させることだ。
部隊を鼓舞する - 変革を実現するための各自の役割を果たすよう、全員を巻き込み鼓舞するための土台を築く
経営陣がデジタル変革のビジョンで一致団結したら、次は経営陣だけでなく、すべての人を巻き込む番だ。リーダーが正しいビジョンを持っていても、部隊が実行を阻害することはよくあることだ。特に受動的・攻撃的な文化では、部門や部署の責任者が、あなたのビジョンについて部下には否定的に話していても、あなたに面と向かっては肯定的に話すことがある。メンバーと直接対話しその声を聞くことで、裏工作やフィルターを排除することができるのだ。
効果的な方法として、さまざまな部門やファンクションとのミーティングを行い、ビジョンを説明し、質問に答えるという「ビジョン・ツアー」を行うことも考えられる。先のCDOの場合は、CEOと部門リーダーに同行してもらうのが理想的だ。
ビジョンツアーの成功させるための2つのポイント
その変革がどのようなインパクトをもたらすかを示す
変革に向かう以前の現在の状況については、おそらくメンバーの誰もが悲惨な状況を語れるだろう。正確な情報を素早く得ることに非常にストレスを感じていたり、システム同士がうまく連携していない、といったことについてだ。その職務に携わっている人が抱えている問題点に関する短いストーリーを共有し、めざす変化との関連性を引き出そう。そして、あなたが彼らの不満をどのように理解しているか、また、この取り組みによって彼らの日々の仕事がどのように改善されるのかを示そう。
質問し、懸念を表明する機会を与える
オンラインまたは対面の会議を開催することを計画する。メンバーは小グループに分かれてもらい、3つの質問や懸念を持ち寄ってもらう。各グループのファシリテーターは、メンバーに順番に懸念を表明してもらう。可能な限り多くの質問に答えてほしい。そのとき、できる限り正直に、そして透明性を持って話すことが大切だ。答えが分からないときや時間が必要なときはその旨を伝え、できるだけ早く回答するようにしよう。正直に話すことで、人々はあなたを信頼し、あなたが企業の利益を一番に考えていることがわかるようになる。受動的・攻撃的な文化がある組織では、誰もが「大丈夫」ではないことが分かっている時に、「すべてうまくいく」と言うリーダーに慣れてしまっている。あなたは、変革がもたらす課題について、人々に正直に話すことで、多くの信頼を得ることができるだろう。
これらのことと同じくらい重要なのは、難しい話を避けることなく、相手を尊重し「いい人」であることの模範を示すことだ。
適度に「いい人」になり適度に主張する
この3つのステップに従えば、あなたの変革に対応する能力を大幅に向上させることができるだろう。おそらく、受動的・攻撃的な社風を一夜にして変えることはできない。しかし、あなたのアイディアが「いい人」文化に阻まれ、やがて潰されてしまう可能性を最小限にするために、いくつかの行動を起こすことは可能だ。覚えておいてほしいのは、「いい人」文化はあまりいいものではないということだ。人気作家のキャロリン・マクレイが言うように、「受動的・攻撃的な行動は、臆病者にとっての攻撃的な行動であることを知っているだろう?」あなたは、発言することへの恐れを取り除く必要がある。
あなたはリードすることを期待されているのだから、リードしよう。また、あなたは「いい人」であることも期待されているのだから、「いい人」でもあろう。あなたには両方できるはずだ。
【筆者について】
マイケル・セイチック(Michael Seitchik)氏は、コンサルタント、エグゼクティブコーチ、また、米国ベイツ・コミュニケーションズの研究・評価部門のディレクターとして、上級役員層の成功をサポートしている。前職ではRHR Internationalで上級役員教育サービス部門のマネージング・ディレクターを務めた。
【翻訳】Hello, Coaching! 編集部
【原文】3 Things an Executive Can Do Influencing in Passive-Aggressive Cultures(2022年7月12日にBatesのResearch and Resourcesに掲載された記事の翻訳。Bates Communications Inc.の許可を得て翻訳・掲載しています。)
Article translated with permission of © Bates Communications 2022
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