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CEOにとって「共感」以上に大切なこととは?

【原文】It’s not enough for CEOs to empathize with employees
CEOにとって「共感」以上に大切なこととは?
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コンサルティング会社、ポテンシャル・プロジェクト(Potential Project)の創設者であるラスムス・ホーガード氏は、社員と難しい話をする際には、むしろ「賢明な思いやり(コンパッション)」を持つことが重要であると述べている。

E.L.ドクトロウ氏は小説『シティ・オブ・ゴッド』で、「CEOにとって、人生はビジネスと同じであるという共通認識が常に見受けられる。そこには、それが自分達の権利であるかのような残酷さがある」と述べる。全米図書批評家協会賞の小説部門を3度受賞しているこの作家は、この見解を余談として伝えているが、これはビジネスリーダーに対するある種の強烈な批判だ。

リーダーシップ・トレーニングのコンサルティング会社、ポテンシャル・プロジェクトの創設者兼CEOであるラスムス・ホーガード氏に、最近のビデオインタビューの中で、ドクトロウ氏の見解について、どう思うのかを聞いてみた。彼いわく、マリオット・インターナショナルの創業者であるJ・ウィラード・マリオット氏においては、CEOの中でも特別に例外だという。マリオット氏は、誰も傷つけないホテル経営を貫いたといわれており、「従業員を大切にすれば、従業員がお客さまを大切にする」という彼の名言は100年近く経った今でも企業文化の柱となっている。

しかし、「他社のCEOの中には、全く逆のことを言う人が多く存在する。まるで、『上級管理職になったから、もう他者に対して親切にする必要はない』と思っているようだ」と、ホーガード氏も認識している。彼の新刊『思いやりのリーダーシップ:困難なことを人間らしく対処する方法(Compassionate Leadership: How to Do Hard Things in a Human Way)』は、そのようなCEOにこそ読んでもらいたい。

ホーガード氏と共著者であるポテンシャル・プロジェクト北米拠点のディレクター、ジャックリーン・カーター氏は、かつて、「チェインソー・アル」・ダンラップや 「ニュートロン・ジャック」・ ウェルチといったCEO達が信奉した強硬な人材管理は、敗者のゲームであると主張している。ホーガード氏は、「彼らの権利意識が弱体化しているのは明らかで、それには理由がある」と言う。「『私は権力を持っているのだから、人に不親切にしてもいい』と言っている人は罰を受ける。つまり、誰もそのような人たちと一緒に働こうとはしないからだ。ドクトロウの風刺のように、感情を封印し、冷徹に人を傷つける決断を下すCEOは、個人的には代償を払わなければならない」。ホーガード氏はこう付け加えた。「あなたは、自分自身でも好きになれないような人になってしまうだろう」と。

共感は、重大な決断などに対する解毒剤として評価を上げることがよくある。しかし、ホーガード氏は、共感だけに基づくリーダーシップのアプローチには、良くない副作用があると考えている。「リーダーは、文字通り苦しみを与えている人々の苦しみを引き受け、共感の燃え尽きを経験する可能性があります」と彼は説明する。「多くのCEOは、数十億ドルの決断を下した後は、夜はぐっすり眠れると言います。しかし、従業員に厳しいフィードバックをしたり、従業員をリストラしなければならないときこそ、彼らは何週間も眠れなくなるのです」

共感は、エモーショナルワークを必要とする、人の問題に対処するための最初のステップに過ぎないことを彼らは理解していないため、睡眠不足に陥っている。ホーガード氏は次のように述べている。「ここでの信条は、共感をもって接し、思いやりをもって導くことである共感を示すことで、人はもう一人じゃないと感じることができ、それはいいことですが、共感は人々が苦しみから抜け出すための本当の助けにはなりません。思いやりとは意志なのです。状況を少し俯瞰して、『どうしたらあなたを助けられますか? 私に何ができますか』と尋ねる。共感+行動が思いやりです」

ホーガード氏は、この方程式に現実を加え、「賢明な思いやり(コンパッション)」と呼ぶものをリーダーたちに実践させようと考えている。知恵とは、現実をよく見て、それに従って行動する能力である。思いやりとは、人のために役立とうとする意志だ。

ポテンシャル・プロジェクトが行った調査では、世界5,000社、15,000人のリーダー、15万人の従業員のデータに基づくと、「賢明な思いやり(コンパッション)」とリーダーのランクの間に直接的な相関関係があることが立証された。また、「思いやりがあると自己評価しているリーダーは、思いやりがあまりないリーダーに比べてストレスが66%低く、退職の意思が200%低く、自己効力感が14%高いことがわかった」とホーガード氏とカーター氏は記述している。(伝統的な男女の特性を信じる人は、男性リーダーの方が女性リーダーよりも「賢明な思いやり」をもっている自覚があるとみている。しかし、従業員はそれに賛同しておらず、その点では男性リーダーよりも女性リーダーの方を高く評価している)。

では、どのようにすれば、難しい問題についての人々との会話に、「賢明な思いやり」を持ち込むことができるのか。ホーガード氏は次のようなアドバイスをする。

まず最初に、何をどのように話すか、相手からどのような質問を受けるか、どのように答えるかを考え、準備する時間をとろう。「自分にとって非常に難しいことは、相手にとってはもっと難しいことなのだ」とホーガード氏は言う。「だから、十分な準備と精神的な余裕を持って会話に臨むことで、その人を尊重することが必要なのです」。

2つ目は、心の中で相手と問題を切り離すことだ。ホーガード氏は、「私たち人間は、『ああ、あの人は悪いことをしたから悪い人だ』と言うのはとても簡単だが、一般的にそれはあまりうまくいかない」と述べている。この落とし穴を避けるには、目の前に座っている人のことを、ただ役割を果たすべき従業員として見るのではなく、その人全体を観ようとすることが必要だ。

3つ目は、相手に選択肢を与えることだ。「選択肢を与えることは、会話を容易にするものではありませんが、あなたが相手を気にかけていて、このプロセスを通じて一緒に働きたいというメッセージを伝えることができる」とホーガード氏とカーター氏は述べている。「選択肢を与えることは、たとえ小さなことであっても、自分でコントロールできるという感覚を提供することができる」。

4つ目は、会話の中で、相手に反応するのではなく、対応することだ。ホーガード氏は、「私たちが話をしたCEO達は皆、自分が反応したために会話が喧嘩のようになってしまったという実例を持っていた」と述べている。「あなたの仕事は、常に対応することであり、決して反応しないことです」。

5つ目は、言うべきことを言い、そして相手に返答する時間を与えることである。ホーガード氏は、「あなたが反応すると、それは基本的に誰かの目の前で爆弾を爆発させるようなものだ」と言う。「そうなったとき、人は空間と時間を必要とする。あなたはただそこにいて、彼らが自分のペースで対応するのを助ける必要がある」。

どのケースも、難しいものではない。実際、あるCEOは、思いやりのあるリーダーになるための方法を、非常にシンプルかつ印象的な言葉でホーガード氏に伝えている。「マネジメントを忘れ、人間であることを学び直せ」と。


【筆者について】
セオドア・キンニ(Theodore Kinni)氏は、ビジネスライター・編集者。業界や地域を問わず、一流のコンサルタント、企業、非営利団体と以下の執筆と編集を手掛ける。
・書籍:20冊以上のビジネス書の執筆、ゴーストライティング、および編集。
・ホワイトペーパー/レポート:100以上のホワイトペーパー/レポートのゴーストライティング、および編集。
・記事、論説、レビュー: ビジネス雑誌、新聞、ブログ、ウェブサイト向けに、数百の記事の執筆、ゴーストライティング、および編集。

【翻訳】Hello, Coaching! 編集部
【原文】It’s not enough for CEOs to empathize with employees
(2022年4月18日のstrategy+business magazineに掲載された記事の翻訳。 strategy+business magazineの許可を得て翻訳・掲載しています。)
© 2022 PwC. All rights reserved. PwC refers to the PwC network and/or one or more of its member firms, each of which is a separate legal entity. Please see www.pwc.com/structure for further details. www.strategy-business.com. Translation from the original English text as published by strategy+business magazine arranged by COACH A Co., Ltd.


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※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

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