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クライアントの言葉を効果的に扱うには?
2022年12月27日
コーチングの会話において、クライアントの言葉を「繰り返すこと(Reflcting)」「要約すること(Summarizing)」「言い換えること(Paraphrasing)」は、コーチが学ぶべき重要なスキルだ。重要なのはスキルそのものだけではない。何を、そしてどのように「それら」を行うのか(サイエンス:理論)よりも、いつ行うか、そして実際に「本当に」行うのか(アート:実践)が重要であることが多い。私が新人のコーチについて気づいたことは、このスキルは、コーチングの中でクライアントの話したことを繰り返し、要約し、言い換えるスキルとして時に必要以上に使われていて、必ずしもクライアントのために常に役立つとは限らない可能性があるということだ。それは、コーチの「聞く」力を示すための行動としてこのスキルが使われるからである。
このブログでは、これら3つのコーチングスキルを取り上げ、クライアントにとって最も有効なタイミングを探る。これらのスキルに含まれる主なコンピテンシーは、国際コーチング連盟(以下ICF)が定める「コーチのコア・コンピテンシー」の「6. 積極的傾聴」だ。その定義は、コーチは、「クライアントの状況を理解して流れを読み取り、それまでのやりとりをすべて踏まえて、クライアントの自己表現を支援するために、クライアントが何を話し何を話していないかに焦点を当てている」である。
では、それぞれを順番に見ていこう。
繰り返し(Reflcting)
コーチングにおける「繰り返し」は、その言葉の通り、クライアントに対して鏡を差し向けるように、コーチがクライアントの言ったことを繰り返すことである。これにより、クライアントは自分が何を言ったか、時にはどのように言ったかを聞くことができる。コーチがクライアントに対して繰り返すのは、クライアントが言った一文全体であったり、使われた言葉の一部であったり、あるいは一語であったりする。
では、「繰り返し」の目的は何か?それは、単に言われたことを明確にし、理解するためかもしれないし、または、意味の理解を確認するために、質問のかわりに試してみる方法のひとつとして行うこともできる。
たとえば、クライアントがこう言ったとする。
「私のチームメイトとマネージャーが喧嘩をしているんです。私は本当に彼に腹を立てているんです」
コーチがクライアントの視点を理解するためには、「彼」がマネージャーを指しているのか、それともチームメイトを指しているのかを知る必要があるだろう。コーチは、「彼?」という言葉を、問いかけるような表情で繰り返すだけでよいかもしれない。
そのように問うと、クライアントはこう答えるかもしれない。
「ええ、同僚です。この状況は私を厄介な立場に追い込み、私はどう対処していいかわからないのです」
また、コーチが聞いた言葉の中で、クライアントにとってより重要な意味を持つと思われる言葉を繰り返すこともあるかもしれない。クライアントがある言葉を何度も繰り返したり、強調したりすることがあるが、シンプルにその言葉を「繰り返し」、言い直すことが有効な場合もある。
これらのことによって、コーチは、クライアントの言葉を明確にし、的外れかもしれない事柄を無駄に取り上げることなく、クライアントの文脈や視点を理解することができる。また、クライアントは、自分が何を言っているのか、どのように言っているのかをコーチから聞くことができ、新しい探索ができるかもしれない。
要約(Summarizing)
要約とは、コーチが具体的に聞いたことを、クライアントの言葉で短くまとめ、クライアントに返すことだ。
解釈や追加、判断なしに、聞いたことだけを要約することが重要で、そのためには、クライアントの言葉を使うことが不可欠だ。要約の最後に、クライアントにコーチが正しく問い直したかどうか尋ねるのも効果的だ。こうすることで、コーチはクライアントの発言を明確に理解することができ、クライアントは自分が意図したことが言えていたかどうかを確認することができる。
「要約」は、クライアントと一緒に、コーチングセッションで探求する必要のある取り組みが何であるかを発見し、明らかにしていくときに、とても役に立つ。クライアントがまだ取り組みたいことを統合できていないこともあり、特に焦点を当てるべき部分がいくつかありそうなときに、要約の形で繰り返すことが役に立つ。要約で明確化した上で、前進させるような質問をして探索を開始することが効果的だ。
クライアント自身の言葉を使って要約することは、前進させるような質問をその後に続けることがこの時点でなぜ役立つのかという理解を深めることができる。
新人のコーチは、クライアントが沈黙するたびにクライアントの言葉を要約し、「私に今聞こえてくるのは...」と話し始めることがある。ここで浮かんでくる疑問は、「この要約は誰のためになるのだろうか」ということだ。このように要約することで、コーチが次に何を尋ねるか考える間をつくる方法として使われることもある。非常に饒舌なクライアントの場合、要約の後に前進するような質問をしない限り、これはクライアントがさらに話をすることを助長させるだけになりかねない。「私に今聞こえてくるのは」のようなフレーズは必ずしも必要ではなく、単に要約したことを伝えるだけでいい。
要約は有効なスキルだが、頻繁に使いすぎると、クライアントが取り組むのではなく、コーチがクライアントのために取り組むことになりかねない。コーチング・セッションが次にとるべき行動の話に差し掛かってきたら、要約を提供する必要があるのはクライアントであって、コーチではないことを私は提案したい。そうすることで、コーチはクライアントにとって何が重要で、セッションから何を得ているのかを理解することができる。もしコーチが次にとる行動などを要約してしまうと、クライアントが実際に何をするのか、何を学んでいるのかを聞くよりも、コーチが考えるクライアントが「すべき」ことに焦点が当たってしまう可能性がある。(ICFのコア・コンピテンシー 8.6「コーチは、クライアントがセッション中やセッション間で得た学びや洞察を、クライアントと共にまとめている」を参照してほしい。)
言い換え(Paraphrasing)
言い換えとは、クライアントの言葉の元となっているものや意図を変えることなく、コーチ自身の言葉で、クライアントが言っていることの「本質」を繰り返しながら表現することだ。言い換えは、クライアントが本当に聞かれたかどうかを知るのに非常に役立つ。要約は、クライアント自身の言葉を返すことだ。一方で言い換えは、コーチが聞き取ったと信じるクライアントの言葉の意味を会話の文脈の中で再現することだ。これにより、クライアントは、自分が話を聞いてもらい、なおかつ理解されたことを潜在的に知ることができる。それがうまくいくと、共感と信頼が高まる。コーチが別の意味にとらえたとしても、問題ではない。なぜなら、クライアントは自分の考えが十分に伝わっていないことに気づき、新たな考えや追加したいこと、加えたいニュアンスを伝えることができるからだ。
繰り返し、要約、言い換えのサイエンスとアートは、コア・コンピテンシー 6.「積極的傾聴」に主に含まれる。 6.2では、コーチは、「クライアントが伝えた内容を反復または要約することで、明確な理解に努めている」ことが明確に定義されている。しかし、そのコア・コンピテンシーをさらに深く見ていくと、6.3 コーチは、「クライアントが伝えている以上のものがあることを認識し、問いかけている」(おそらく言い換えを用いる)、6.5 コーチは、「クライアントの言葉、声のトーン、ボディーランゲージからの情報を統合し、伝えられていること全体の意味を把握している」(おそらく要約と繰り返しにあたる)にも、これらのスキルが反映されていることが分かるだろう。
これらのスキルは、他のコア・コンピテンシーでも見ることができる。そして、このスキルをうまく活用できると、クライアントの発達と成長をサポートし促進するために非常に重要な、コーチとクライアントの間のパートナーシップを、さらに強いものにすることができると私は伝えたい。
こちらの2つの問いをもって、いまいちど振り返ってもらいたい。
- これらの重要なコーチングスキルのサイエンスとアートにおいて、あなたの強みはどこにあるのか?
- どのようなときに、繰り返し、要約、言い換えのスキルを使い過ぎたり使わなすぎたりするのか?
【筆者について】
ヒラリー・オリバー(Hilary Oliver)
国際コーチング連盟(ICF) マスター認定コーチ
オリバー氏は、ICFのマスター認定コーチ(MCC)であり、コーチの育成、マネージャーやリーダーのコーチング能力向上に携わっているほか、国際的な企業のエグゼクティブおよび役員レベルへのコーチング、リーダーシップ開発のデザイナー、ファシリテーターとして、さまざまな組織で活躍している。また、組織にコーチング文化を醸成するための支援にも従事。元英国ICFの会長、元ICFグローバル・ボードの議長。
【翻訳】Hello, Coaching! 編集部
【原文】The Science and Art of Reflecting, Summarizing and Paraphrasing(2022年8月15日に Coach U Blog に掲載された記事の翻訳。許可を得て翻訳・掲載しています。)
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