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成功するリーダーが「問い」を大切にする6つの理由

【原文】Six reasons successful leaders love questions
成功するリーダーが「問い」を大切にする6つの理由
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質問したり、誰かの問いに耳を傾けたりすることは、リーダーが優れた意思決定をするために役立つ。

質問を書き出すことは何をもたらすのか

プレゼンテーションをはじめる前に、まずは参加者に質問をひとつ書き出してもらう。いまでは、これが私の癖になっている。書き出す際に守ってほしいルールはふたつ。ひとつは、その問いがコンテクストを踏まえたものであること(たとえば、組織内あるいは組織を超えたリーダーシップをテーマとするリーダーミーティングの場であることを踏まえている)。もうひとつは、質問者本人が回答を求めていることだ。

2分間の考える時間が終わると、90%の人が何かしらの質問を書き終える。そのタイミングで私は「次に何が起きるかまったくわからない状況で質問を考えるのは難しかったですか?」と尋ねる。すると、ほとんどの人が「はい」と答える。なぜなら、質問を書き出すことで否応なしに以下のことを求められるからだ。

  • 何が重要か自ら判断すること
  • 他人の状況を考慮すること
  • 共通のゴールという観点から自らのインプットを考えること

問いの本質や問いが与える影響に関する私の研究について話しはじめる頃には、彼らは「成功するリーダーが問いを大切にするのはなぜか?」という質問を自ら問いかけ、自分で考え、それについてお互いに話し合っている。では、成功するリーダーが問いを大切にするのはなぜだろうか? それは、他の誰かに質問を求め、それに耳を傾け、それに答えることで、より優れたリーダーになれるからだ。そのための方法論もある。偉大な思想家たちの6つのアイディアに端を発するこの方法論に基づき問いの力を活かすことで、リーダーたちは優れた意思決定を実現し、共感力を高め、目的に向かって行動できるようになる。私はこれを「魔法の質問トライアングル」(図)と呼んでいる。

問いに基づく文化を構築する

エグゼクティブのアドバイザーとして18年間働いてきた私だが、「魔法の質問トライアングル」のように2分以内にリーダーに何が重要かを決めさせ、他人の状況に目を向けさせ、会社あるいはチームの共通のゴールという観点から自らのインプットを考えさせる理論や方法論あるいはツールに未だ出会ったことはない。作り込まれたマニュアルやプロセスでも不可能なことをそれほど短時間にリーダーたちに自発的にさせる、この問うという行為はいったい何なのだろうか? では、「魔法の質問トライアングル」を構成するアイディアを見ていこう。

魔法の質問トライアングル

成功するリーダーが問いに基づく文化を構築するために計画的に行動するのはなぜか? 6人の著名な思想家がその答えを紐解く。

1. 人間だけが問う

私が初めてプレゼンテーションの冒頭で参加者に質問をひとつ書き出してもらったとき、ドイツ系アメリカ人の神経科医エルヴィン・W・シュトラウスから得た着想を大いに頼りとしていた。シュトラウスは、医療人類学と精神医学という分野の確立に貢献した人物である。彼は、「質問するという行為は誰かに教えられるものでもなければ、教える人を必要とするものでもない。最初の質問は、健康な子どもであれば誰でも人生の早い段階でその実存の根源から生まれる。私たちが質問するのは、問うことが人間の本質だからである」と述べている。

1955年に発表された論文『Man, a Questioning Being(問いかける存在としての人間)』の中でシュトラウスは、人間を「質問する動物」と理解すべきだと見事に論じている。だとすれば、しかるべきコンテクストとちょっと考える時間さえあれば、誰だって洞察力に満ちた質問ができるのでは?と私は考えた。このアイディアを実行したプレゼンテーションの最初の10秒間は難しい状況だった。その場に集まった数百人のリーダーたちが困ったような表情を浮かべていた。だが、すぐに変化があらわれた。壇上から様子を見ていると、最初の困惑が直感的に好奇心に変化するのがわかった。30秒後にはめいめい質問を書きはじめ、やがて2分の時間が終わると、はやく発表したいと誰もがソワソワした様子になった。

私はある集合的なスーパーパワーを発動させたのだ。人間とは何かを定義し、その他の生き物と人間を区別するもの、すなわち「好奇心」という名のスーパーパワーを。ジャン=ポール・サルトルと同時代人のフランスの哲学者モーリス・メルロ=ポンティによれば、完全に無知な存在(動物)と全知の存在(神々)は質問することができない。両者の「壊れやすい混合物」である人間だけが知識を増やしたいという特異な欲求をもち、そのために質問するという。私たちは、知るべきことをすべて知っているわけではないことを知っている。だからこそ、たった数秒でも集合的意識に基づいて、質問の答えを見つけるには互いが必要だということを悟る。私はプレゼンテーションの間、その実例を目の当たりにした。

2. 問いかけることで、私たちはより優れた解決者になれる

リーダーたちに質問を書き出してもらったあと、「その回答はどこから得られると思うか?」と尋ねて、3つの選択肢を提示した。(1) 自分自身、(2) 他者、(3) (まだ)答えがないと思われるため調査したり、さらに質問したりすること。リーダーたちの多くが最初のふたつを選択した。つまり、彼らが質問をする主な理由はすぐに回答がほしいからということを意味している。

物理学者のアルベルト・アインシュタインによると、質問するのは回答を得たいからではなく、問題を解決するためである。先の見えない今日の時代にあって難問を解決するには、慌てて答えに飛びつくという誘惑に抵抗しなければならない。アインシュタインは、「自分の命がかかっているある問題を解決するのに1時間与えられたとしよう。私は最初の55分間で正しい質問が何かを考える。問うべき質問さえわかれば、残りの5分以内に問題を解決できる」と語ったそうだ。しかるべきタイミングでしかるべき問題を確実に解決したいリーダーは、ぜひアインシュタインの言葉を実行に移してみよう。

3. 問いはデータである

回答を求める場所として3つの選択肢を与えることで、私は伝統的な会議をダイナミックなものにした。集団の知恵というコンセプトをただ紹介するのではなく、各人の質問を互いに出しあうよう指示を出した。シュトラウスによれば、グループの集団的な知力を動員し、総覧するのにこれ以上よい方法はない。前述の『Man, a Questioning Being』によると、「問いは夢と同じくらい、あるいはそれ以上に啓示に満ちている。どの質問を選ぶかは歴史的、社会的、文化的な条件に左右される。したがって、ひとりの人間、国家、あるいは時代を鼓舞したり、扇動した質問、あるいは不安に陥れそうになった質問の一覧を作れば、深い歴史的洞察が得られる」とある。

シュトラウスの言葉を現代的に訳すなら、問いはデータであるということになるだろう。こうしたデータを活用したいと考えるのであれば、リーダーは自分ひとりでみんなの問いに答えようとするのではなく、対話の相手である彼らの社員が会社全体のパーパスに最大限の影響を与える問いが何かを知り、互いに協力してその答えを見つけやすくすることに力を入れなければならない。その一例だが、私が大企業と仕事をする場合は、社員の間で互いにどのような問いが交わされているかをリーダーに把握してもらい、組織内のグループ・ダイナミクスを分析するための支援を行っている。これによってリーダーは重大な問題を特定できるだけでなく、同時に解決に必要な人材を動員することができる。

4. 問いは、重要な判断を下すことを私たちに強いる

問いを夢になぞらえるのはシュトラウスならではの表現だが、それは、問いが質問者本人の無意識の領域をより深く理解するための鍵になるということを意味する。社員がなぜそのように考えるのかを理解しようとしたり、必要に応じて彼らの考え方や行動を変える手助けをしたりすることは、決して簡単なことではない。このため、リーダーは質問を通じて組織の文化や習慣をより深く理解できるようになると考えるのも理にかなっている。

1988年の論文『Toward a History of the Question(問いの歴史を求めて)』の中でオランダ人の哲学者C・E・M・ストリュカー・ブディエは次のように述べている。「問いにおいて、また問うことによって、人間は神の領域に到達しようとすることもできれば、同様に悪魔的な邪悪なものに堕すこともできる」。問いは、善と悪、イエスとノー、賛成と反対という選択を迫る。問うことは、選択することと密接に関係している。人間は一度にすべてのことができない。このため、問うことによって何にどのようにフォーカスするかを決めなければならない。その際、私たちはさまざまなアプローチを選択できる。楽観的か悲観的か、抽象的か具体的か、個人的か集団か、広いか狭いか、過去志向か未来志向かなどだ。

プレゼンテーションの前に質問をひとつ書き出すよう私が指示すると、リーダーたちは困った顔をする。なぜなら、新しい情報や洞察もなく判断することに慣れていないからだ。しかし、最初の段階で自分の質問を形にすることで、私の話に耳を傾ける前に自分の思考のスイッチを入れる。そうすることで、学んだことをその通りに行うのではなく、今までとは異なるやり方で何をすべきなのかという問題に取り組むようになる。

組織の文化を変える鍵は、相手に何をするべきかを説くのではなく、それぞれが今の行動を振り返るような問いをしやすくすることだ。同僚や社員、その他の関係者が自ら問いかけ、各人の経験や洞察を活かす場をリーダーが設けてこそ、新しい取り組みを支持することが彼らの能動的選択となり、その結果、彼らが主体的に行動するようになるのである。

5. 問いがなければ、変化もない

相手に質問させることは、簡単そうに思えるかもしれない。しかし、実際はそうではない。その人の困惑が好奇心に変わるという保証は何もないからだ。

初めて質問を書き出すよう指示を出したあとの沈黙は、居心地の悪いものだった。というのも、ここでプレゼンテーションを中断する自分の判断がよかったのか、リーダーたちが指示通りに質問を書いてくれるかどうかわからなかったからだ。彼らのまなざしが変化しなかったら、この気まずい沈黙から彼らも自分も抜け出すために何とかしなければいけないと思ったはずだ。しかし、彼らの目つきが変わりはじめた。それもたった10秒で。それはなぜか? ドイツ出身の哲学者ハンス=ゲオルク・ガダマーは、1960年の著書『Truth and Method(真理と方法)』の中で「人間は、問いかけるという行動なしに経験を構築することはできない」と述べている。これは、裏返すと次のような意味になる―質問するときは、相手だけでなく、質問者本人も新しい知識に対してオープンになり、その知識から何かを学ぼうという意欲をもつ。だからこそ、私たちは問いかける。だからこそ、社員に新しいことを学んでほしい、自分たちで解決する力も身につけてほしいと心の底から願うリーダーは、問いがなければ変化もないというモットーを信じなければならない。

6. 問いは社会ネットワークを促進する

相手に問いを促してそれに耳を傾けるというプロセスを信じることは、問いを社会的プロセスの一環と捉えることを意味する。それは、自分自身と周りの人々のことをより深く理解するための行為となる。

しかし、自分自身と相手を理解したいという思いだけが、問いかけをする社会的動機ではない。1978年の著書『Questions and Politeness: Strategies in Social Interaction(問いと礼儀―社会交流における戦略)』の中で人類学者のエスター・N・グッディは、次のように述べている。「問いには、情報を得たいという欲求だけでなく、命令という機能も備わっている。問うことは、ふたりの人間を直接的かつ即時的な交流の場に置く言語行為である。こうすることで、関係性、相対的な地位、地位への自己主張、地位に対する異議といったメッセージを伝達する」。グッディの見解は、問いをいつ、どのように、何のために活用するのか(または活用しないのか)に細心の注意を払わなければいけないことをすべてのリーダーに気づかせてくれる。誰に質問する権限を与えて誰に与えないかという判断は、責任を分配するための強力な手段になる。その際、すべてのリーダーは「どのようにこの力を効果的に用いるべきか、置かれているコンテクストに対して各人に責任をもたせるにはどうしたらいいか?」と自問しなければならない。

私はなにも、質問をするたびに誰もが自然に優れた人間になり、問題を解決したり、知識を共有したり、習慣を変えたり、自分に自信をもったり、会社やコミュニティの一員として責任をもつようになると言っているわけではない。ただ、リーダーたちが魔法の質問トライアングルを体系的に活用することで、こうしたことが組織内で生じる可能性が非常に大きくなるのである。


【筆者について】
ピア・ロウリッツェン(Pia Lauritzen)氏は、経営者のアドバイザーであり、戦略的アライメントを確保するためのプラットフォームを開発したテクノロジー企業、Qvestの共同設立者でもある。デンマーク出身で、哲学の博士号を持ち、リーダーシップと問いに関する複数の本を執筆しているほか、デンマーク最大のビジネス新聞「Finans」の定期コラムニストも務めている。2019年のTEDxでの講演タイトルは 「質問についてあなたが知らないこと」である。

【翻訳】Hello, Coaching! 編集部
【原文】Six reasons successful leaders love questions
(2022年7月20日のstrategy+business magazineに掲載された記事の翻訳。 strategy+business magazineの許可を得て翻訳・掲載しています。)
© 2022 PwC. All rights reserved. PwC refers to the PwC network and/or one or more of its member firms, each of which is a separate legal entity. Please see www.pwc.com/structure for further details. www.strategy-business.com. Translation from the original English text as published by strategy+business magazine arranged by COACH A Co., Ltd.


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