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今、リーダーが直面する問題の答えはどこにあるのか?

【原文】In search of clarity
今、リーダーが直面する問題の答えはどこにあるのか?
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難しい決断を下さなければならないCEOのことを、私はこれまで羨ましいと思ったことは一度もない。キャリアの選択ではワーク・ライフ・バランスを崩したり、家庭を犠牲にしたりする。会社や従業員を危険にさらす戦略的な決断に迫られることもある。さらに、昨今は社会正義や公正性、政治上のイデオロギーや政治対立、環境の持続可能性などに関連した広範な倫理問題に頭を悩ますことも多くなっている。

運がよければ、こうした決断が必要になることはそう多くはない。しかし、いざそのような事態になったら、ほとんどのリーダーはアルゴリズム解析と同じくらい、あるいはそれ以上に内省に頼らざるを得ない。結局のところ、ウクライナ戦争、フロリダ州の教育における親の権利法、ブラック・ライブズ・マター運動などに対し個人あるいは組織としてどう対応すべきかについて、AIによる解析がどれほどの示唆を与えてくれるだろうか?

そもそもこうした状況への対応を導き出すこと自体が難しいが、さらにいくつかの条件も絡んでそれが一層難しいものになる。権力や権威というマントをまとう組織のトップであれば、弱みを露呈したり、優柔不断や不勉強と思われたりするのを恐れて、誰かに助けを求めたくても躊躇してしまうかもしれない。信頼性の問題もある。きわめて協力的な社風であっても、経営幹部やその他の役員たちにはそれぞれの思惑や野心があって、それがCEOへのアドバイスを偏ったものにするかもしれない。

「クリアネス委員会」という手法で自分の内面の声を聞く

「クリアネス(明確化)委員会(Clearness Committee)」と名付けられた手法は、こうした問題を防ぎながら、リーダーが厳しい決断を下せるようにする仕組みである。このコンセプトは、17世紀にイギリスで生まれたプロテスタントの一派、クエーカー教徒の価値観に根ざしている。ここ半世紀ほどの間に、宗教とは無関係な場でも用いることができるものになった。そのプロセスで重要な役割を果たしたのが、サウスカロライナ州にあるCenter for Courage & Renewal(勇気・再生センター)の共同創設者で名誉シニアパートナーのパーカー・J・パーマー氏だ。

クリアネス委員会はクエーカーの二つの教えを前提にしている。パーマー氏は次のように説明する。「一つは、人は誰しも自分の生き方を見いだすための貴重なリソースを自分の中にもっていること。クエーカーの伝統では、内なる光、内なる教師ともいう。どう呼んでもかまわないが、この内なる声が私たちを正しい方向に導いてくれる。もう一つは、私たちの内面には歪んだ声もあるということだ。貪欲、恐れ、怒り、嫉妬、暴力の声。内なる教師に頼る場合、自分が耳を傾け、従っているのはどちらの声かを見極める仕組みが重要になる」

この二つの原則に沿って、クリアネス委員会は5~6人のメンバーで構成され、何らかの決断を下す必要のある当時者とともに集まり、2~3時間、その人の問題に集中し、その問題について当事者に質問をする。「クリアネス委員会のメンバーは、問題を抱える当事者に対して、心の奥深くで対話を促すような自由で誠実な問いかけをするだけで、それ以外の発言は禁じられる」とパーマー氏は言う。「解決も救済も不要、助言や訂正もしない、これが鉄則だ。相手がどう行動すべきかについてのあなたの意見は当の本人には無意味だからだ。重要なのは、本人が自分の内面の声に耳を傾けることであり、良くも悪くもそれが当事者を導く指針となる」

問いかけ続けることの価値

委員会のメンバーにとって、このガイドラインに従うのは並大抵のことではない。まず、2時間ものあいだ、口を挟んだり、自分の経験を話したりせず、他人の話にだけ集中するというのは日常的なことではない。そのうえ「誠実な質問」をするのは意外と難しい。「実は助言となっている質問をすることが多いし、研修などでそうするよう教えられたりしていることもある」とパーマー氏。「たとえば、『セラピストに相談しようと思ったことはありますか?』というのは誠実な質問ではない。実際は、『セラピストに相談すべきですよ。質問しているみたいですが、実はこっそり助言しています』ということになる」

悩んでいる状況について話す相手の様子を観察し、ひたすら耳を傾けるというのはあまりにも受け身と思われるかもしれないが、解決策をブレインストーミングしたり議論したりするのと同じくらいに有益なものになり得る。「素粒子にこうすべきだとかこうすべきでないとか助言してノーベル賞を獲得した人はいない。世界のあらゆる現象に対してこうした探求ができるのなら、『この問題において自分は何者なのか、心から望んでいることは何なのか』と悩んでいる人にも同じようにすればよい」とパーマー氏。

したがって、クリアネス委員会の出す結果は必ずしも具体的な解決策ではない。悩んでいる当事者がその問題を明確にとらえることが重要である。「たとえば、あなたがキャリアについて悩んでいると打ち明けてくれても、何があなたにとってよいのかこちらにはわからない。しかしやりとりをしているうちに自分にとって何が正しいのかが見えてくればよい。その状況に対して、自分の内面の奥深くにある本当の考えや気持ちを理解できればよいのだ」

教育機関の指導者を対象にした研修でパーマー氏が行ったクリアネス委員会で、その違いが具体的になった。そのときの当事者はある大学の学長で、黒人教授が発表した反ユダヤ主義的な研究によって議論が触発され大騒動になりかねない事態にあった。メンバーたちは早速、大学の法的代理人や責任について学長に質問しはじめた。しかし学長は事態にどう対応するかについて助言を求めていたわけではなく、その状況の中で自分の姿勢を理解したいと望んでいた。最終的に学長は、自分が望んでいるのは冷静であること、宗教的・人種的偏見、学問の自由、言論の自由が学内で衝突するのを防ぐことだと悟った。そこから常識にとらわれない解決策が生まれた。問題の研究の妥当性について学長と教授とが公開討論を行い、事態を沈静化させることに成功したのである。

成功するために必要なリーダーの態度とは

クリアネス委員会が組織外に場所を設け、組織外の人間が委員会のメンバーになり機密保持を誓約して開催される一つの理由は、自分の問題を打ち明け、弱みをさらけ出すことがためらわれるためだ。「競争が激しく、食うか食われるかのビジネス文化に放り込んで、何か良いことが生まれるだろうと期待してもだめだ」とパーマー氏は釘をさす。「誠実にならなければいけない。さもないと何の意味もない」

クリアネス委員会のような仕組みは、協調性が浸透している組織ならうまくいくだろうし、あるいはそうした文化を構築するためのツールとしても効果的に使える。パーマー氏によれば「発達指向型組織(Deliberately Developmental Organization:DDO)はクリアネス委員会を試すのに理想的な環境で、医療、教育、社会変革、非営利団体などの分野のリーダーがよく活用している」とのことだ。先ほどの大学の学長は、研修での経験を機に大学でクリアネス委員会を立ち上げたが、その時点ですでに大学には協力的なリーダーシップ・チームがあり、組織内のコーチもいた。

しかし突き詰めれば、クリアネス委員会を成功させるうえで仕組みは二次的なものであり、何より重要なのはリーダーの態度である。「このジレンマについて自分の気持ちや考えをさらけ出せる場が必要だ、自分の中にある他の解決策を見つける手助けをしてほしい、と言えるだけの自信をもったリーダーである必要がある」とパーマー氏は言う。そのようなリーダーであれば、クリアネス委員会は、競うようにして注意を引こうとするありとあらゆる声の中から内なる真実の声を聞きとり、それに少しでも近づける手段になる。

【筆者について】
セオドア・キンニ(Theodore Kinni)氏は、strategy+businessに寄稿するライター。ビジネスライター・編集者として、業界や地域を問わず、一流のコンサルタント、企業、非営利団体と協働している。

【翻訳】Hello, Coaching! 編集部
【原文】In search of clarity
(2022年11月15日のstrategy+business magazineに掲載された記事の翻訳。strategy+business magazineの許可を得て翻訳・掲載しています。)
© 2022 PwC. All rights reserved. PwC refers to the PwC network and/or one or more of its member firms, each of which is a separate legal entity.
Please see www.pwc.com/structure for further details. www.strategy-business.com. Translation from the original English text as published by strategy+business magazine arranged by COACH A Co., Ltd.


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※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

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