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リーダーよ、汝自身を知れ

【原文】Leader, know thyself
リーダーよ、汝自身を知れ
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エグゼクティブとしてパフォーマンスを上げるためにやるべきことは、自分の思考について考えること

「自己認識」の芽生えは古代ギリシアに始まっていた

2500年前、巫女(みこ)、ピューティアたちが神託を下したことで知られるデルフォイ(古代ギリシアの聖地)のアポロン神殿の柱に、何者かが「汝自身を知れ」と刻んだ。ひとりの巫女に「古代世界において最も知恵ある者」とされたソクラテスは、この格言について弟子のクセノフォンやプラトンと議論し、これは自己を認識せよ(神々に従属しないこと)という忠告だとし、近代的な解釈の基盤をつくった。今日、自己認識―あるいは心理学者や神経科学者がいうところのメタ認知―は、リーダーにとって特に重要なものになっている。

ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのウェルカムセンター・フォー・ヒューマン・ニューロイメージング主任研究員で、『Know Thyself:The Science of Self-Awareness(汝自身を知れ:自己認識の科学)』の著者スティーブン・M・フレミングによると、メタ認知とは「ものごとをどのように記憶し、知覚し、決断し、思考し、感じているかなど、自分の心の内を見つめ、それについて考え、知るための心の能力である」。まさに自分がどう考えるかを考える能力のことだ。

この能力は脳の回路に組み込まれており、2つのプロセスで機能している。1つはほとんど無意識に行われ、不確実性を評価するプロセスであり、もう1つは通常、意識的に行われ、自分の内面の状態や行動を監視する機能だ。フレミングは、この暗黙のメタ認知と明瞭なメタ認知の連携を飛行機の自動操縦システムとパイロットの相互作用にたとえている。自動操縦装置は飛行機の動作を監視・調整し、パイロットは自動操縦装置の動作を監視・調整する。「ただ、この相互作用がすべて1つの脳の中で行われている点だけが違う」と言う。

自分自身を認知することは困難を極める

私たちの脳にはメタ認知の機能が備わっているのに、奇妙なことに自分自身を認知することはそう得意というわけではない。ベンジャミン・フランクリンは、1750年版の『プーア・リチャードの暦』の中で、「非常にハードな(硬い・難しい)ものが3つある。鋼鉄、ダイヤモンド、そして自分自身を知ること」と書いている。もし自分を知ることが簡単なら、認知バイアスの例を200も列挙したウィキペディアのページはかなり短くなるだろうし、ノーベル賞受賞者のダニエル・カーネマンが著書『ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか?(邦訳)』で以下のように警告することもなかったかもしれない。「世界は理にかなっているという心地よい確信は、ある堅固な土台の上に成り立っている。それは自分の無知を無視できるほぼ限界なき能力である」と。

多くの研究がメタ認知能力をリーダーのパフォーマンスに結びつけている。メタ認知能力は創造的な問題解決や意思決定、批判的思考、学習と関連づけられているが、それももっともだ。リーダーが競合他社や顧客、様々な文化などについて知らないことに気が付かなかったら、戦略的にも組織的にも、そして自らのキャリアにおいても大きな落とし穴となりかねないからだ。

ハーバード・ビジネス・スクールのデイビッド・フビニ教授は、著書『Hidden Truths: What Leaders Need to Hear but Are Rarely Told(隠された真実:リーダーに誰も語らない耳を傾けるべきこと)』の中で、よくある危機の原因として、CEOが引き際を見誤り、取締役会から解雇されることと指摘している。ピラミッドの頂点に上りつめるほど有能なエグゼクティブなら、自分の立場や居場所のことがよくわかり、客観的に理解できると思われるかもしれない。しかしフビニの言葉を借りれば、「組織はCEO自身が思っているよりはるかにCEOに批判的」だ。それはなぜか。フビニによれば、エゴ、否認、楽観、傲慢なプライドなどが邪魔をしてものが見えなくなってしまうからである。

自己認識を磨く3つの方法

このような落とし穴を避けるための方法のひとつが、メタ認知の能力を磨くことである。ここでは3つの方法を紹介しよう。

まず、自分の外側に自分自身を置き、そこから見えるものを考える。ジャーナリングの要領で自分がいま考えていることを書き出し、考えや思考プロセスを具体的にしていく。マインドフルネス瞑想を試してみるのもよいだろう。その瞬間の自分の考えや感情に意識を向けることである。「自己認識を深める簡単にして強力な方法は、第三者の視点から自分自身を見つめることである」とフレミングは書いている。

自己認識を磨く2つめの方法は、自分に対する他人の反応を観察することだ。これは自分が思っているほど効果的なコミュニケーションができているかどうかを確認する早道である。フビニは、CEOたちに自分が相手にどんな影響を与えているかよく観察するようにアドバイスしている。「相手がどのような行動をしているか注視する。敬意を表しているどうか? 身を乗り出して聞いているのか、どっかり腰かけてじっとしているのか? ペンを取ってメモをとりはじめているのか?」

3つめの方法として、客観的な立場のオブザーバー1-2人の助けを借りるのもよいだろう。リーダーに対して率直に意見が言える人を見つけるのは難しいかもしれないが、フビニはそれが不可欠と考えている。「同僚や取締役会のメンバーから率直で客観的なフィードバックをもらうのは難しい。彼らは遠慮するだろうから」と彼は言う。「メンターやコーチに相談したり、キッチン・キャビネット(非公式の信頼できる顧問団)を置くのもよいだろうし、配偶者や子どもに意見を求めることもできる。自宅で最高の洞察が得られることもある」

こうした自己評価の目的は、自己認識を磨くためである。感情的知性(EQ)、心底率直であること、共感力といったリーダーにとって欠かせない特質を形成する重要な要素が自己認識だ。自己認識は学習の前提条件でもある。リーダーが自ら何を期待しているのかを振り返り、実際に得られた結果と比較することができなければ、改善するための土台がないことになる。リーダーは、他の何よりもまず自分自身を知らなければならない。


【筆者について】
セオドア・キンニ(Theodore Kinni)氏は、strategy+businessに寄稿するライター。ビジネスライター・編集者として、業界や地域を問わず、一流のコンサルタント、企業、非営利団体と協働している。

【翻訳】Hello, Coaching! 編集部
【原文】Leader, know thyself
(2021年4月22日のstrategy+business magazineに掲載された記事の翻訳。strategy+business magazineの許可を得て翻訳・掲載しています。)
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Please see www.pwc.com/structure for further details.  www.strategy-business.com. Translation from the original English text as published by strategy+business magazine arranged by COACH A Co., Ltd.


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