Global Coaching Watch

Global Coaching Watch では、海外コーチのブログ記事の翻訳を中心に、世界のコーチング業界のトレンドやトピックスをお届けします。


新時代の後継者候補を定義する5つの問い(後編)

【原文】The five new foundational qualities of effective leadership
新時代の後継者候補を定義する5つの問い(後編)
メールで送る リンクをコピー
コピーしました コピーに失敗しました

前編より:成功するリーダーに必要な基礎的資質を定義するための、未来のリーダーに問うべき5つの重要な問いを紹介する。

(前編はこちらから)

4. マトリクス構造の組織を熟知しているか?

我々の多くは数十年にわたり、主に効率性と予測可能な結果をもたらす組織を構築してきたが、組織の運用体制は、今日のさらに複雑な状況にうまく適応する必要がある。現代のマトリクス構造は、企業を顧客やクライアントのニーズにより迅速に対応させることが可能だ。しかし、マトリクス構造はリーダーシップをとる側にも難題を突きつける。その複雑さは、経営幹部を終わりのない会議と不明確な意志決定に巻き込む可能性があり、組織全体のペースを低下させることがある。有能なCEO候補は、マトリクス構造を様々な方法で活用し、分野横断的な思考やイノベーションを引き出す施策を奨励し、また他の候補者にも同じことを教えている。

「伝統的なビジネススクールのトレーニングでは、どうのようにしてマトリクス化された組織を効果的に統率するかについては語られていない」と、70億米ドルのテクノロジー企業のCEOは語った。「しかし、一方でその利点を受け入れ、マトリクス型リーダーシップに習熟したリーダーは、最終的にチームの能力をフル活用できることになる」とも語っている。彼がこの学びを得たのは、効率的だが中央集権的な運用モデルのせいで、より俊敏な動きをみせる競合他社に一歩リードを奪われたことがきっかけだった。そこで、研究開発部門を顧客の近くに移し、顧客への応答時間を改善させる一方で、より多くのコラボレーションを必要とする少し複雑な組織構造にシフトした。「その結果は、財務面、顧客満足度、従業員のエンゲージメントに表れている」とCEOは語った。

チームメンバー達はマトリクス構造を超えた信頼関係を築くために、時間とエネルギーを費やさなければならず、それが効率化につながる。チームという意識が共有されていないと、人々は自分のユニットの仲間を 「私たち 」ととらえ、他のユニットの同僚を 「彼ら 」ととらえる傾向がある。取締役会や最高経営責任者(CEO)は、共通の目標に向かってチームメンバーと協力できるように慎重、かつ計画的なステップを踏むリーダーを求めている。そのためには、マトリクス構造の中で成功とは何かを定義できるリーダーが必要だ。

ベライゾン・コンシューマー・グループのソウミャナラヤン・サンパスCEOは、「まず重要なのは、成功を分かち合うという概念と、マトリクス構造で評価される指標を理解することだ」と語る。リーダーが陥りがちなのは、優先順位上位に何でもかんでも並べてしまうという罠だ。この状況だと組織内で複雑なシグナルが送られ、チームがリソースや優先順位を巡って争うことになり、組織内部の対立を招くことになる。「サプライチェーンの誰かがコスト削減を望んでいて、他の誰かが収益促進に注力している場合、いくら対話やコーチングをしても、その利害のズレを修正することはできません。だから、明確な指標を持たなければならない。」こうした対策は厳しい選択を反映すべきであり、サンパスはさらに付け加えた。「もし容易に優先順位をつけられるのなら、おそらくそれは何も痛みを伴わない選択肢であり、それはつまり優先順位を付けること自体が、あまり意味をなさないものであるということです。」

5. 候補者は本当に彼らが言うとおりの人物か?

取締役会は、候補者に対して、「彼らは人間として、どのような人物なのか」という新しい、かつ本質的な問いを重視している。誰もが利害関係者であり、あらゆる社内コミュニケーションが社外とのコミュニケーションにも影響する可能性が高い世界では、取締役会は、幹部候補者が社外にもたらす価値観、その価値観が不確実性に直面した際の意思決定をどのように導いているか、自己認識が高いか低いかを確実に理解したいと考えている。

このプロセスを誤ると、何十億という評価額がゼロとなる可能性がある。例をあげよう: スティーブ・イースターブルックは2019年、同僚と関係を持ったことが、会社の方針に違反していたことが明らかになり、マクドナルドのCEOを解雇された。同社の株価は3%も下落し、40億米ドルの価値が消失した。

価値観に関する問いは、身元調査の際に浮上する以外には、従来の能力測定や、心理テストあるいは後継者選出プロセスでは明らかにならない。リーダーシップが高いか低いかを測る際は、候補者のコンピテンシー(戦略的思考、不確実性への対応、エグゼクティブとしての存在感など)のスコアを、自社のデータベースにある他の幹部候補のスコアと比較することに主眼が置かれてきた。各候補者について作成された資料は、あたかも科学的知見に基づいているかのように提示され、取締役会のメンバーにどの候補者のプロフィールが最も安全な選択であるかを示してきた。アポロ・グローバル・マネジメントの人材部門グローバル責任者であるマット・ブライトフェルダー氏は、「企業はしばしば、達成不可能な確実性を追求するあまり、候補者を過剰に絞り込みすぎると思います。どの候補者も、長所と短所が混在しており、それを分析するのは簡単ですが、より重要なのは、彼らが人々がついていきたいと思うリーダーであるかどうかということです」と語っている。

もちろん、人格は科学ではなく、生きた人間の価値観を問うてみなければわからない。そして価値観は、CEOの選抜をあたかも理想的な経営者を作り上げるための「室内作業」のようにアプローチする論理的分析には適さないものだ。単一の抽象的な「正しい」価値観は存在しない。むしろ、実際の候補者の価値観があり、組織の戦略的・経営的現実と照らし合わせ、外部の利害関係者やマクロ経済を背景に設定させていくのが王道だ。それぞれの候補者が示す価値観を明確にすることで、単なる即効的な答えを求めるのではなく、適切な後継者についての議論ができるようになるはずだ。

取締役会での経験から、私たちは2つのシンプルなフレームワーク、すなわちオーセンティシティ(真正性)指標と自己認識指標を開発し、こうした対話を有益なものにした。候補者がありのままでいるかどうか(真正性)を測るために、私たちはエグゼクティブに、彼らが最も大切にしている価値観を長いリストの中から10個選んでもらう。次に、そのエグゼクティブと一緒に働く20人から30人に、同じリストからそのリーダーが最もよく皆に伝えている上位10個の価値観を選んでもらう。候補者のトップ10と評価者のトップ10を比較することで、そのリーダーが意図したとおりに行動しているかどうかが明らかになる。2つのリストがほとんど重ならない場合は赤信号だが、大きなズレがある場合も問題である。たとえば、リーダーの重要な価値感として「近づきやすい」をあげているにもかかわらず、評価者が「政治的だ」や「情報偏重型だ」を選んだ場合、取締役会はそのような不一致を判断材料にすることができる。

自己認識テストは、そのようなリストなしのオープン・クエスションから始まる。リーダーは、自分の一番の強みと開発分野を自ら特定するよう求められる。次に、そのリーダーと密接に仕事をしている10人から15人に詳細なインタビューを行い、同じ質問を投げかける。その結果は、2つの異なる取締役会の議論の材料となる。第一に、リーダーが自称する強みや改善すべき点が、仕事上のチームメンバーがあげたものとほとんど重ならない場合、取締役会は次期CEOにとっては、自己認識の正確さがどの程度重要かを判断することができる。第二に、他者がリーダーをどう見ているかということと、リーダーが自分自身をどう見ているかということに強い相関関係がある場合、それらの強みや開発分野は企業の戦略のニーズとどのように一致するのだろうか。

この微妙なニュアンスを持つアプローチは、決して誤った確証を提供するものではないが、現代のリーダーシップの複雑さと、企業のトップの仕事特有の課題を映し出している。これらの新たな基本原則を総合すると、安定した時代に発展した長年の伝統からの脱却が必要となる。その時代、「優れた」リーダーシップ像は、もっと焦点が絞られたものであった。取締役会もCEOも同様に、このような変化を求めているということは、より予測可能な世界で円滑で安定した成長を実現するために構築されたシステムや構造が、もはや機能しなくなっているということを示している。バーバラ・ハンプトンの言葉を借りれば、「 パフォーマンス・マネジメント劇場 」になっていることを、彼らはすでにだいぶ前から認識しているのだ。

今日、不確実性が大きな課題となっている中、優れたリーダーシップの定義は、その組織のマクロ環境と固有の文化や文脈に合致したものでなければならない。上記の5つの問いは、取締役会がより良い対話を行い、より質の高い意思決定を行い、組織のより持続可能な基盤を構築するのに役立つはずだ。


【筆者について】
デイビッド・ライマー、ハリー・フォイアスタイン、アダム・ブライアントはそれぞれ、シニア・リーダーシップ開発およびエグゼクティブ指導を行うExCoグループの最高経営責任者(CEO)、社長、およびシニア・マネージング・ディレクターである。

【翻訳】Hello, Coaching! 編集部
【原文】The five new foundational qualities of effective leadership
(2023年6月14日のstrategy+business magazineに掲載された記事の翻訳。 strategy+business magazineの許可を得て翻訳・掲載しています。)
© 2023 PwC. All rights reserved. PwC refers to the PwC network and/or one or more of its member firms, each of which is a separate legal entity. Please see www.pwc.com/structure for further details. www.strategy-business.com. Translation from the original English text as published by strategy+business magazine arranged by COACH A Co., Ltd.


この記事を周りの方へシェアしませんか?

この記事はあなたにとって役に立ちましたか?
ぜひ読んだ感想を教えてください。

投票結果をみる

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

リーダー/リーダーシップ 権限移譲/後継者育成 経営者/エグゼクティブ/取締役

コーチング・プログラム説明会 詳細・お申し込みはこちら
メールマガジン

関連記事