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組織のイノベーションを推進するステップとは
2023年10月24日
リーダーは、社員がどこで働いているかに焦点を当てるのではなく、一握りの強力な推進者たちに焦点を当てるべきである。
CEOが社員をオフィスに呼び戻す動きが続いている。その根拠としてよく挙げられるのが、リモートワークがイノベーション(変革)に与える悪影響である。その主張には根拠がある。最近の研究によると、MITの研究チーム間のeメール交換数は、パンデミックのロックダウン期間に38%減少した。著者らは、メールの量をネットワークにおける情報とアイディアの拡散に不可欠な「弱い結びつき」と同等なものであるとし、したがって、メール量の減少からリモートワークはイノベーションを妨げると結論づけた。しかし、この発見にどれだけの重みを置くかどうかにかかわらず、企業のイノベーションの成否を社内の座っている座席数に結びつけることには無理がある。
実際のところ、大企業におけるイノベーションは、社員がどこで働いているかに関わらず、リーダーにとって永遠の課題である。故クレイトン・クリステンセンやその他の研究者は、業界をリードする企業が破壊的なテクノロジーに立ち向かう際に生じるイノベーションへの障害について詳述している。大企業はまた、イノベーションへの投資を財務成績につなげることに苦労している。たとえば、2018年にPwCのグローバル・コンサルティング部門であるStrategy&のコンサルタントは、同社の「Global Innovation 1000」の研究から抽出した15年間のデータを調査した。この研究は、研究開発に最も多額の投資をしている上場企業1,000社を対象とした年次分析であり、「企業がイノベーションの取り組みに費やす金額と全体的な財務業績の間には長期的な相関関係はない」と結論づけた。
では、大企業においてリーダーはどうすればイノベーションを促進することができるのだろうか?私はロレイン・マルシャンにその答えを求めた。マルシャンは、直近のIBMのワトソン・ヘルス(現在のMerative)のライフサイエンス部門のジェネラル・マネージャーを含む、さまざまな幹部職や役員職を歴任している。組織全体でイノベーション力変革できる能力を構築するための実践的ガイドとして、著書『イノベーション・マインドセットーあらゆる業界を変革する8つの必須ステップ』を執筆し、自身でもイノベーション・コンサルタント会社を設立した。
彼女が提案する、企業をよりイノベーション志向にする方法を以下に紹介しよう。
イノベーションに対する一人ひとりのマインドセット
「企業文化を考えることを抜きにしてイノベーションを語ることはできませんが、私はその思考プロセスを非常に実践的なものとして捉えています。それは、哲学やイデオロギーを超えるものでなければいけません。適切な文化の創造は、企業のトップがイノベーションに対する理解と献身的気持ちを持つところから始まらなければならないのです。」とマーシャンは語る。
これまで彼女と一緒に仕事をしてきたイノベーションに精通したリーダーは皆、問題解決への情熱、飽くなき好奇心、変化を受け入れる意欲を持っているとマルシャンは感じている。「彼らは変革に関与したいと思っており、多少の曖昧さは気にしません。彼らは、株主をサポートすることの重要性を認識しつつも、イノベーション、つまり新しい製品、サービス、アイディアを花開かせることができるということを理解しています」
イノベーションを事業に組み込む
イノベーションを可能にするには、全体を俯瞰的に考えて、イノベーションにリソースを割くことも必要だ。「ある大手製薬会社は、10人の優秀なプロジェクト・マネジャーからなる小さなスタートアップ・ユニットを作り、彼らに2000万ドルと18カ月の期間を与えて、彼らが何を考え出すか見てみることにしました」とマルシャンは振り返る。「しかし、その取り組みは彼らの事業としてに組み込まれておらず、会社のインセンティブ構造や組織構造に支えられていなかったのです。最初はプロジェクト・マネージャーたちはとても張り切っていたが、すぐに孤立感を感じ、目標を達成できなかったら自分たちのキャリアはどうなるのだろうと心配するようになりました」そして、このユニットは解散してしまった。
マルシャンは、企業レベルでベンチャー・キャピタルの取り組みをすることが、より効果的なアプローチだと考えている。このアプローチは部署や機能を横断するアプローチである。「誰でもアイディアを持ちこむことができ、優れたアイディアを追求するための資金やその他のリソースが、確保されています」と彼女は説明する。「イノベーションは部門内に留め置かれるため、マネジャーは試行錯誤を重ねた製品やサービスで数字を達成しながら、イノベーション・リーダーになる方法を学ぶことができるのです」と彼女は説明する。
誰もが変革推進者となる
「イノベーションをビジネスに織り込むには、リーダーは社員に適切ものを備えさせる必要がある。「リーダーからよく聞く言葉のひとつに、『問題の報告ではなく、それに対する解決策を3つ持って来て欲しい 』というのがあります」とマルシャンは言う。「問題なのは、ほとんどの社員が問題を分析して根本的な原因を突き止めるために必要なスキルを持っていないということです。だから、そもそも彼らが何を解決しようとしているのか理解できていない。起きている現象への解決策はたくさん出てきますが、実際の問題解決にはなっていないのです」。
よくあるタイプのイノベーション研修では、このジレンマを改善することはできない。「『ある部屋に人を集め、積み木の箱を渡し、決まった制約の中で何かを組み立ててください』といった研修が一般的です」とマルシャンは言う。「これは楽しいエクササイズですし、創造力を搔き立てるものだが、月曜の朝から職場に持ち込めるものは何もありません。」代わりに、リーダーは部下に厳格なプロセスを教え、訓練する必要があるのだ。
社員は問題を特定し、分析する能力が必要だ。「具体的な問題提起ができるようになるべきです」とマルシャンは言う。「何を解決しようとしているのか?そして、なぜそれが問題なのか?誰にとって問題なのか?そして、その問題の先に顧客はいるのか?私たちは、顧客が関心を持ち、私たちにお金を支払ってでも解決したい問題を解決しようとしていることを認識しなければならないのです」
そして、社員は問題解決の方法を知る必要がある。「3つの解決策を考え、リスクマトリックスにかけます。最小限で実用可能な製品を1つ選び、それをテストしてください」とマルシャンは付け加える。「そして非常に重要なのは、社外に出て顧客と話すことです。エンジニアが顧客と一度も話をすることなくプロトタイプを設計し、生産を開始しようとしている製品開発現場に、私は何度連れて行かれたことがあります。」
マルシャンは、そのような状況を避けるために「100人顧客の法則」を考案した。「この法則に間違いはありません。彼らのニーズに対して、あなたの解決策がそれを満たせるかどうかを、彼ら全員に聞くまでは、先に進んではいけないのです」
失敗しても安全な環境
「この言葉はよく耳にすると思いますが、この環境は大切です。革新的な会社を作りたければ、失敗しても安全な環境を作ることです」とマルシャンは述べる。「世の中にはジェフ・ベゾスに対して様々な評価があるでしょうが、彼は 『失敗から学ぶ』という考え方を取り入れました。彼は、人々がイノベーションに挑戦し、それが成功しないケースも許容する(インセンティブさえ与える)文化を作り上げました」と、マルシャンは語る。
マルシャンはIBMで働いていたとき、「失敗だけで終わらない金曜日」と名づけた取り組みでこのアイディアを取り入れた。直属の部下と毎週ミーティングを行い、その週にやったことの中でうまくいかなかったことをひとつずつ話し、グループでそこから学ぼうとしたのだ。「このアイデアは、試行してうまくいかなかった場合でも、それを学習の機会として活用するのであればよいという考え方です」と彼女は説明する。
上記のアイディアはすべて、企業のイノベーションを強化するために必要な強力な方法をリーダーに提供するものである。また、まだ同場所で勤務する必要性にこだわっているリーダーに対しては、マルシャンはその思い込みを乗り越えるよう提案する。
「リモートワークは新しいスタンダードです。リーダーは、イノベーションプロセスにおいて多様な視点と多くの人の参加を促進し、可能にする必要があります。人々がアイディアを出す際に、一緒にいる部屋で行われるような社交化、参加意識、意義ある貢献を育むために、新しい協力ツールと技術を使用するべきです」と彼女は言う。要するに、社員がどこにいようとも、彼らを集結させイノベーションを育むことができるのだ。
【筆者について】
セオドア・キンニ(Theodore Kinni)氏は、strategy+businessに寄稿するライター。ビジネスライター・編集者として、業界や地域を問わず、一流のコンサルタント、企業、非営利団体と協働している。
【翻訳】Hello, Coaching! 編集部
【原文】How to move the needle on innovation
(2023年6月5日のstrategy+business magazineに掲載された記事の翻訳。strategy+business magazineの許可を得て翻訳・掲載しています。)
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