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「分かっている」という厄介な思い込みをなくすには
2023年11月07日
こちらの話をさえぎり、いつも先回りして結論を言おうとする友人が私には二人いる。それは、いらいらさせられる癖であるだけでなく、彼らの言うことはほとんど間違っている。
彼らの頭脳がそのように働くのは何か目的があるのかもしれないし、不安だからそうなるのかもしれない。あるいは、頭の回転が速すぎるだけなのかもしれない。理由はどうであれ、二人とも私の話を聞いていないし、私の心の内を読むこともできていない。どれほど私のことを分かっているつもりでも、話を最後まで聞かなければ、私が何を望んでいるのか、物事をどう見ているのかは知りようがない。
相手の望みや物事の見方を知っていると思い込むのは、コーチやリーダーにありがちな悪い癖だ。たとえ途中で口を挟んだりしなくても、相手の言いたいことが分かっているつもりだったら、その思い込みはたいてい間違いだ。全体はつかめることができても、重要な細部は見えていない。これでは相手の望みを反映した結果は得られない。
「分かっている」と思い込み、相手が言いたいことや求めていることを知っているつもりになり、十分に相手の話を聞いて相手が本当に望んでいることが何かを確認するプロセスを怠ると、相手との関係が損なわれる可能性がある。神経生物学者のスティーブン・ローズは、著書『The Future of the Brain(脳の未来)』(2005年)の中で、本人の生育時の社会的環境を含め、その人の人生の遍歴全体を知らなければ、脳の現時点の状態をスナップショットのように見ることは無意味だと指摘している。
思い込みが対立の原因になることも
「分かっている」という思い込みがチームに対立を生むこともある。明確なビジョンのもとで全員の足並みを揃えているつもりでも、実はどういう解決策を実行しようとしているかについて各人の理解がばらばらな場合だ。全員が達成しようとしている結果についてひとつの明確なビジョンがあり、そこでまとまっていなければ、協力は成り立たない。目標の優先順位やリソースの配分について意見が一致しなくなる。結局、一緒に集まっているときはそれぞれ進捗状況を報告するけれど、いったん部屋を出ると互いに相手の不満ばかりいう集団と化してしまう。
1on1ミーティングでは、キーワードや要求の意味を互いに理解し、どういう最終結果を望んでいるかについて合意が成立していないと、リーダーは部下や同僚の希望と食い違う行動をとり、期待に応えることはできない。結局、誰もが理解されていないと思うことになる。
コーチは、セッションにあたり、目標に対する思い込みを極力抑えるために、クライアントが何を実現したいのか、何を変えたいのかを対話の早い段階で明確にし、合意をとる必要がある。変化の障害になっているものに対応していく過程で、当初の目標は変化することがある。何を達成したいのか、どう変わりたいのか、クライアントが語る新しいイメージを明確にし、共有することで、対話の最後に到達する目標に向かって進捗状況を確かめることができる。これはコーチングのコア・コンピテンシーである。ただ、このコンピテンシーですら、その意味が往々にして誤解されている。現状がどうなっているのかということではなく、クライアントが本当に望んでいることについて明確な合意がなければ、クライアントは自分の悩みを語ることができて良かったと思うかもしれないが、将来同様の状況に直面したときにセッションの最後に了解して決めた対処方法をおそらく忘れてしまっているだろう。
クライアントが望んでいることが、「もっと自信を持ちたい」とか「朝起きたときにもっとやる気を持ちたい」というように漠然としていてつかみどころがない場合は、「自信を持つ」や「やる気を持つ」とは具体的にはどういうことなのか、そのように思えると何が変わるのかを質問する必要がある。こうして明確にしたイメージを改めて提示し、それが望んでいる結果なのかどうか確認することで、コーチとクライアント双方の思い込みをできるだけ排除した合意が成立する。コーチは、そこからこのビジョンに到達するために何を解決すべきかに集中できる。
国際コーチング連盟によると、クライアントの願望―セッションを終えるまでに達成したいこと―が不正確であいまいなままでは、コーチングの方向性が定まらないため、コーチが次に何をしてもあまり意味はないという。合意が対話の枠組みを作るのである。
相手に思い込みがあることも
何らかの行動、決断、計画、あるいは理解の深まりは、何について対話をしていくのかという合意対象にはならない。その行動、決断、計画、理解ができたとき、何が得られるのかが問題だ。最終的な結果として相手が望んでいることについてお互いに明確になれば、最も効果的で実現可能な決断や計画が容易になる。
クライアントや従業員が本当に求めていることを明確にし、お互いに合意するには、今直面している問題をどのようにとらえているのか、まず本人に自由に語ってもらおう。話に出てくるキーワードの意味を説明してもらうことで、思っていたことが本人にもあなたにもよく理解できるようになる。今は不足しているが、実現したいものが何なのか、またなぜそれが重要なのかを聞いて、まとめてみよう。本人がどうしたらよいか知りたい、把握したい、もっとよく理解したいと言ったら、次のような質問をするとよい。
【行動】正しい決断を下したら、あるいは納得のいく計画を立てたら、その結果として何が得られると思うか?
【課題】もっと有能なリーダーになるために、他の人々ともっと協力できるようになるために、会議でもっと積極的に行動できるようになるために何をすべきかが明確になったら、何を達成できるのか?
【理解】状況を理解し、頭の中を整理できたら、何が得られるのか?
これらの問いへの答えを手がかりに、対話の方向性だけでなく、その進捗を測るマイルストーンも定義できるだろう。
あなたがリーダーやコーチであれ、チームメンバーや同僚であれ、相手が何を言いたいのか、何を望んでいるのか分かっていると思い込む癖を捨てれば捨てるほど、相手とのつながりは強くなる。いつも好奇心を持ち、相手が言いたいこと、求めていることを自分が理解したのか確かめよう。相手は、配慮されている、話を聞いてもらっている、大切にされていると感じるだろう。
【筆者について】
マーシャ・レイノルズ博士(Dr. Marcia Reynolds)は、コーチングを通して世界各地の企業の幹部育成をサポートし、実績を上げている。クライアントは、多国籍企業、非営利団体、政府機関のエグゼクティブや将来の幹部候補生である。また、世界各地で開催されているコーチングやリーダーシップに関するカンファレンスで講演し、43カ国でリーダー向けの講座を担当し、コーチングを行っている。調査機関グローバル・グルス(Global Gurus)で世界5位のコーチに選ばれ、さらに国際コーチング連盟が選出している10名のThe Circle of Distinctionの一人でもある。
医療分野でのコーチング経験も豊富で、ヘルスケア・コーチング・インスティテュートのトレーニングディレクターを務め、総合病院、クリニック、大手製薬会社などで25年にわたり数多くのリーダーにコーチングを提供している。
また、彼女は国際コーチング連盟(ICF)の 歴代5番目のグローバル・チェアマンであり、世界で最初のICFマスター認定コーチ (MCC) になった25人のうちの1人である。組織心理学の博士号、および、教育とコミュニケーション分野における修士号を取得している。
著書に、"Coach The Person, Not the Problem"(邦訳:『変革的コーチング』), "Outsmart Your Brain", "The Discomfort Zone: How Leaders Turn Difficult Conversations into Breakthroughs"などがある。
【翻訳】Hello, Coaching! 編集部
【原文】How to Overcome the Annoying Assumption of Knowing(レイノルズ博士のウェブサイトCONVISIONINGに掲載された、2021年11月8日の記事を許可を得て翻訳。)
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