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あなたの時間感覚は生産性にどう影響しているか

【原文】Off the clock: How our perception of time can affect productivity
あなたの時間感覚は生産性にどう影響しているか
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時間を気にして時計ばかり見ているとパフォーマンスは下がり、将来に楽観的だとパフォーマンスは上がる。これを理解しているマネージャーは、社員のエンゲージメントを高めることができる。

私はスカウトのビーバー隊のリーダーだ。毎週月曜日の夕方、6歳から8歳の騒々しい子どもたち14人を引率して、人格形成活動としてキャンドルでパンケーキを焼いたり、重曹と酢を使って爆発させる実験をしたりする。秩序とカオスの境界線すれすれを危なっかしく進むことになる。だから私は「1分ってどのくらい?」という遊びが好きだ。子どもたちは(静かに)座り、1分経ったと思ったら(静かに)立ち上がる。簡単な遊びのようだが、30秒足らずで立ち上がる子もいれば、2分も経ってから立ち上がる子もいる。このように1分の長さを正確に判断するのは難しい。おかげで、私は60秒以上も静かな時間が得られることになる。

この遊びは、心理学者や神経科学者のいう「時間知覚」をまさに体験するものだ。時計は客観的な時間を刻むが、人はそれぞれ自分なりの知覚によって時間を測り、時間の価値を見積もり、そして多くの場合自分の時間知覚にしたがって生活している。自分の内面で体験する時間、完全に主観的な時間体験は、精巧に組み立てられた時計と同じくらい複雑な神経系と知覚系の連携によって構成されている。この内的な構造物は重要である。経過していく時間をどうとらえ、未来、現在、過去に対して自分をどう方向づけるかによって、自分の幸福、記憶、認知、注意力、エンゲージメントが大きく変化する。仕事上のパフォーマンスにも影響するのはいうまでもない。

幸い、時間知覚は驚くほど操りやすい。では、時間知覚を理解して、これをどう活用すればもっと幸せになり、生産性を高めることができるのだろうか?

1分をどう感じるか

1分は長い時間ではない。ところが仕事が暇で、時間の経過を1分刻みで数えていると、それは永遠に感じられる。時間がのろのろ過ぎていく感覚は典型的な時間の錯覚のひとつだが、これは単調さや退屈さに関係している。

キングス・カレッジ・ロンドンの実験心理学者、デヴィン・ターヒューン博士は、「時間知覚は、注意力と作業記憶という認知能力と認知機能の中核といわれる二つに緊密に関係している」と語る。退屈して時間の流れが遅くなると、ぼんやりして、目の前の仕事に対する集中力も記憶力も低下し、結果としてミスが増え生産性が落ちる。

退屈すると、心があてどなくさまよう状態:マインドワンダリングになり、仕事がはかどらなくなる。「認知的作業ではマインドワンダリングをミスの回数で調べる。マインドワンダリングは、いわば計測可能な行動として定義されている」とターヒューン博士は指摘する。もちろん、マインドワンダリングやそれと似通った白昼夢が有意義な退屈しのぎになり、創造性が高まることもある。だが、一般的にはこれは知覚のゆがみや時間の収縮に関連しており、その結果、時間が過ぎ去っているのに気がつかず、期限がいきなり目前に迫って驚くということになりかねない。

ただし、テルヒューン博士によると、時間のゆがみに関する因果関係を明確にするのは難しく、まだ理解が進んでいないらしい。時間の流れが遅いと感じるから退屈なのか、それとも退屈だから時間の流れが遅くなるのか。うつ病やADHD、パーキンソン病などの神経疾患の病状によっては、時間知覚が激変する状態、臨床用語でいう時間測定異常が生じることがある。

また、個人の性格によって時間の経過の感じ方が異なることも考えられる。2007年、カリフォルニア大学サンディエゴ校の二人の研究者は、衝動的な人の時間知覚はそうでない人と異なっており、それが意思決定に重大な影響を及ぼす可能性があるという理論を発表した。「衝動的な人は、後になって高い報酬を獲得するよりも、少ない報酬を今すぐ獲得するほうを選ぶ。これは自制心のある人よりも時間の経過を主観的に長くとらえるからである」という。「時間があまりにも長いと感じるとコストが高くなりすぎると連想するため、すぐに結果が出るほうを選択するのである」。

休憩の勧め

時間知覚は心の奥底にある心理的要因と結びついており、影響を与えるのはたやすい。即効性があるのは休憩だ。休憩をとり、少しでも気分転換や目新しいものに触れれば、退屈な気持ちや精神的疲労がやわらぎ、時間のゆがみが直り、認知的負荷をリセットして、生産性を回復することができる。2022年に話題となったメタ分析によると、「常時オン」状態の現代の労働者は「人間のエネルギー危機」に直面しているが、その一番の解決策は短時間の休息をとる活動だ。「データによると、短時間の休憩が職場での満足感を高める万能薬になる可能性がある」と指摘している。

10分程度の休憩でも効き目があるのだから、経営者はこの部分で創意を発揮できる。ターヒューン博士が推薦しているのは、子犬だ。彼の大学では最近、ストレスに悩む学生たちが学業の合間にペットとふれあうことができるようにキャンパスに子犬を連れてきたそうだ。「これ以上のものがあるだろうか? 企業は子犬も労働力に加えるべきだね」と博士は冗談をいう。これに賛同する人たちもいるが、それほど型破りではない(または可愛らしくもない)が他にも有益な休憩はいろいろある。散歩したり、絵を描いたり、あるいは昼寝でもいい。

未来を楽観的にとらえることがもたらすもの

時間的展望は、長期的なスパンで自分を方向づけるものだが、これも生産性やエンゲージメントに影響を及ぼす。過去50年間で最も影響力のある心理学者の一人、フィリップ・ジンバルドーは物議を醸した「スタンフォード監獄実験」でよく知られている。大学生に囚人役と看守役を割り振り、惨憺たる結果に終わった研究プロジェクトだ。そのジンバルドーは1999年、人が時間の流れの中で自らをどうとらえるかを理解しようとしてジンバルドー時間的展望尺度(Zimbardo Time Perspective Inventory:ZTPI)を考案した。ZTPIは広く活用されており、一連の質問によって、過去、現在、未来についてどう感じているかを評価し、時間的展望を6つのタイプ(過去に否定的、過去に肯定的、現在に運命的、現在に快楽的、未来に肯定的、未来に否定的)のいずれかに分類する。

自分自身や同僚が時間に関連づけて自分をどうとらえているか理解することは重要だ。というのは、将来に楽観的だと生産性が上がることが多くの研究で指摘されているからだ。たとえば2016年、オランダの研究者らは、将来に対してポジティブな社員ほど、新しい知識を身につけながら自分のスキルやニーズに合わせて自分の役割を形成していく「ジョブ・クラフティング」に積極的に取り組む傾向があることを発見した。結局、時間的展望尺度が未来に肯定的な社員は、仕事に対する満足度もエンゲージメントも高かった。

他にもある。大学生を対象にした2018年の調査では、時間的展望尺度が未来に肯定的な学生だけが、自分の目指す学業への取り組みや平均の成績を予想することができた。2019年にCurrent Psychology誌に掲載された労働者200人を対象とした調査では、性格特性の影響が出ないようにコントロールした場合でも、その人の時間的展望が仕事の結果を大きく左右していた。時間的展望尺度が未来に肯定的な傾向が強いほど仕事に対する満足度もエンゲージメントも高く、生産性を阻害する行動が少なくなる傾向がある。時間的展望尺度が現在に運命的で、現状を変えられるという思いが強くない人や、時間的展望尺度が未来に否定的な人では、これとは逆のパターンが観察された。

そうはいっても、社員の時間知覚を評価したり、あるいは「1分はどのくらいの長さだと思うか?」などと質問したりする必要はない。(そんなことをするのは変だし、そもそもあまり役に立たない)。しかし、社員が仕事中にどのように過ごし、そしてどのような職場が一番よいかを知りたければ、彼らが時間をどのように考えているかを調査してみるとよいだろう。時間知覚や時間的展望を考慮することは、個々人の考え方や価値観を知り、どうすれば仕事で最大限の力を発揮できるかを理解する一助になる。


【筆者について】
リンダ・ロドリゲス・マクロビー
人々がとる行動について探求している英国在住のフリージャーナリスト。ボストン・グローブ紙やスミソニアン誌に定期的に寄稿している。

【翻訳】Hello, Coaching! 編集部
【原文】Off the clock How our perception of time can affect productivity
(2023年7月17日のstrategy+business magazineに掲載された記事の翻訳。strategy+business magazineの許可を得て翻訳・掲載しています。)
© 2023 PwC. All rights reserved. PwC refers to the PwC network and/or one or more of its member firms, each of which is a separate legal entity. Please see www.pwc.com/structure for further details. www.strategy-business.com. Translation from the original English text as published by strategy+business magazine arranged by COACH A Co., Ltd.


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