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何が心理的安全性を生み出すのか?

【原文】Three Easy Steps for Maintaining Psychological Safety
何が心理的安全性を生み出すのか?
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心理的安全性は、多くの企業や会話が必須の職業では流行語になっている。一方で、この言葉は誤解されがちな概念でもある。というのも、心理的安全性とは、人に対して何かを語り掛けたり、何かをしてあげたりすることで、その相手の心を和らげるというようなものではないからだ。心理的安全性の確立方法について共通の理解がない場合、この言葉は「エンパワーメント」「ビジネス感覚」「自分らしさ」といった表面的な専門用語として使われ、その真の意味が希薄化する危険性がある。

私たちは、人が心理的安全性を感じれば、あなたの話に耳を傾け、あなたが提供するものに価値を見出すようになることを知っている。たとえ不快に感じるときでも、心理的安全性があることによって自分の意見、恐れ、願望、後悔を、他者と分かち合おうとする可能性が高くなる。

心理的に安全でないと感じると、脳は脅威から逃れるために闘争モードや逃走(fight or flight)モードになる。たとえ会話を始めたときは相手と良いつながりがあったとしても、安全が失われると、人は自分を守るために相手と距離を置くようになる。

では、どのようにして心理的安全性を作り出すことができるのか?そして、何があなたのつくり出す安全な場を妨害し、あなたが注意深くつくり上げたつながりを壊してしまうのだろうか?この記事では、あなたと会話をする相手が、会話の中でどのようにしてすぐに心理的安全性を感じられるようになるのかをお伝えする。

心理的安全性を確立するために不可欠な要素

言葉や行動が心理的安全性をつくり出すのではない。相手とどのようにエネルギーを交換するかが、相手の精神状態に影響を与える。あなたの感情が安全を生み出すのである。会話を通してあなたが経験する感情が、相手の感じる心理的安全性を高めたり低下させたりする。あなたが相手を気遣い、尊重する感情を持っていることが、相手があなたと本音で対話しようとする意欲にプラスの影響を与える。他の人には言わないようなことも、あなたになら打ち明ける。なぜなら、あなたからは批判されたりレッテルを貼られたりする心配がないからだ。

私が受講していたコーチングスクールの創設者、トーマス・レナードから私は1995年に初めてコーチングの講義を受けた。彼は、コーチングを学ぶ唯一の方法は、自らコーチングをすることだと語った。スキルを学び、実践するうちに上達すると言うのだ。

自分たちが何もそのスキルを知らないのに、どうやってコーチングをすればいいのか、と私たちは訴えた。彼は『ただ相手を愛しなさい』と言った。彼らが大切にされ、尊重されていると感じるとき、あなたは相手に価値を提供することができると言うのだ。

私がコーチングを始めた初期の頃のクライアントの推薦文を読むと、ジレンマについて安心して話せることが、クライアント達にとってどれほど貴重なことであったかが分かる。そのコーチングの時間は、彼らが日々の中で唯一、恐れずにありのままの自分を見せることができたのかもしれない。

この体験は、理にかなっているかもしれないが、言うは易く行うは難しである。あなたが恐怖や混乱、焦りを感じるたびに、その感情は自分がつくり上げた「安全」を壊してしまう可能性がある。感情を抑圧しても、この動きを止めることはできない。感情の抑制は、その表現をコントロールするだけで、感情の存在をコントロールするわけではない。感情から発散されるエネルギーは、たとえ抑えつけようとしても、測定することができる¹。

しかし、自分が感情的な反応をしていることに素早く気づき、呼吸を整えて別の何かを感じることを選択できれば、安全なつながりを維持することができる。身体の感情的な反応に気づき、好奇心、感謝、思いやりを感じることにシフトし直すことは、とても重要なスキルだ。

何が 「安全な場」 を壊すのか?

脳もまた安全を感じたいのだ。脅威を感じると、脳はその難局を乗り越えて対応しようとする。あなた自身にすでに深く埋め込まれた反応パターンがあり、防御的に弁明したり、微妙なあるいは明白なジェスチャーで苛立ちを表現したり、コントロールを失うことを恐れて身を固くしたりする。あなたのこうした反応は、築いた安全を低下させ、場合によっては消滅させてしまう。

自分を守ったり、他人を説得したり、心を閉ざしたりしようとする衝動に、困惑したり憤ったりしないでほしい。どんなに自分が感情的に成熟していると思っていても、「高い次元の自己」が介入する前に、自分の脳が反応を促してしまうのだ。

自分の反応自体を止めようとしてはならない。自分が反応しないようにして、それがうまく制御できないとイライラするだけだ。その代わり、身体の緊張や呼吸の変化に気づくことから始めよう。イライラしたり、恐れを感じたり、苛立ちを感じたりしたとき、どの筋肉が硬くなるのか?心臓の鼓動が速くなったり、息を飲んだりしたときに気づくことができるか?少なくとも1日に3回は自分の手を止めて、自分の身体と向き合い、感情的な自己認識を深めよう。²

感情的知性(emotional intelligence)とは、反応が起こる時に、自分の感情を選択する能力が持てるということだ。

心理的安全性を保つための3つのステップ

まず、自分の反応に気づくことが第一歩である。あなたの力は、他者との信頼を築くために、感情を意図的にシフトすることに発揮される。

ヴィクトール・フランクルは著書『夜と霧』の中で、以下のように語っている。
「刺激と反応の間にはスペースがある。そのスペースには、自分の反応を選択する力がある。その反応の中に、自分の成長と自由がある」

心理的安全性を維持するために、すぐに取り組める3つのステップを紹介しよう。

  1. 自分の身体に意識を向ける。
    胃や肩、首に違和感を抱えていないか?不安なとき、呼吸が速くなったり、 息を止めたりしていないか?顔が熱くなっていないか?顎を食いしばっていないか?
    こうした反応に素早く気づくことで、自分をコントロールし続けることができる。
  2. 選んだ感情で心身を満たす。
    思いやりと落ち着きを感じたい、あるいは好奇心と優しさを感じたいと意識的に自分に言い聞かせる。背筋を伸ばす。胸を開くように肩を後ろに傾ける。自分が感じたいと思う感情を吸い込み、体に染み込ませる。
  3. 一日の終わりに、うまくいったことを自分で認める。
    脳は、あなたが望む変化を支援するために、うまくいったことの証を必要としている。できなかったことで自分を責めるのではなく、よりうまくやろうと取り組んだことについて、自分自身に感謝しよう。周囲の人との会話の中で、相手に波長を合わせたり、感情をシフトさせる習慣がすぐに身につくだろう。

あなたには、自分の脳の働きを観察できるという驚くべき能力がある。自分の脳を軽く笑い飛ばし、異なる感じ方、考え方、行動を選択することさえできる。そうすることで、まわりの人々が安心するだけでなく、あなたとの深い会話を楽しむことができるのだ。

1  Rollin McCraty, Ph.D. The Energetic Heart: Biolectromagnetic Interactions Within and Between People. Chapter published in: Clinical Applications of Bioelectromagnetic Medicine, edited
by P. J. Rosch; M. S. Markov. New York: Marcel Dekker, 2004: 541-562.
2  Marcia Reynolds, Outsmart Your Brain: How to manage your mind when emotions take the wheel, 2nd edition. Covisioning, 2012: pg 137.


【筆者について】
マーシャ・レイノルズ博士(Dr. Marcia Reynolds)は、コーチングを通して世界各地の企業の幹部育成をサポートし、実績を上げている。クライアントは、多国籍企業、非営利団体、政府機関のエグゼクティブや将来の幹部候補生である。また、世界各地で開催されているコーチングやリーダーシップに関するカンファレンスで講演し、43カ国でリーダー向けの講座を担当し、コーチングを行っている。調査機関グローバル・グルス(Global Gurus)で世界5位のコーチに選ばれ、さらに国際コーチング連盟が選出している10名のThe Circle of Distinctionの一人でもある。
医療分野でのコーチング経験も豊富で、ヘルスケア・コーチング・インスティテュートのトレーニングディレクターを務め、総合病院、クリニック、大手製薬会社などで25年にわたり数多くのリーダーにコーチングを提供している。
また、彼女は国際コーチング連盟(ICF)の 歴代5番目のグローバル・チェアマンであり、世界で最初のICFマスター認定コーチ (MCC) になった25人のうちの1人である。組織心理学の博士号、および、教育とコミュニケーション分野における修士号を取得している。
著書に、"Coach The Person, Not the Problem"(邦訳:『変革的コーチング』), "Outsmart Your Brain", "The Discomfort Zone: How Leaders Turn Difficult Conversations into Breakthroughs"などがある。

【翻訳】Hello, Coaching! 編集部
【原文】Three Easy Steps for Maintaining Psychological Safety(レイノルズ博士のウェブサイトCONVISIONINGに掲載された、2022年3月28日の記事を許可を得て翻訳。)


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