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AI時代に求められる「本物であること」

【原文】Authenticity is our AI Advantage
AI時代に求められる「本物であること」
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今、自分達にとって、一番不足しているリソースとは何だろうか?世代によって、その問いへの答えは違ってくるかもしれない。

サイレント世代とベビーブーマー世代にとっては、お金
X世代とY世代、ミレニアル世代にとっては、時間
Z世代とアルファ世代にとっては、注目度

あなたはどう思うだろうか?

私は、上記のものすべてが必ずしも最も不足しているリソースではないと考えている。今後、不足するリソースは「本物であること(オーセンティシティ)」だろう。メタバースに移行し、人工知能(AI)を受け入れるにつれ、現実世界はますますその幅を狭めていく一方である。したがって、私たちが「存在」する人間として、いかに本物であるかが競争世界での優位性になると考える。

このことをさらに紐解いてみよう。

コーチングのおける特化型AIの役割

現在、世の中には特化型AI(NAI)がある。これはある特定の領域に特化して優れた能力を発揮するAIだ(ChatGPTのような大規模な言語モデル、ウェブサイト上で基本的なサポートを提供できるチャットボット、チェス/囲碁などが含まれる)。AI自身が自己学習する、生成型AIである。それは訓練に使用されたものに依存する機能であるため、インターネット全体(陰謀説を含む)の機能なのか、あるいは限定された(できれば真実に基づいていてもらいたいが)データセットの機能であるのかは区別する必要がある。

私たち人間のように多くのタスク、思考、行動ができるAIは、汎用型AI(AGI)と呼ばれる。この汎用型AIについての将来予測は、誰の仮説を信じ、耳を傾けるかによるのだが、完成までにはあと数年、あるいは数十年かかるもしれない。今の時点で予測は不可能だ。

私たち人間よりも賢いAIは、スーパーAI(ASI)と呼ばれる。これは、映画(たとえば「SHE」、「エクス・マキナ」)や書籍(たとえば、悪名高いペーパークリップの思考実験に言及したニック・ボストロムの『スーパーインテリジェンス』)などが描く、SFやディストピア(反ユートピア的)な未来に垣間見ることができる。

では、AIによるコーチングを想像してみよう。タスク型のコーチング('transactional'coaching)では、特化型AIはある程度申し分のない仕事をするが、その一方で文脈やニュアンスを見逃してしまう(太字で示した文末の例を参照)。特化型AIは、「あなたは何をしようとしているのか?それをどうやるのか?いつまでにそれをやるのか?」といった、相手が達成しようとしていることを段階的、直線的にコーチすることは可能だ。これは、営業スキル、運動スキル、ポジティブな決断力などの習慣を身につけるといった自主性を習得することを目的とするコーチングだ。一方で、特化型AIは相手の文脈やニュアンスを見逃してしまうため、変容的コーチング(transformational coaching)を提供することはできない。相手への共感と本質的な理解が欠けてしまうのだ。

変容的コーチングの存在価値

変容的コーチングは、アートであると同時にサイエンスでもあり、また、相手の考えだけでなく身体にも焦点を当てる。変容型コーチングは、私たちの思考に縛られている心を解き放ち、自分の感情や自分自身を感じる感覚に再び接続するために私たちをサポートする。変容型コーチングは、クライアントが単に「何をしているか」ということではなく、「誰であるか」ということに焦点を当てる。コーチングの場には、日常のものを超えたものにアクセスできる力がある。その場に入ることができれば、特化型AIではアクセスできない深い叡智をコーチングセッションで扱うことができるのだ。

特化型AIは、すでに集められた情報から成る大規模なデータセットに依存している。従って、AIは自身で新たに想像することも、認知的不協和や不合理な思考・行動に対処することも、直感を働かせることもできない。私たち人間には独自の独創的な発想力があり、斬新なアイディアを生み出すことが可能だ。また予期せぬことを予測できたり、新しいものに好奇心をもって順応もできたりする。特化型AIには、そういった類の能力がない。いつの日か汎用型AIやスーパーAIが誕生すれば、それが可能になるかもしれないが、今のところ、そして当分の間は、私たちコーチが本物の変容的コーチングを実践している限り、その存在価値は存続すると私は信じている。

人は何を求めてコーチングを受けるのか

マスター認定コーチ(MCC)である私としては、AIコーチングがより多くのクライアントに、より多くのタスク型コーチングを提供できるようになることを期待している。しかし、本物の人間同士が1対1でコーチングを行う場は、今後も常に存在するだろう。クライアントが彼らの人生の中で、本当に受け入れられ、耳を傾けてもらえる場所はそれほど多くは存在しない。人は、社会的なつながりとサポートがある中で深く話を聞いてもらえたと感じるとき、変わろうという意欲を持つことを私たちは知っている。

特化型AIから汎用型AIに移行するにつれ、失われていくの「本物であること」であろう。私たちは、自分が相対しているのが人間なのか、あるいはAIなのかをどうやって見分けられるのだろうか?(このことは、チューリングテストでも言及されている)メタバースに移行したり、それが私たちの世界に加わってくるにつれて、それぞれを区別することは難しくなるだろう。

では、なぜクライアントはコーチングを求めて来るのだろうか?さらに重要なことは、なぜクライアントは何度も繰り返しコーチングを受けに来るのだろうか?ほとんどのクライアントは、自分の求めているものを明確にし、それを達成する方法を考えるためにコーチングを受ける。しかし、大半のクライアントは、コーチングによって自分がどういう人間なのかを発見するためにコーチングを受け続けているのだ。

私たちは「誰」なのかが、私たちを定義する基準となる。変革的コーチングとは、クライアント自身をコーチングすることであり、それを共に探索することはクライアントにとってもコーチにとっても喜びに繋がる。特化型AIは多くの雑務や反復的な仕事をこなすことができるし、これからもその役割を担っていくだろうが、人の心と心の関係を扱い、オキシトシン(幸せホルモン)、純粋な共感、そして愛をも兼ね備えている変革的コーチングに取って代わることはないだろう。

AIとコーチングのコラボレーションは、変化の激しい分野であり、実にエキサイティングだ。物理学と数学を専攻した私にとって、あらゆる形の人工知能への関心は尽きない。科学が私たちをどこへ導いてくれるのか、私は常に楽観主義者であり、今後もそうあり続けたい。メタバースとAIが開発されつつある今、この時代に生きていることは刺激的だ。自分が変容的コーチングを提供し、実践できることに感謝したい。本物の変容的コーチングは、将来、それがどれだけの期間であっても、有効であると私は信じている。

かつての職場は肉体労働の場だった。
現在、職場は人間の頭脳を評価している。
将来、職場は私たちの心を大切にするようになるだろう。
私たちは、本物の変容を促すコーチとして十分に役割を果たすことができるはずだ。

IQ + EQ =Whole hearted relating © (一体感のある関わり)

私たちがよりバーチャルなオンラインの世界に移行していく中で、コーチとして熟慮すべきいくつかの問いを紹介する

  • あなたは現在、AIコーチングについて何が可能であると確信していますか?
  • あなたは今後コーチとして、どのような存在になりたいと考えていますか?
  • AIコーチングに対して、あなたはどのように適応し、何を受け入れ、あるいは何を否定したいと考えていますか?
  • あなたはコーチとして、何を提供できますか?

AIコーチングについての参考資料:

AIコーチングの事例:

私が人工知能コーチングを体験したのは、「ダイエット/食事トラッキング」アプリを使ったときだ。私は2キロほど体重を落としたかったので、自分だけの「パーソナル」コーチを提供してくれる人気のアプリを試してみた。登録し、詳細を記入し、自分のアバターを選択し、統計情報をアップロードすると、「パーソナル」コーチから温かい歓迎のメッセージが届き、そのコーチは今後数ヶ月にわたって私を指導してくれることになった。

当初、私はAIコーチングに、期待と関心を抱いていた。指示に従い、他のダイエット初心者とチャットグループに参加し、最初のコーチングでの会話を待った。すぐに、私のパーソナルコーチがボットであることに気づいてがっかりした。私が質問をすると、ボットは私の質問を繰り返し、私の質問にあった文言のオンライン・ライブラリーを紹介してくれた。参考資料は充実していた。科学的な論文、栄養情報、ダウンロードして記入する食事プランなど、最初の数週間は楽しかった。

それは、2019から2020年夏ごろ、オーストラリアでコロナ禍が襲来する直前のことだった。2020年1月にはオーストラリア南東部で恐ろしい山火事が発生し、空は煙で真っ白になった。私は外に出て運動をすることができなかった。私は気持ちが沈んでいたので、「コーチ」にサポートを求めた。やる気も気力もなくなっていた。大火災は莫大な土地を焼失させ、何百万頭もの動物が死んだ。多くの地域住民が避難を余儀なくされて、私の気分は落ち込んでいた。

私がうつ病という言葉を口にしたとたん、ボットは私にうつ病の治療法を紹介した。しかし、私に起こっていた事は、母国で起きている悲劇に対するごく当たり前の反応であった。

つまり要約すると、このボットは、うつ病を患っているダイエット中の人間に、うつ病を改善するための医療専門家を探すよう勧める情報提供サイトを紹介するようにプログラムされていたのだ。その夏、ボットにはオーストラリアが森林火災によって、火の海になっていることなどまったく想像もつかなかった。とんでもない状況だったが、それはAIボットには理解できなかった。つまり状況が理解できなかったのだ。タスク型のAIには、これを扱うための緻密な理解能力がなく、とんでもないことが起きたときに、AIは機能しなかった。共感できる本物の人間が相手であれば、私の国の森林が燃えていることが理解できただろうし、そして私も穏やかな気持ちでいられただろう。私はそのような状況でも、自分の食事計画に従うことはできたが、外に出て運動することはできなかった。

【筆者について】
ベリンダ・マッキンネス(Belinda MacInnes)氏は、国際コーチング連盟(ICF)マスター認定コーチ(MCC)。1999年にコーチングのキャリアを開始し、グローバルで複雑な職場環境におけるエグゼクティブ・コーチングに従事している。

【翻訳】Hello, Coaching! 編集部
【原文】Authenticity is our AI Advantage(2023年10月16日にCoach U Blogに掲載された記事の翻訳。


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