講演録

株式会社コーチ・エィにおいて行われた講演会の記録です。


私がエグゼクティブコーチをつけ続ける理由
ヤフー株式会社 副社長執行役員最高執行責任者 川邊健太郎 氏

ヤフー副社長が語るエグゼクティブ・コーチング:第2回 ヤフーでコーチングが始まる

ヤフー副社長が語るエグゼクティブ・コーチング:第2回 ヤフーでコーチングが始まる
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2017年5月17日に株式会社コーチ・エィ主催のフォーラムにて、ヤフー株式会社 副社長執行役員最高執行責任者である川邊健太郎氏に、エグゼクティブコーチをつけている体験について語っていただきました。本シリーズでは、川邊氏の講演の内容を4回にわたってお届けします。

第1回 「本当に効果があるのだろうか?」と思っていた
第2回 ヤフーのコーチングマネジメント
第3回 私にとってのエグゼクティブ・コーチングの価値
第4回 エグゼクティブコーチは誰につけるのが効果的?

本記事は、2017年5月17日の取材に基づき作成しています。
内容および所属・役職等は取材当時のものを掲載しています。

ヤフーでコーチングが始まる

2012年の新経営体制のタイミングで、ヤフーの人事のあり方を、宮坂、本間カラーに変えていくことになりました。

それまでのヤフーは、放っておいても、市場も会社もどんどんどんどん右肩上がりで伸びていて、「やるべきこと」が明確でした。やるべきことがたくさんあって、それらをいかに捌くかに頭を使っていました。

ところが、2012年頃のヤフーは、ビジネス上で新たな局面に差し掛かっていました。それまでは、アメリカのYahoo!や、シリコンバレーの他の企業でうまくいったビジネスを日本にもってくることが中心で、自分たちで考えなくてもやるべきことがわかっている会社でした。しかし、2012年頃は米Yahoo!の業績が振るわず、目指すべきモデルが見えなくなってきていました。さらには、デバイスがPCからスマホに移っていく局面でもありました。つまり、アメリカで成功したモデルをもってくるのではなく、自分たちでやるべきことを考えなくてはならないという状況になっていたのです。2012年の新経営体制を迎え、一人ひとりが主体的に物事を考えていく必要に迫られたときに、最初に手をつけるべきは上司と部下の関係だということになりました。

コーチングで組織の可能性を引き出す

人は、何かをするとき、常に自問自答しながら行動します。「今日は会社に行く」、「何を着よう」、「今日の気温は●度だ」、「だったらこういう服かな」、「スケジュール表を見たら、今日はコーチ・エィのセミナーでプレゼンをする」、「では、スーツを着ていこう」というように、常に、問いと答えの連続の中で何かを決めて行動するわけです。これは、ビジネスにおいてもまったく同じです。事業やサービスを開発し、動かすときも、自問自答というプロセスは変わりません。問いを立てて考え、答えを出していく。

2012年のヤフーは、輸入すべきビジネスモデルがないという事態に直面し、もっと新しい発想をもってビジネスにあたらなければならないという危機感がありました。そして、新しい発想や新しいビジネスのタネはどこにあるかと考えたとき、社内にたくさんの可能性があることに気づいたのです。

現場の社員は、日々、自ら問いを立て、答えを出しながらビジネスを動かしています。ビジネスのタネはそこにありました。彼らのもつ情報やアイディアをもっと活用していこうと考えて、「コーチング」という取組みが始まりました。

それまでの体制では、業務上の指示を受ける以外で上司と部下が話す機会は3ヶ月に一度しかなかったと言っても過言ではありません。私自身、上司との接点があったのは四半期ごとのボーナスが出るタイミングだけでした。ボーナスの紙が手渡され、「今回もよく頑張ったね。何か話したいことはある?」といった会話をする程度。そういう環境でしたから、上司が部下に対してコーチングを始めるというのは、かなり大きな変化でした。

「コーチング」は問いの質を上げる

ヤフーの上司・部下の関係においては、「指示」、つまり「ティーチング」の割合を相当減らし、「コーチング」の割合を多くするようにしました。上司が、部下に対して指示ばかりするのではなく、部下がもっている情報を引き出そうというマネジメントスタイルの転換です。ただ、この取組みは、部下から情報を引き出して、それを経営陣が検討するといったスタンスでの取組みではありません。コーチングによって、上司と部下の関係の中で「自問自答の幅を広げる知的な活動」を実現しようと考えたのです。先ほど申し上げた通り、「答えは自分の中にある」とはいえ、問うのが自分であれば、自分の問いのレベルが上がらない限り、それ以上の答えが返ってくることはありません。逆に言えば、問いの質が上がれば、自分で考えられる答えのレベルが上がり、バリエーションも増えていくわけです。第三者から、自分では思いもよらなかった問いを投げかけられることによって、その場でのアイディアが磨かれ、最終的には自分の問いの質も上がっていきます。

「なぜそういうことをしようとしているのか」、「競合はどういう動きをとっているのか」、「たとえば10倍の規模にしようとしたときにどうするのか」といったように、相手が自分では考えていないような問いを投げかけることでサービスを強化していく、そういうことです。「なんだ、そんなことか」と思われるかもしれませんが、実は、第三者が問うてくれないと、自問自答のレベルはなかなか上がらないものだと思います。

コーチング、フィードバック、問いによるマネジメント

副社長である私の直属の部下は19名の執行役員です。私自身は熊澤さん(コーチ・エィ エグゼクティブコーチ 熊澤真)のコーチを受けていますが、私自身も直属の部下にコーチングをしています。

私は、初めて管理職になった人たちに対して、部下とのコミュニケーションを「コーチング(問い)」、「フィードバック」、「ティーチング」という3つに分け、「『フィードバック』を一番大きくして、『コーチング』を次にして、『ティーチング』は一番少なくしなさい」と伝えています。「フィードバック」は、「問い」ではありません。「今、こう見えているよ」と伝えることです。これはチームプレイをする上でとても重要なことです。

仕事をしているときの「自分」というのは、周囲からの期待に応えるために演じている部分があります。そういうときに、上司が予断をもたず「今、こう見えているよ」と単に伝える。それを繰り返すことによって、部下は自分を客観的に捉えられるようになり、結果的には自問自答の質の向上にもつながります。「いいね」とか「悪いね」といった上司の判断を含む評価を言うのではなく、「今、こう見えているよ」というフィードバックと問いを多くすることが、部下の能力開発に大きく寄与すると考えています。

ティーチングはどんなときに機能する?

では、「ティーチング」はどんなときに機能するのか。ティーチングがもっとも機能するのは、危機に直面したときです。トラブルが起こったときは、当然、経験豊かな上司の方がうまく処理ができます。そのタイミングで、上司が部下に対して「今、このトラブルを処理している自分の気もちって、どんな気もち?」、「今この局面で、自分にとって大事な人って、何人いるの?」なんて聞いていたら、目の前の火はさらに広がっていってしまいます。そういう場合には、「こうしなさい、ああしなさい」と指示を出したほうがいい。

ほかには、社会のマナーとして、理由なく「こうしたほうがいい」ということもありますよね。「名刺を渡すときはこのようにしなさい」というように、マナーを教えるときや、危機のときの指示以外は、「ティーチング」を極力抑え、なるべく「フィードバック」と「コーチング」を中心に部下と関わるということをやっています。こうしたマネジメントを通じて、現場の自問自答の能力を上げ、ひいてはサービスのレベルを上げていこうという試みです。

次回へ続く


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