株式会社コーチ・エィにおいて行われた講演会の記録です。
ヤフー株式会社 副社長執行役員最高執行責任者 川邊健太郎 氏
ヤフー副社長が語るエグゼクティブ・コーチング:第4回 エグゼクティブコーチは、誰につけるのが効果的?
2017年09月19日
2017年5月17日に株式会社コーチ・エィ主催のフォーラムにて、ヤフー株式会社 副社長執行役員最高執行責任者である川邊健太郎氏に、エグゼクティブコーチをつけている体験について語っていただきました。本シリーズでは、川邊氏の講演の内容を4回にわたってお届けします。
第1回 | 「本当に効果があるのだろうか?」と思っていた |
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第2回 | ヤフーのコーチングマネジメント |
第3回 | 私にとってのエグゼクティブ・コーチングの価値 |
第4回 | エグゼクティブコーチは誰につけるのが効果的? |
本記事は、2017年5月17日の取材に基づき作成しています。
内容および所属・役職等は取材当時のものを掲載しています。
川邊さんに、参加者の方からの質問に答えていただきました。
エグゼクティブコーチは、誰につけるのが一番効果的だと思われますか。ご自身の経験を踏まえて、どういうポジションの人に、どういうタイミングで、どんな性格の人につけたら一番いいかということについてお考えがあれば教えてください。
川邊 2つあると思います。一つは、今日のお話で申し上げた通り、組織的な波及効果がかなり大きいので、上からつけた方がその波及効果の恩恵に与りやすくなると思います。勉強熱心な下の現場の人がコーチをつけても、「意識高い系の社員」と言われて終わってしまう可能性が高いので、社長自らがひたむきに取り組み、社長が話していることが本当に変わってきたら、会社全体が変わり始めますよね。ですから、組織でコーチをつけるのであれば、上からがいいと思います。
もう一つは、新任の役員です。新任の役員というのは、当然、実力があってそこまで上がってくるわけですが、一方でやはり未体験ゾーンに突入しているわけです。そこでつまずくのか、最初からある程度うまくいくのかによって、その人自身だけでなく、その人が担う部署の未来が変わってしまいます。ですから、新任の役員にコーチをつけて、万全のサポートをするというのは非常に効果が高いと思います。その場合、タイミングとしては最初からがいいと思います。日本の組織だと、「遅れてつける」ということがありがちですが、一度つまずいてしまうと、結局リカバリーに時間がかかります。だから最初からつけたほうがいい。そのほうが、その人もサポートされていることに安心して取り組めると思います。
僕の場合であれば、GYAOの社長時代にコーチがいたら、間違いなくよかったでしょうね。
川邊さんのお話の中で、自問自答の際の「問いの質」という単語が頭の中に焼きついたのですが、具体的にはどのように「質が上がった」ことを認識されるのでしょうか。
川邊 コーチングでは、まず課題とやりたいことを聞いて、その後に現状、ギャップの有無を確認して、ギャップがあるならばそれをどうやったら埋められるかを聞いていくという、基本的な質問の流れがあります。こうした流れを意識していないと、部下への質問というのは、実は場当たり的に行われがちです。場当たり的な質問ではなく、まず「どこを目指しているか」を聞き、「現状」を聞き、そのあいだの「ギャップ」を聞くというような流れで質問をする。これだけでも全然違います。
そういったやりとりでは、たいていアイディアや数字、競合などの話が出ますが、実はビジネスをうまくいかせるためには、「それらをとりまく人間関係」や、「チームの関係の質」といったことが実は重要です。本人はあまりそういう視点をもっていないことが多いので、そういう角度で問いを投げると初めてそのことに気づくわけです。こういう視点は、自分が問われたことがないとなかなか体得できないことなのではないかと思います。
孫さんに対しては、どのようなコーチングが行われているのでしょうか?
川邊 コーチングは自問自答の幅を広げるためのものであるということを説明しましたが、孫さんの場合、問いを投げるのは、「自分」だと思います。あるとき孫さんに「新しいことは、どのように考えていのですか」と聞いたことがあります。孫さんは、「ひたすら考える」と言うわけです。どうやって考えているかを聞いたところ、「考え方は簡単で、『いま自分の会社で一番イケてる事業は何か』というのを考え、『そのイケてる事業を、自分が競合会社だったらどうやって破壊し尽くすか』というのを考える」と言っていました。そして、破壊できる方法を思いついたら、自分が先にそれをやるのだそうです。そういう意味で、孫さんは自分でコーチをしていると言えると思います。
それに加え、ソフトバンクグループの社外取締役の存在も大きいと思います。社外取締役には、柳井さん(柳井正氏)や永守さん(永守重信氏)など、世界においてもトップレベルの経営者がいます。彼らはソフトバンクグループの中に事業をもっているわけではないので、「問い」しかありません。彼らからの「問い」の意味は、大きいと思います。
また、孫さんは、連続したフィードバックを起こす「フィードバックループ」をかなり自分で作られていると思います。一つは社外取締役などエグゼクティブからのフィードバックループ、もう一つはユーザーからのフィードバックループです。ツイッターで、エンドユーザーから日々怒られているわけです。孫さんは、そこでのフィードバックループを大切にしています。
さらにもう一つ、現場の社員からのフィードバックループがあります。後継者を育てるために運営している、ソフトバンクアカデミアがあります。ソフトバンクアカデミアには、ソフトバンクグループの中から集まっている現場の若手である内部生と、社外から参加している外部生がいます。孫さんは、内部生たちと話をしていて、現場の情報を吸収しています。これは有名な話になってしまいましたが、2012年のヤフーの新経営体制も、実はソフトバンクアカデミアが端緒になっています。
いわゆる「コーチング」という感じではありませんが、客観的に自分や自分の会社がどう思われているか、どう見られているかという、「フィードバックループ」をかなり意識的に作っていると思います。
(了)
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