講演録

株式会社コーチ・エィにおいて行われた講演会の記録です。


リクルートからJリーグチェアマンへ!一流ビジネスマンが挑むJリーグ改革
Jリーグ チェアマン 村井満 氏

第2回 トッププロだけがやっていること

第2回 トッププロだけがやっていること
メールで送る リンクをコピー
コピーしました コピーに失敗しました

2017年10月23日開催の株式会社コーチ・エィ主催のセミナーで、第5代日本プロサッカーリーグチェアマン(Jリーグ)村井満氏に、ご自身がチェアマン就任以来実践されてきたJリーグの改革について語っていただきました。本シリーズでは、村井氏の講演内容を6回にわたってお届けします。

第1回 Jリーグの試合を面白くする
第2回 トッププロだけがやっていること
第3回 世界のトップリーグとJリーグとの違い
第4回 新たな投資先
第5回 サッカーの本質はミス?
第6回 サッカーをもっと身近に

活躍する選手、引退する選手

Jリーグは2月下旬から開幕するので、2月初旬にJリーグに加入する新人選手を迎える入社式のような研修があります。チェアマンは、そこで選手たちにスピーチをしなければいけません。毎年、130人ほどの綺羅星のような新人選手たちと、付き添いのクラブの育成担当の、総勢300人くらいのサッカー関係者たちが一堂に会します。彼らは毎年、「村井はどんなことを言うのだろう」「お手並み拝見」といった顔で見ているわけです。 

チェアマン就任の初年度のときのことです。先にもお話ししたように、私はサッカーの世界で仕事をしたことがなかったので、彼らの前で話すような内容を持っていませんでした。そこで、職歴を活かして、10年前(2005年)にJリーグに入った選手のプロファイルを全件調べ上げました。2005年にJリーグ入りした選手といえば、本田(圭佑)選手、岡崎(慎司)選手、西川(周作)選手が有名です。彼らはJリーグ入りしてからの10年間で、世界のトップリーグに移籍して活躍するほどまでに成長しました。対して、同じ年に加入した新人たちの3分の2は、引退しています。活躍している選手と引退した選手たちの違いを明らかにするために、指導者として彼らを預かった人たちにアンケートをとって、解析してみました。

活躍する選手に共通する「傾聴力」と「主張力」

この話を聞いて、活躍する選手は「心技体」の何かが特に秀でているのではないかと予想される方が多いと思います。例えば「心」、どんな大舞台でも物怖じしない、ピッチ上でのメンタリティが並外れて高い選手。あるいは「技」、ゴールに正確なシュートを放つことができる、といったテクニックが秀でている選手。そして「体」、持久力、瞬発力、スピード、といったフィジカルの強さをもった選手。

ところが、調べてみると「心技体」のいずれも相関がないことがわかりました。むしろその逆ともいえる結果が出たのです。本田選手は、中学のときにJリーグのジュニアユースに所属していましたが、ユースチームに上がれずに高校に行きました。また、岡崎選手については、所属していた清水エスパルスの当時の指導者にインタビューしたところ、「一流は何も言わなくてもできる、二流は言われたらできる、三流は言ってもできない。岡崎選手は全くの三流で、何度言ってもできない選手だった」と言っていました。

では、10年間活躍できる選手が共通して秀でている部分はないのか。私は、リクルートのSPIや職業適性検査といった職業能力のインベントリーを、50くらい並べて再調査しました。すると、ある2つの能力だけが飛びぬけて相関性が高いということが分かりました。一つは「傾聴力(アクティブリスニング)」です。そしてもう一方は「主張力」でした。では何故、この二つの能力が、世界のトッププロに共通するのでしょうか。これはまだ仮説ではありますが、サッカーが相当「理不尽なスポーツ」であるということに起因しているのではないか、という考えに至りました。

理不尽を乗り越える力

日本代表のハリルホジッチ監督は、Jリーグで3年間も得点王だった選手を代表に起用していません。ビジネスの世界であればおかしな話です。トップセールスで結果を出していれば、給料が上がって、より良い仕事につけそうですが、サッカーの世界では、監督がデザインするコンセプトと違う選手であれば、どんなに結果を出しても使われません。こうしたことは、選手にとっては、「心が折れる」瞬間になり得ます。

また、後ろから悪質なタックルを受けて十字靭帯にけがを負ってしまうと、その選手自身がいくら真面目に取り組んでいても、選手生命が絶たれてしまうこともあります。

そして、何よりも、サッカーというのは、プロが全力で90分プレーしても0対0で終わるようなスポーツです。それは使っていいのが脚だけだからです。90分の大半が、シュートミスやパスミスです。サッカーの試合では選手もサポーターも天を仰いだり、地団太を踏んで悔しがったり、理不尽な瞬間がそこにはあります。

海外でも活躍する選手は、10年間、そうした心が折れる瞬間を何度となく経験しながらも、「僕は左脚を毎回けがするんだけど、どうしたらいいのでしょうか」「なぜ私を使ってくれないのですか?」と、周りに積極的に聞き、教えてもらい、一方で「自分はこう思う」と自己主張をして、情報を引き出している。これを繰り返す能力が非常に高い選手たちだったのです。これを私は「リバウンドメンタリティ」と呼んでいるのですが、これまで、日本のサッカー教育では、この「リバウンドメンタリティ」を鍛えるトレーニングをしていませんでした。技術やフィジカルを向上させるトレーニングはやっていても、傾聴力や自己主張力を高めるトレーニングはなかった。Jリーグの改革は、こうしたピッチの外側でのトレーニングも含めたものに変わり始めました。

ドイツは何をしているのか

いろいろと調べてみたところ、ピッチ上の能力だけでなく、総合的な育成を施している国がありました。私がチェアマンに就任した2014年に開催されたブラジルでのワールドカップで、開催国であるサッカー王国ブラジルに、7点もの大差で勝利して優勝した国があります。ドイツです。一方、日本は初戦のコートジボワールとの試合で、エースのドログバ選手が率いるチームに逆転負けを喫し、その流れでグループリーグ敗退に終わってしまいました。

両者の違いは何だろうと考えました。そして、大会の最終日の夜、食事をしていた時に、ランチョンマットの裏に、やるべきことの8項目のリストを作りました。その一つが「ドイツをベンチマークして、徹底的に調べること」でした。 

(次回へ続く)


※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

この記事を周りの方へシェアしませんか?

この記事はあなたにとって役に立ちましたか?
ぜひ読んだ感想を教えてください。

投票結果をみる

スポーツコーチング

コーチング・プログラム説明会 詳細・お申し込みはこちら
メールマガジン

関連記事