講演録

株式会社コーチ・エィにおいて行われた講演会の記録です。


リクルートからJリーグチェアマンへ!一流ビジネスマンが挑むJリーグ改革
Jリーグ チェアマン 村井満 氏

第1回 Jリーグの試合を面白くする

第1回 Jリーグの試合を面白くする
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2017年10月23日開催の株式会社コーチ・エィ主催のセミナーで、第5代日本プロサッカーリーグチェアマン(Jリーグ)村井満氏に、ご自身がチェアマン就任以来実践されてきたJリーグの改革について語っていただきました。本シリーズでは、村井氏の講演内容を6回にわたってお届けします。

第1回 Jリーグの試合を面白くする
第2回 トッププロだけがやっていること
第3回 世界のトップリーグとJリーグとの違い
第4回 新たな投資先
第5回 サッカーの本質はミス?
第6回 サッカーをもっと身近に

魅力的なJリーグを作る

チェアマン就任前は、リクルート社に勤めていました。30年間にわたり、リクルート本社の人事部門や、系列の人材紹介会社の経営などを通じて、人と組織を見てきました。サッカー関係者の多いJリーグの組織では、めずらしい経歴だと思います。もともとサッカーは大好きでしたが、まさか自分がJリーグのチェアマンをやるなど、想像もしていなかったキャリアチェンジでした。あるきっかけでJリーグの社外理事を務めることになり、その流れで、2014年にJリーグのチェアマンに就任することになりました。

今日は、私がチェアマンに就任してからの七転八倒ぶりについてお話をしたいと思います。

チェアマンに就任した当時、Jリーグは入場者数からグッズ販売に至るまで、すべてが右肩下がりの状況でした。そこで、右肩下がりの原因を探り、解決の方向性を一つに絞るために、4人の役員と合宿をして、意見をぶつけ合うところから始めました。

カギは若手選手の育成

解決すべき問題の一つとして浮上したのは、Jリーグと日本代表の関係性でした。日本代表チームは、本田圭祐選手や香川真司選手をはじめとした、海外で活躍する選手たちのおかげでブランドイメージが高くなっていて、代表戦はいつも満員です。ブランドイメージも高く、チケットも売り切れるというと、一見良い循環に見えます。たしかに日本代表に限っていえばその通りですが、その裏側でJリーグでは、活躍する選手が海外に流出してしまうという状況に陥ります。

活躍する選手がどんどん海外に流出してしまうために、日々のJリーグの試合は、例えるなら千両役者を抜かれた歌舞伎のようになっていきます。「この選手を観たい」と思っていても、その選手がシーズン途中で海外に移籍してしまう。つまり、チームやリーグのブランド力が下がり、結果的にJリーグの収益は落ちて、チーム強化の投資ができなくなります。日本代表チームの好循環の裏には、こうした悪循環が生まれる、という構造にありました。

日本代表チームの選手も、もともとはJリーグで活躍していた選手です。そのJリーグのチームにおいて、戦力強化のための投資ができないとなると、将来的には代表で活躍する選手を生み出せなくなっていきます。代表チームがリーグをリソースとしている以上、Jリーグが崩れてしまったら、それは日本サッカー界全体の瓦解につながってしまいます。

とはいえ、「収益力を上げよう」と決めても、いきなり入ってくるお金が増えるわけではありません。そこで、私たち経営陣は、合宿では、まずはJリーグのブランド力を高めることに注力しようということを決めました。今はメッシ選手のような選手はいないけれど、10年後くらいにはいい選手がもっとたくさん生まれ、海外にいくら引き抜かれても問題のないくらいに、計画的に若手の育成に取り組むことにしました。

「チェアマン4つの約束」

「ブランド力を高める」とは、すなわちJリーグで行われる一つひとつの試合を魅力的にしていこうということです。その実現に向けて、「チェアマン4つの約束」というものを作りました。4つの約束とは、「簡単には倒れない」「リスタートは早く」「選手交代は早く」「異議をやめよう」という4つです。この4つの約束を書いたポスターを、全スタジアムのロッカールームとクラブハウスに貼りました。最初の改革は、至極当たり前のことからのスタートでした。

この「4つの約束」に対しては、選手や監督、現場スタッフからは「これだから素人(のチェアマン)は困るよね」という声が上がり、サポーターからもたくさん文句を言われました。それでも私は、「簡単に倒れない」というのは、試合を魅力的にするためにとても重要なファクターだと思っていました。

負けてもファンの減らないチームに

ちょうど私が就任した年(2014年)に、ブラジルでワールドカップがありました。ある海外同士の試合の終盤に、攻撃側の選手が相手のスライディングを受けて大きく転んだのですが、彼はすかさず立ち上がり、ゴールへつなげるという一幕がありました。もちろん、残り3分というゲームの重大局面だったため、ファウルを流したということもあったとは思います。しかし彼はチャンスを逃さなかった。そのシーンを目撃して、ちょっと足をかけられただけで、選手やサポーターが審判にファウルを求めるようなメンタリティでは、世界に勝てないと感じました。

そんなことを考えていたら、J2・松本山雅FCの反町康治監督が、湘南ベルマーレ監督時代の試合の動画を見せてくれました。湘南ベルマーレは、攻撃側に回ると、フィールドの選手が一斉に敵陣に向かって走り込むサッカースタイルを貫いています。反町さんは、常に選手たちに、

「レフェリーに文句を言ったら、チームから外す」

「レフェリーに文句を言うのは俺の仕事だから、選手はたとえタックルを受けてもすぐに立ち上がって縦に攻めろ」

と、伝えていたそうです。

ベルマーレは、コンセプトブックとして『縦の美学』という本を出して、ファンやサポーターに配っています。また、松本山雅は、J1からJ2へ降格してもファンの数が減りません。勝ち負けでファンの数が変わらないチームが出始めたということは、Jリーグにとって非常に大きな意味をもつものでした。

時間差は4秒

また、サッカーではコーナーキックやゴールキックのように試合が止まる瞬間があります。私は、試合が止まり、次の攻撃に移るまでの時間を、ワールドカップの試合とJリーグの試合とで比較してみました。ワールドカップで、選手がゴールキック、コーナーキックに要した時間の平均は26.4秒、対してJリーグでは30.6秒でした。ワールドカップでは、リスタートまでの時間が4秒も早い。Jリーグでは、試合が止まった時に、選手たちが毎回水を飲んだり、ストッキングを直したりと時間をかけます。ワールドカップでは、相手がポジションに戻って守りを固める前に、すかさずリスタートしますから、休んでる暇もなく、そのため試合のスピード感も早いのです。

Jリーグ全チームの、リスタートまでに要する時間を計り、全クラブの社長が集まる会議で、一人ひとりに「あなたのクラブは何秒」と報告し、それ以降、毎週報告をメールで送るようにしました。それを1年続けたところ、Jリーグのコーナーキックに要する時間が、2秒くらい減りました。

(次回へ続く)


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