医療/福祉現場での対話の価値

制度・仕組みだけでは解決できない複雑な問題に対しリーダーができることは何か。自らコーチングを学び、周囲を対話に招き入れ、組織力やチームワークの向上に尽力する医療/福祉現場のリーダーに迫る。


医療法人社団三喜会鶴巻温泉病院 リハビリテーション部 係長 東泰裕氏インタビュー

患者さんもスタッフも。皆が自分らしく生きていくことをサポートしたい

※内容および所属・役職等は取材当時のものを掲載しています。

患者さんもスタッフも。皆が自分らしく生きていくことをサポートしたい
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リハビリテーション病棟で言語聴覚療法セクションを管轄する東さん。患者さんやスタッフとのコミュニケーションをより良くするために、コーチングを学ばれました。ご自身が周囲の人への関わり方を変え、院内1on1コーチングを導入する中で、患者さんやスタッフにはどのような変化があったのか、また、リハビリテーションに従事する人がコーチングを実践する価値についてお聞きしました。

本記事は2023年4月の取材に基づき作成しています。
内容および所属・役職等は取材当時のものを掲載しています。
表紙写真: 東泰裕氏

コーチングを学び始めたきっかけ

 コーチ・エィ アカデミアで学ぶことを決められたきっかけを教えてください。

 職場で後輩が増えて指導する立場となり、マネジメントや教育に関する書籍を多読し始めた頃に、コーチングについて知りました。

当時は、患者さんやスタッフとの関わりの中で、より良いコミュニケーションのあり方に悩んでいました。自分の意見を周囲に伝えようとするとき、真正面からぶつかって衝突したり、相手に配慮した伝え方ができずに関係がぎくしゃくしたりするようなことが続いていたんです。また、同じようなコミュニケーションの衝突が周囲でも起こっていて、組織で起こっているコミュニケーションをどこかで変えていけたらと思っていました。

 どんなコミュニケーションに変えていけるとよいと思っていたのでしょうか。

 自分の意見に固執せずに、周囲から意見を出してもらい、双方で新しい考え方や行動のアイディアが見つかるようなコミュニケーションが理想だと思っていました。

ですが、書籍を読んだだけでは、自分のコミュニケーションに対するフィードバックはもらえません。本を読んで実践してみるものの、「これでいいのかな」と思うことが多くありました。そのことが反省材料となり、コーチングを実践的に学ぶことを決意しました。

コーチ・エィ アカデミアのオンラインクラスは、スケジュール調整の柔軟性が高いので、仕事に支障をきたさずに続けることができました。

スタッフの成長や目標達成を支援するために、コーチングの日程資格を取得
提供:東泰裕氏

自分自身の変化

 それまでは周囲の人とどのような関わりをされていたのでしょうか?

 自分が思ったとおりの反応を相手が返してくれないと、相手のたった一言に対して「ありえないよ」と強く感じてしまったり、「あの人には伝わらないんだ」と、関係をあきらめてしまうことが多くありました。今思うと、相手に対して「こういう人だ」とレッテルを貼っていたのだと思います。仕事は日々忙しく、コミュニケーションをとる時間も限られている中で、レッテルを貼ったり、関係をあきらめていく方が、楽だったのかもしれません。また、そうすることで自分を守っていた側面もあると思います。

しかし、そのような関わりを続けていると弊害もあります。たとえば、スタッフの退職です。関わりをあきらめた時、相手はきっと「見放された」ように感じたのだと思います。自分の存在が承認されず、安心してここに居られない、そんなふうに相手に思わせていたかもしれません。「見放された」という言葉は、実際に他の人から僕の耳にも入っていました。そこで、自分のコミュニケーションを工夫し、自分自身を変革することが必要だと思いました。相手との関係をあきらめるまえに、自らよりよい関係をつくり出していく関わりができるようになりたいと思ったのです。

また、それまではマネジメントの場面においても「自分が後輩を育てないといけない」「導いていかないといけない」という想いから、周囲に積極的に指示を出し、リーダーとして正解を伝えることを意識していました。そのためには、常に最先端の知識を教えられるようにしておかないといけない、と自分に課題を課し、苦しくなっていました。

 そこから何を意識して関わるようになりましたか?

 オンラインクラスで、相手の話を「聞く」ことの奥深さに気づいたのと同時に、「自分はいかに人の話を聞けていないか」ということに直面しました。そこからまずは、相手のコミュニケーションタイプを観察したり、話を聞くようにしたり、承認したりすることなどを意識しました。

相手の話を聞くときは、私の中にむくむくと湧き上がる「こうでしょ!」という決めつけをいかに脇に置くかが大きな課題でした。相手の表情をみて、声のトーンにも意識を向けて、「そういう考え方もあるよね」「そうだね」と相手を否定せずに関わることから少しずつ意識していきました。

また、私自身の質問の内容や意図が相手に影響していることに気づき、もっと一人ひとりに合わせた個別対応(テーラーメイド)のコミュニケーションが必要だということに気づきました。自分の言葉や態度が相手に影響し、相手が本当に話したいことを自由に話せるような環境が創り出せていないことがあります。そこで、自分の範囲で思考を展開させるのではなく、相手にとって居心地の良いスペースで、安心して話したり考えたりできるように関わることが大事だと体験を通じて思いました。

 患者さんへの関わりにはどのような変化がありましたか?

 患者さんに対しても、関わり方の選択肢が増えたと感じています。患者さん自身がどう思っているか、感じているかを多く聞くようにしたり、エビデンスを踏まえつつも患者さん自身にリハビリのメニューを考えてもらったりするようになっていきました。

療法士は患者さんにいつまでも関わり続けられるわけではないので、最近は、患者さんや家族が退院後、自分達で考えて自律的に生活していけるようになるための「問い」をいつも考えるようにしています。患者さんが療法士の存在に依存すると、退院後もリハビリを漫然と続けてしまうことになりがちです。今からの自分の人生をどう生きていきたいか、家族を含めた自分たち自身で主体的に考えてもらえるように、そんな関わり方を意識するようになりました。

私の患者さんへの関わりを見た実習生からは、「こんな風に自分で考えてもらう関わりが大事なのですね」と言われ、自分自身の変化を感じました。

院内1on1コーチングの実施

 1on1コーチングでは、どのようなことを意識し実施されていたのでしょうか?

 コーチングを学ぶ前から、自分が管轄する言語聴覚療法のセクションで1on1を導入していました。目標について定期的に話すことの効果を実感していたためです。コーチ・エィ アカデミアでコーチングを学ぶことで、1on1でもより効果的な関わりができるようになりました。

まず、問いの選択肢や承認の言葉が増えました。また、相手の話を最後まで聞いたり、沈黙に耐えたりできるようになったことで、結果として、セッションの中で相手が「自分を自分の言葉で表現する」時間を増やすことができるようになった気がします。でも、まだ相手を問い詰めてしまうなど、うまくいかない場面もたくさんありますし、相手によってはコーチングに疑問を感じている人もいるようです。

 東さんの関わりによって周囲に生まれた変化にはどのようなものがありますか?

 あるスタッフは、私との1on1をきっかけに「自分がどんなリーダーになりたいか」についての360度フィードバックの項目を自ら考え、周囲にフィードバックをもらうことに取り組んでいました。また、別のスタッフはコーチングにすごく興味を持ち、相手の理解を深めるためのアセスメントを自分でつくって、後輩とのセッションにいかしていました。みんな、いろいろな工夫をしながら生き生きと楽しそうに取り組んでいて、自分のやりたいことは主体的に取り組むものなのだということを目の当たりにした気がします。

私のコーチングで気づきがあったと言ってくれたスタッフもいます。そのスタッフとは、一時期、関係性が悪化した場面もあったのですが、それを機に関わり方を見直しました。それまで自分がたくさんジャッジしていたことに気づき、セッションではジャッジを懸命に避けて、承認の言葉を増やすようにしました。その結果、そのスタッフはやるべきこと・指示されたこと以外のことにも目を向けるようになりました。自分の枠を外して、考えるフィールドが広がったのだと思います。

提供: 東泰裕氏

他にも、院内外の学術大会で研究発表をするという目標を達成したスタッフもいました。達成した姿を見た時は、私もとても感動し自分のことのように嬉しかったことを覚えています。

このようなスタッフの変化にコーチングの価値や可能性を感じて、自らコーチングを学び始めるスタッフもいます。組織の中でも興味を持ってくれている人が増え、今では他科(理学療法や作業療法、栄養科)でも1on1を導入し始めています。

自分らしく生きることをサポートする

 最後に、東さんからコーチ・エィ アカデミアの受講を検討されている方へメッセージをお願いします。

 コーチングは、コーチに話を聞いてもらうことで「自分がより自分らしくなっていく」時間だと感じています。

リハビリテーションの理念とコーチングの考え方には親和性があります。それは、患者さんやクライアントが自分らしく人生を生きていくのをサポートできるということです。リハビリテーションに関わる人は、ぜひコーチングを学んで欲しいと思っています。

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