医療/福祉現場での対話の価値

制度・仕組みだけでは解決できない複雑な問題に対しリーダーができることは何か。自らコーチングを学び、周囲を対話に招き入れ、組織力やチームワークの向上に尽力する医療/福祉現場のリーダーに迫る。


第60回 日本リハビリテーション医学会学術集会 ランチョンセミナー 10 抄録
公益財団法人北海道医療団 帯広西病院 院長 髙橋邦康氏

地方慢性期病院でのコーチング導入経験

※内容および所属・役職等は取材当時のものを掲載しています。

地方慢性期病院でのコーチング導入経験
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第60回 日本リハビリテーション医学会学術集会において、コーチ・エィが共催するランチョンセミナーが2023年7月1日に開催されました。超高齢社会を支える医療現場において、制度・仕組みだけでは解決できない複雑な問題に対しリーダーができることは何か。自らコーチングを学び、職員が対話に参加できる機会を創り出し、組織力向上に尽力する実践者の取り組みから、「楽しく働き甲斐のある環境」をつくる対話とは何か、その本質を鼎談形式で深めました。演者のお一人である、髙橋邦康氏の抄録を以下にご紹介します。

内容および所属・役職等は取材当時のものを掲載しています。
表紙写真: 髙橋邦康氏

十勝は北海道の南東部にある食糧自給率1100%を越える農業を主たる産業とする地域である。面積は岐阜県とほぼ同じで、現在の人口は約33万人。道内の中でも人口減少が緩やかではあるが、ピークであった1985年頃に比し約3万人減少している。帯広西病院は地域の中核病院である帯広第一病院の後方病院として1980年に帯広市に創設。2005年に全面新築し、回復期リハビリテーション病棟を設置、以降135床の回復期リハビリテーション1病棟、医療療養病床2病棟体制で回復期および慢性期医療を提供してきた。

私は2018年に院長として着任。当時の病院は病床稼働率は低迷、支出を極端に切り詰めることで赤字をなんとか免れており、当然病院内は沈滞ムードに満ち満ちていた。建物は築10年余の比較的新しい病院でありながら、一言で言えば「昭和の病院」というのが私の率直な感想であった。そんな中でまずは「昭和の病院から平成の病院へ」という思いで改革を行うこととした。スタッフの増員、在宅復帰への努力などに注力した結果、約3年で回復期リハビリテーション病棟入院料は6から2にランクアップ。またこの間に電子カルテの導入も行った。その一方で医療療養病床にも介護保険福祉施設にも入所できない対象者の増加に頭を悩ませた。熟慮の結果、2021年11月医療療養病床の一つを十勝初の介護医療院に転換。現在回復期リハビリテーション病棟、医療療養病床、介護医療院の3病棟体制で、地域急性期病院群の後方病院の一つとして医療介護を提供している。

上記のように、病院としての生き残りを真剣に考え、この5年間で思い切った改革を行ってきた。ただこれは下からの積み上げでなく、トップダウンによる上からの改革であった。勤務形態の変更や電子カルテなどの機械化、病院の中での介護保険施設への転換などは職員にも大きなストレスを与えた。その結果、変化の必要性を理解し努力できる職員と、新しい病院へなじめない職員との間の価値観の違いがより鮮明となってきた。改革により経営基盤が強化されても職員間の意識の違いは病院運営上大きな問題となり、よい組織風土の醸成が喫緊の課題として立ち塞がってきた。

そこで私が思いだしたのがコーチングであった。私とコーチングの出会いは、2004年の臨床研修必修化以前に遡る。制度実施に当たり、臨床研修指導医講習会でコーチングの存在を初めて知った。当時はまだ概略に触れただけであるが、研修指導のみならず、患者さんとのコミュニケーションにも大変役立つものと感じた。その後も書籍等で独学では学びながらもきちんとしたトレーニングを受ける機会を逸していたが、いつかしっかりと学び、よい職場作りにコーチングを役立てたいとの思いをずっと持ち続けていた。今回幸運なことに法人内においての働き方改革の一環として、心理的安全性やコーチングの導入などが検討され、(株)コーチ・エィの提供する「システミック・コーチング™」を導入する機会を得た。まだ2022年10月よりスタートしたばかりの正式には一年にも満たない学びではあるが、この短期間においてもプロコーチよりコーチングを直接受けた私自身の変化、また私が内部コーチとして担当した職員との関係性や職員自身の変化を着実に感じているところである。

今回のセッションでは、私たちの経験を皆様と共有することでまた新しい気づきや学びが生まれることに期待を込め、当院でのコーチングプロジェクト導入について紹介したい。


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