医療/福祉現場での対話の価値

制度・仕組みだけでは解決できない複雑な問題に対しリーダーができることは何か。自らコーチングを学び、周囲を対話に招き入れ、組織力やチームワークの向上に尽力する医療/福祉現場のリーダーに迫る。


第60回 日本リハビリテーション医学会学術集会 ランチョンセミナー 10 抄録
島根大学医学部附属病院 リハビリテーション部 療法士長 江草典政氏

リハビリテーション医療に強い組織をコーチングマネジメントで創り出す

※内容および所属・役職等は取材当時のものを掲載しています。

リハビリテーション医療に強い組織をコーチングマネジメントで創り出す
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第60回 日本リハビリテーション医学会学術集会において、コーチ・エィが共催するランチョンセミナーが2023年7月1日に開催されました。超高齢社会を支える医療現場において、制度・仕組みだけでは解決できない複雑な問題に対しリーダーができることは何か。自らコーチングを学び、職員が対話に参加できる機会を創り出し、組織力向上に尽力する実践者の取り組みから、「楽しく働き甲斐のある環境」をつくる対話とは何か、その本質を鼎談形式で深めました。演者のお一人である、江草典政氏の抄録を以下にご紹介します。

内容および所属・役職等は取材当時のものを掲載しています。
表紙写真: 江草典政氏

コーチングに関する定義は緒論あるが、コーチングは総じて「相手の目標達成に向けて支援者本人の可能性に立脚し、知識とスキルの棚卸しを前提とした課題の明確化を試み、そして自発的行動が惹起されるように支援するための対話を主体としたプロセス」と考えられている。コーチングそのものは行動分析学的手法を背景にそのスキルが特定され、ビジネス領域における人材マネジメントを中心にその手法を発展させてきた。近年ではGoogle社の大規模調査プロジェクト「Project Oxygen」で優れた業績を上げるチームのリーダーはすべからく「コーチ」であることが見出され、Wangらのメタアナリシスでコーチングが組織へのコミットメントや個人の目標達成・自己効力感、パフォーマンスを向上させることを示されており、多くの組織にてコーチング、またはコーチングの要素を取り入れる動きがある。

さて、冒頭で述べたようにコーチングは「相手の目標達成に向けて対話を活用する支援プロセス」である。これは、我々が従事するリハビリテーション医療の根幹でもある「患者の目標達成支援プロセス」と共鳴するものである。リハビリテーションの理念の達成の根幹には、対人援助による当事者の目標達成があり、そしてその達成を患者の可能性、自律性、に求めるという点はコーチングそのものであると言える。

このような事から、筆者が所属する島根大学医学部附属病院リハビリテーション部では2012年頃から人材育成にコーチングマネジメントを積極的に採用した。リハビリテーション医療において患者に気付きを与え、目標に向かう自発的な行動を生み出そうとするのであれば、支援者である療法士1人1人も各自の役割を認識し、目標を立案し、そして能動的に行動出来る人材であってほしいという事が大きな理由であった。

とはいえ、単純にコーチングを部門の中に導入した訳ではなく、組織変革の手段の1つとして導入した。具体的には、リハビリテーション部におけるミッション・ビジョン・バリューを定めるとともに、人事評価制度を見直しMBO(Management By Objectives and self-control)面談にコーチングの手法を採用した。また、各専門領域の課題解決に向けたプロジェクト立脚型の小規模チームを作り、中堅が積極的に部門マネジメントに関与することを進め次世代リーダーの育成を進めた。また、希望する職員に対しては、コーチとして専門トレーニングを受け、資格を取得した筆者がパーソナルコーチングを提供する事で目標達成に伴走し、並行して部門主任から各職員への1on1ミーティングを導入した。そして、何より些細なトラブルにおいてもリーダーから発する「問い」を変え、職員自ら考える組織文化作りを進めた。

これらの活動を通じて、MBO面談における各職員の設定目標の達成率は向上し職員満足度におけるエンゲージメントは向上した。また、「組織が新しい事に挑戦しようとしている」「斬新な発想や創意工夫を活かそうとしている」という個別項目においても高い評価を得ている。何より、スタッフ1人1人の自発的な課題提起が増え、スタッフのアイディアに基づく組織改革が日々生じる組織となった。

セミナーでは限られた時間となるが、これらの一部について話題提供する。リハビリテーションを担う組織作りのあり方について議論のきっかけとなれば幸いである。


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