リーダーの哲学

自分に影響を与えた一冊の本を題材に、各界で活躍されるリーダーの方々に「リーダーとしての哲学」を語っていただくインタビューシリーズです。


指導者とは? ー 歴史上のリーダーたちに学ぶ
東京地下鉄株式会社 代表取締役社長 山村明義氏 × 株式会社コーチ・エィ 鈴木義幸

第1回 リーダーとして何を貫き、いかに決断するか

第1回 リーダーとして何を貫き、いかに決断するか
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自分に影響を与えた一冊の本を題材に、企業のトップにリーダーとしての哲学を語っていただくインタビュー。今回は東京地下鉄株式会社(東京メトロ)代表取締役社長である山村明義氏にお話をうかがいました。インタビュアーは、コーチ・エィの鈴木義幸。山村氏の選んだ一冊は、リチャード・ニクソン著の『指導者とは』です。

第1回 リーダーとして何を貫き、いかに決断するか
第2回 常に新しい一歩を

第1回 リーダーとして何を貫き、いかに決断するか

『指導者とは』に衝撃を受けたわけ

鈴木 今回、山村さんが影響を受けた本ということで、リチャード・ニクソンの『指導者とは』をお持ちいただきましたが、この本を最初に読まれたのはいつ頃でしょうか。

山村 たしか社長就任の3年くらい前だったと思います。新聞のコラムで名著として紹介されていて、だったら読んだほうがいいだろうと、単純にそう思いました(笑)

鈴木 なるほど、そうなんですね(笑)。本をたくさん読まれていると思いますが、その中で今回、この本を選ばれたのは、どういう理由があるのでしょうか。

山村 この本の著者はニクソン元アメリカ大統領です。この本には、彼の目を通して同時代の世界のリーダー、たとえば、チャーチル、ド・ゴール、プレジネフといった錚錚たる顔ぶれの指導者たちの人間像、リーダー像が、赤裸々に描かれています。私自身は社長として、「至誠一貫」を座右の銘に、「一貫して誠実さを保つこと」を信条にしているのですが、この本に出てくるリーダーたちは、とても「至誠一貫」には収まりきらないものがあります。全く別の「我の強さ」というか、目的に対する執着のようなもの、目的のためにはあらゆる手段をとることも辞さない、そういうところに非常に衝撃を受けました。

鈴木 ある意味、座右の銘とは対照的というわけですね。

リーダーとしての座右の銘

鈴木 「至誠一貫」を座右の銘にされているとのことですが、それにはどのような背景があるのですか?

山村 「至誠一貫」というのは、高校の校訓なのです。静岡県の高校で、初代校長が掲げた校訓が「至誠一貫」でした。人生で「誠を貫く」のはすごく難しいことです。そこでそういうスタンスを持ち続けようという戒めというか、方向づけという意味で、この言葉を座右の銘にしています。

鈴木 すると、高校の時からの座右の銘なんですね。

山村 いえ、高校の時は正直なところ、「そうか、誠を貫くことは大事なことなんだ」と思う程度でした。社会人になってから、いろいろな局面で「場合によって自分を使い分けるようなことをするとうまくいかない。やはり、誠実さを持ち続けないと最終的に物事はうまくいかないんだ」と実感する機会があり、本当に大事なことなのだと思うようになりました。

鈴木 山村さんにとっての「誠」、「誠実さ」とは、具体的にどのようなものなのでしょうか。

山村 そうですね、自分の主義主張を突き通すだけではなく、他者とも、互いの存在や考え方をしっかり認め合う、そういう関係を保つための生き方だと思っています。

鈴木 なるほど。当然、人には「我」があって、自分の主義主張がある。それを保ちつつも、人との間に良好な関係をきちんとつくって、互いに認め合ってリスペクトする。そうした誠実さを貫き通すことが、リーダーとして非常に大事だということですね。

山村 そう思います。リーダーには、組織のメンバーを統率していく、鼓舞していくという役割があります。そのためには、自ら努力して汗を流す姿を示すということもあるかもしれませんが、やはりメッセージに誠実さがないと、人は動かないと思います。ですので、「至誠一貫」を中心に据えることが大切だと考えています。

リーダーが持つべき「強さ」

鈴木 さて、「至誠一貫」を掲げる山村さんにとって、この本に出てくるリーダーたちは衝撃だったということですが、具体的には、どのようなところが衝撃だったのですか。

山村 この本に出てくる政治家たちは、多くは第二次世界大戦前後の自国や世界をどうするのかを描き、そして、実現してきた人たちです。その過程で、彼らは、もし判断を間違えば国民の生命を脅かしてしまう、そんな非常に緊張感の高い決断をし続けなくてはならなかったわけです。国民を守りながら、世界の次の姿をつくり上げていくためには、強固な決意を持たなくてはならない。そして、それを脅かすような存在に対しては、排除するか、もしくは自分の論理に取り込んでいく、という強さが必要だったと思うんです。今の政治家ももちろんのこと、企業の経営者もまた同じスタンスが求められていると思います。社員や社員の家族の生活を守り、組織を成長させていくには、決然たる判断をし、実行していくことを軸におかなくてはならない。「至誠一貫」を基本にしつつも、そういった強さを持つべきだということを衝撃を持って学びました。

鈴木 これまでのビジネス人生で、そういった大きな決断を求められたご経験はあるのでしょうか。

山村 何度かあります。若い頃は技術系の現場にいたのですが、管理職になったあたりから、決断がかなり必要になりました。最近では、ホームドアのことがあります。会社として「ホームドアを全駅全路線につける」という方針はあったものの、当時はまだまだ実現できていませんでした。そんな中、青山一丁目駅で転落事故が起きました。ホームドアの整備をいち早く進めなくてはいけないと考えましたが、そのためには、車輌とドアのピッチをきっちり合わせる、車輌を定位置にビシッと停める、という具合に高度な技術も必要になると同時に非常にお金もかかるわけです。

鈴木 大きな決断ですね。

山村 加えて、その分仕事量が増えるわけですから、社員に負担をかけることにもなりますし、業界内のスタンダードにも影響を与えてしまう。それでも最終的には「ホームドア整備は優先して進めよう」という結論になりました。よかれと思って進めても、やはり一定の負担や影響が出てしまうことには変わりがありません。とはいえ、今でもその判断は間違っていなかったと思います。

「大義」を決断の軸に据えて

鈴木 よく「判断」と「決断」は違うと言われます。「判断」は、情報を集め、論理的に考えていけば、最終的に多くの人が同じ結論に至るもの。一方、「決断」は、どこまでいってもメリット、デメリットの両方が残る。そんな中で、リーダーは「決断」に責任を持つわけですが、メリット、デメリット双方がある中で、山村さんは、何を軸にして決断をされているでしょうか。

山村 「大義がどこにあるか」です。先ほどのホームドアの件で言えば、やはり人の命、安全。大義をまずしっかり見据えるということだと思います。

鈴木 その点でいくと、この本に登場する指導者たちは、前例踏襲にとどまらず、また、デメリットに惑わされることなく、「大義」を中心に据えて決断してきた人たちが多いということになりますか。

山村 だと思います。たとえば、チャーチル。「喜んだ」というと語弊があるかもしれませんが、彼は、第二次世界大戦へのアメリカの参戦を「これで状況は一変する」と歓迎しています。たしかにアメリカは大変な決断をしたと思います。彼らにしてみれば、ハワイは別にして、自国の領土が侵略を受けているわけではありません。それまでの発想であれば、自国民の命を危険にさらすことになる「参戦」という選択はありえなかったはずです。この本では、そうした生死を分ける決断の局面で、指導者たちが、前例を守ろうとする人たちと戦いながら、決断を貫いていく姿が描かれています。

次回に続く


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