リーダーの哲学

各界で活躍される経営者やリーダーの方々に、ご自身にとっての「リーダーとしての哲学」お話しいただく記事を掲載しています。


「ただのオープンな人」が世の中を変える
株式会社カインズ 代表取締役社長 土屋裕雅氏 × 株式会社コーチ・エィ 鈴木義幸

第3章 「浪人性」が物事を変える

第3章 「浪人性」が物事を変える
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自分に影響を与えた一冊の本を題材に、リーダーに哲学を語っていただくインタビュー。今回は株式会社カインズの代表取締役である土屋裕雅氏にお話をうかがいました。インタビュアーは、コーチ・エィの鈴木義幸。土屋氏の一冊は、司馬遼太郎の『竜馬がゆく』です。

第1章 行動しなければ意味がない
第2章 「個」を保ちつつ、人とつながる
第3章 「浪人性」が物事を変える

第3章 「浪人性」が物事を変える

すべては自分次第

土屋 現代で「浪人」というと、大学受験に失敗した人を指す言葉ですが、もともとは「どこにも属していない人」「何でもない人」という意味です。たとえ企業にいても、そういう雰囲気、言ってみれば「浪人性」をもった人っていますよね。私は、そういう「浪人性」をもっている人が物事を変えるのだと思っています。

鈴木 名言ですね。

土屋 こんなことを褒められるとは思っていませんでした(笑)。

鈴木 あはははは。でもほんとうにいい言葉ですよ。大企業にいても、そこにどっぷりつかるわけではなく、「浪人性」があり、いろいろな人とつながっている人が何かを変えていくということですね。

土屋 大企業の中にもそういう人がいると思うのですが、社長自身が「浪人」という会社があってもいいと思いますし、僕はそうありたいと思っています。会社に入れば、会社の看板を背負って仕事をするわけですが、仕事というのは最終的に自分と会話をしながら進めていくものだと思うのです。そこには一種の孤独があります。私の場合、大学浪人のときや、大学卒業後に入社した証券会社の営業のときにその感覚を経験しました。

鈴木 その体験によって、土屋さんは何を思い、何を手にしたのでしょう。そして、今にはどう影響しているのですか。

土屋 うまくいくことも、失敗することも、自分がやったことの結果だということです。結局はすべてが自分次第という感覚を手に入れたのは、とても大きかったと思います。その感覚は「浪人」っぽいと思います。特に証券会社で営業をやっているときは、組織に属してはいるものの、「浪人」っぽいなと思っていました。

内向的な性格が「個」を育んだ

土屋 私はもともと内向的というか、本を読んだり、映画を観たり、音楽を聴いたりして過ごすことが多かったんです。読んだり、観たり、聴いたりしながら一人で考えて妄想するんです。そうした内向性が自分の特徴でもあるし、それが「浪人」性につながっているように思います。

鈴木 「個」というものを、ずっと大事にされてきたのですね。そしてそれが、さまざまな人たちとつながっていくオープンさの基礎となっているということですね。社長としては、会社に「浪人」性が高い社員が多いほうがいいですか。

土屋 そのほうが面白いですよね。たとえば、同じ会社の人に会うと、なんとなく同じ雰囲気を感じることってよくありますよね。一つの文化の中に長くいると、その会社らしい人格が形成されていくものです。でも、実際にはもともともっている個性や思いや考えがあるはず。そういうものが、会社の未来に向けたヒントになることも多いのではないかと思います。ですから、自分の会社の社員には、もともとの個性をどんどん発揮してもらったほうがいいとは思っています。

鈴木 「浪人性」というのは、それぞれが違うことをやる可能性があるということですね。

土屋 企業の中で歯車になるとしても、それぞれの歯車に個性があっていい。個人の個性から工夫というものがが生まれるように思います。もちろん性格によりますから、ほとんど糸の切れた凧のようなタイプもいれば、なかなか外に出ない、あるいは出られないタイプの人もいます。なので適材適所だとは思いますが、本当は外に出たいのにそれを我慢する必要はないと思っていますね。

「個」としてのチャレンジを社員に見せていく

鈴木 社員のみなさんに対して「もっと外に出ていこう」という意識を高めるために、土屋さんが社長として働きかけていらっしゃることはありますか。

土屋 まずは社長である自分自身が、率先してチャレンジしていくということです。「個」としての勝負を見せていく。何年も前から、ロンドンのホームセンターの集まりに参加しています。初めて参加した時にはアングロサクソンの雰囲気に割って入ることができませんでしたが、継続的に参加していると、知り合いの数も多くなり、いまでは主要なメンバーになっています。そういう姿を次世代のリーダーたちに見せていく。リーダーとしてどんなふうに動けばいいか、自分の姿を通じて見せているつもりなんです。海外だけでなく、国内のカンファレンスでの立ち居振る舞いも、社員に見せる姿としてすごく大事だと思います。また、小売業以外の産業の人に会いにいくときにも誰かを一緒に連れて行き、そういう場面でどんな話し方をしているか、どんな接し方をしているかを見てもらう。そういうことが大事ではないかと思います。

鈴木 自信をもって、モデルを見せるということですね。

土屋 そうですね。それが一番大事だと思います。

「マーケット主義」だった坂本竜馬

鈴木 最後に伺いたいのですが、日々の意思決定の場面で、この本が影響していることは何かあるでしょうか。

土屋 『竜馬がゆく』の登場人物の多くは、薩摩や長州といった大きな藩に属しています。明治維新で薩長中心の政府ができて、その中でまた小競り合いがあったりする。「個」ではなく、所属している藩を背負っているわけです。

そんな中で、坂本竜馬はスタンスが違う。もっと自由な世の中であればいいとだけ思っていたような気がするんです。一般の人たちがいかに自由に生きられるかということに重きを置いていたように思います。

それはいまでいえば「マーケット主義」だろうと思うのです。意思決定をするときにはその視点を忘れないよう意識しています。マーケットから必要とされるような会社が残るし、マーケットに影響を与え続けられる会社が伸びる。単に「儲かりそうだ」といった考えでは、会社は伸びないと思います。

鈴木 なるほど。お話を伺いながら、想像以上に土屋さんのものの考え方とかリーダーとしてのあり方に『竜馬がゆく』が影響を与えているのだと思いました。

土屋 『三つ子の魂』ではありませんが、今日こうして振り返って、高校時代に読んだ本に驚くほど影響を受けているんだなと思いました。ここまでつながっているとは、自分でも思っていませんでしたね。何しろ忘れていたくらいですから(笑)

鈴木 たしかに、多感な頃に読んだものというのは、結構自分の中に沈み込んで影響するものかもしれませんね。今日土屋さんのお話をうかがいながら、自分にとってそういう本はあっただろうかと考えていました。最後に今日の感想をうかがってもいいでしょうか。

土屋 普段、高校時代のことを振り返る機会はありません。今回、この機会に「なんでこの本が好きだったのかな?」と振り返ったことで、少し素直になった気がします(笑)

鈴木 素直になったというのは?

土屋 初心に戻ったというのでしょうかね。内向的だったことは本当はあまり認めたくない部分なのですが、こうして振り返ってみると、結局、一人でできることしかやっていない(笑) そういうことしか好きじゃなかったんですね。話しながら、「ああ、そういえば、そうだったな」と思い出して、そんな部分を受け入れられたような気がします。

鈴木 なるほど。そうなんですね。今日はどうもありがとうございました。いろいろなお話を伺うことができて、楽しかったです。

(了)


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