各界で活躍される経営者やリーダーの方々に、ご自身にとっての「リーダーとしての哲学」お話しいただく記事を掲載しています。
サッポロ不動産開発株式会社 時松 浩 代表取締役社長
第1回 トップがリスクテイクして権限委譲する先には、スピード経営と人材育成がある(サッポロ不動産開発株式会社 代表取締役社長 時松浩氏)
2020年11月10日
100人経営者がいれば、そこには100通りの経営と組織があります。さまざまな業界の経営者に、ご自身の経営や組織についての考え方をお聞きする経営者インタビューシリーズです。
第1回は、サッポロ不動産開発株式会社の代表取締役である時松浩氏のインタビューをお届けします。社長になってからそれまでと大きく異なる点の一つが、自身の発言や一挙手一投足が、直接組織に大きな影響を与えることだと語る時松社長。周囲とのコミュニケーションには、自ら作った「互敬・共感・互助・共創」という言葉を大切にされているそうです。
飽きっぽいから、環境変化を前向きに受け入れてきた
新卒では製菓会社に入社しました。商品開発を担当していましたが、大きなプロジェクトが一段落した時に、違うことを試してみたくなって転職したんです。その後は同じ会社に勤めていましたが、数年単位で仕事を変えてきているんですよ。商品企画や経理など、本当に幅広いことをやらせてもらってきています。自分では「新しもの好き」だと思っていますが、周囲からは「飽きっぽい」と言われますね。そういった性格もあって親会社から現在の会社への異動話があったのだと思います。
飲料事業から不動産事業への異動は、転職並みの大きな環境変化でした。ただ、生来が「新しもの好き」な性格なので、新しい学びの機会と思い、貪欲に吸収してきました。執着することがないので「飽きっぽい」とは言われますが、それでもやると決めたことはとことんやる性格です。やると決めたらそのための時間を確保して、一日のルーティンに組み込んでしまいます。たとえば、体力づくりのために、夜は20時には就寝、毎朝4時半に起床し、5時から6時半までの時間をトレーニングに充てています。
現場に最も遠いからこそ、権限委譲を進めていく
新型コロナウイルス感染症によるパンデミックの勃発からもわかるように、今の時代は、シナリオにない非連続な事象が連続する時代です。このような環境下で企業の経営に求められることの一つが、迅速な経営判断です。
しかし社長というポジションは、現場から最も遠い距離にあり、最も情報感度に鈍くなりやすい立場です。現場もすべてをトップに相談・報告はしてきません。そんな立場にありながらも、会社の方向性を決める判断を、迅速に下さなければなりません。トップに求められる力はまさに、現場が感じている環境変化を自分でも早く察知できる、そんな、環境への敏感力なのではないかと思います。「わからないから意思決定できない」のではトップは務まりません。わからないけれども、迅速に決めていく、スピード感ある意思決定が重要です。
稟議を回し、長い縦のラインを辿って上へ上へと情報を上げているようでは、その間に環境が変化し、伝えようとしていた内容そのものも陳腐化します。さまざまな意思決定をスピーディにしていくためには、トップ自らがリスクを取って、ある程度は現場で解決できるように権限委譲を進めていくことも重要なポイントでしょう。
経営者の仕事を一言で言うと、人・モノ・カネ、情報、時間といった経営リソースをいかに適切かつ効率的にアロケートし、それを企業価値の最大化へとつなげていくか、ではないかと考えています。社員数約100名程度の中小企業である当社にとっては、そうした経営リソースの中で、唯一、不動産大手に勝てる見込みのあるのが、誰にでも平等に与えられる「時間」というリソースです。
権限を委譲し、現場で迅速に意思決定ができる環境を整備する。それと同時に、現場でも適切な判断を下していけるよう、人的リソースの育成にも力を入れる。この両輪が欠かせません。現場で意思決定をしていく社員に、社長の立場で物事を考える目を養ってもらう必要があるのです。
修羅場をくぐり抜けた経験が、人を成長させる
不動産ビジネスは時間軸が長く、今日の私の意思決定が果実として実るのはかなり先です。だからこそ、次に経営を担う人材、そしてその予備軍をどう育成していくかが、私の大きな課題だと思っています。
よく「PDCA(計画→実行→評価→改善)サイクル」を回すといいますが、当社においては「IDA(情報→意思決定→実行)サイクル」が適しています。計画を立てるよりも、「実行」する人材を増やしたいのです。
社員数の少ない当社には、次世代経営者候補を選抜して育成する形はそぐいません。その代わり、特命プロジェクトなどでビジネスを実地で経験する機会を与え、場数を踏ませていくこと。トップがリスクを取って、将来の経営人材に敢えて修羅場をくぐる経験をさせることが、人材の育成につながると思っています。
各部署や組織の利益代表となるまでに成長しても、それだけではトップは務まりません。ガバナンス面も含めた経営全体を考えられる視座・視点が必要です。そうした視野を広げさせるためにも、大胆な権限委譲を通じて、部下に意思決定をする機会を与えていくことが必要でしょう。当社は会社の規模感として、なまじ私の顔が見えるだけに、部下は、私の確認を得ようとしてくるところがあります。しかし私は、「あなたが決めて良いんだよ」と背中を押してあげることも、自分の仕事だと思っています。
上に立つ者こそ、相手へのリスペクトを忘れてはならない
社長に就任して改めて感じたのが、トップになると、社内に自分を注意したり叱責したりする人がいなくなるということです。それは同時に、自分の発言や一挙手一投足が、間に誰かのワンクッションを挟むことなく、直接的に部下に大きく影響しうることを示唆しています。周囲に嫌われようが怖がられようが、番頭としてすべき仕事に没頭できるナンバー2とは、この点に大きな違いがあります。
私には、社長になる前から大切にし、実行している言葉があります。それは「互敬・共感・互助・共創」という、私が創作した言葉です。上に立つ者が偉いわけではありません。上司や部下、それぞれに立場があり、そうした立場にある相手を相互にリスペクトし続けなければならない、という意味を込めています。この言葉は、社長になった今だからこそ、忘れてはならない考え方として、特に意識しています。
社内ミーティングでも社員の発言を促します。そして一人ひとりの発言に対しては、まずはリスペクトし、そのうえで、その発言のもとにある思考について、違う角度からの視点を投げかけ、経営者の立場からの見方について、社員の気づきにつながるようなファシリテーションも行っています。
コミュニケーションにおいて私が抵抗を覚えるのは、「説得」という行為です。説得したつもりでも、本当に納得しているかはわかり得ませんから、とても中途半端だと思うのです。相手が腑に落ち、理解するまで議論を尽くすか、自分が責任を取る形で相手に指示するか。そのどちらかのアプローチしかないと思っています。これも相手をリスペクトするがゆえの考え方かもしれません。
1962年生まれ。大分県出身。1984年に慶應義塾大学商学部を卒業後、江崎グリコ株式会社を経て、1991年 サッポロビール株式会社(現サッポロホールディングス株式会社)に入社。マーケティング部、ブランド戦略部でリーダーを務めた後、2003年にサッポロ飲料株式会社へ出向。営業本部担当部長、営業企画部長、マーケティング部長、経営戦略部長を歴任。2006年10月、サッポロビール株式会社に復職。サッポロブランド戦略部グループリーダー、営業企画部長、関信越本部長を経て、2012年3月に執行役員新価値開発部長、2012年9月に執行役員スピリッツ戦略部長、2013年3月に取締役執行役員 営業本部長に就任。2015年3月 取締役常務執行役員 営業本部長、2018年3月 取締役常務執行役員 兼 経営戦略部・経理部・国際事業部担当役員を経て、2019年3月に サッポロホールディングス株式会社 グループ執行役員、サッポロ不動産開発株式会社 代表取締役社長に就任。
会社をさらに発展させるために
中小規模の不動産会社である当社も、サッポログループの不動産事業として、2019年度は売上収益247億円、事業利益107億円を生み出し、グループの安定的な収益の柱として成長を続けています。
グループの創業の地・札幌では、「開拓使麦酒醸造所」の跡地に「サッポロファクトリー」を展開し、東京では「恵比寿ビール」の出荷専用駅として開設され、駅の名、街の名へと広がった「恵比寿」エリアの価値向上を複合商業施設「恵比寿ガーデンプレイス」を中心に推し進めています。歴史的にゆかりのある一等地に当社の事業基盤があることは、捨ててはならない私たちのプライドでもあります。当社が今後、持続的に成長していくためには、不動産の管理・運営事業に加えて、まちづくりといった不動産開発事業も伸ばしていかなければなりません。
札幌や恵比寿に集う地域の人々の快適な生活に貢献しながら、エリアそのもののブランド価値を高める。そしてその結果として、酒類、食品飲料事業を展開するサッポログループのブランド力向上にもつながればと願っています。
本記事は2020年8月の取材に基づき作成しています。
内容および所属・役職等は取材当時のものを掲載しています。
表紙写真: サッポロ不動産開発株式会社提供
サッポロ不動産開発株式会社について
サッポロホールディングス株式会社傘下の事業会社。オフィス・住宅・商業施設の開発・管理運営などを行う不動産事業を担う。サッポログループとゆかりの深い恵比寿・銀座・札幌を中心に事業を展開。経営理念「まちや社会とともに、『豊かな時間』と『豊かな空間』を創り、育む」の実現のため、地域に根ざした「まちづくり」と「笑顔づくり」をモットーにまちに住む人、働く人、訪れる人が楽しみ、憩う魅力的なまちづくりに取り組む。
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