リーダーの哲学

各界で活躍される経営者やリーダーの方々に、ご自身にとっての「リーダーとしての哲学」お話しいただく記事を掲載しています。


経営者インタビュー
クックパッド株式会社 福崎 康平 Japan CEO

第8回 「料理のある世界の豊かさ」を広めていく

第8回 「料理のある世界の豊かさ」を広めていく
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さまざまな業界のトップに、経営に関する哲学をお聞きする経営者インタビューシリーズです。
第9回は、クックパッド株式会社のJapan CEOの福崎康平氏のインタビューをお届けします。「こっぺさん」の呼び名で皆から親しまれる平成生まれの福崎氏は、2018年にクックパッドに入社して3年も経たずに同社の日本事業の総責任者、Japan CEOに就任。本年5月に都心から横浜へ本社を移転するクックパッドで、福崎氏が目指す世界についてお話をうかがいました。


福﨑 康平氏 / クックパッド株式会社 Japan CEO
大学在学中に、東日本大震災の被災者に在宅を無償貸与できる「roomdonor.jp」を立ち上げ、メディアや政府関係者からも注目を集める。在学中に35カ国をまわり、料理を振る舞う旅を実施。2014年コーチ・ユナイテッド入社。先生と生徒のマッチングサービス「cyta.jp」を運営。2016年2月同社代表取締役。2018年1月クックパッド入社。買物事業部部長、執行役を経て2020年9月に、日本事業の総責任者であるJapan CEO就任。
写真提供: クックパッド株式会社

「美味しい」の価値観を変えた体験

私は小さいときから美味しいものが大好きで、小学生の頃から料理をしていました。大学時代には「こっぺ食堂」の名で、飲食店の空き時間やレンタルスペースを借りて料理をふるまったりしていました。

20歳の時に、もっと料理の知識や美味しいものを知りたいという思いから、1年かけてアジア各国から中東・ヨーロッパなど世界35カ国を回り、現地の食材を使った自分なりの料理を現地の方々にもふるまいながら、ミシュランに紹介されているお店から屋台飯まで、500カ所くらいの飲食店を回りました。

ただ、そのときは8~9割一人きりの食事だったんです。食に関するナレッジは蓄積されていくけれど、どんなにミシュランで星がついていても、どんなに新鮮な魚介を味わっても、味が「美味しい」だけでは満たされないものがあり、最後のほうは苦行の旅と感じるほどでした。

価値観が変わったのは、スペインの港町ア・コルーニャで立ち寄った飲食店での出来事です。漁師の方がパッと車を停めて入っていくレストランの店内には潮の香りが満ちていて、自分の肩幅よりも大きなシーフードプレートを「この町で捕れた海産物だから全部好きに食べていいよ」と言って出してくれたんです。何十キロも歩いて疲れ切っていたのですが、その料理を食べたときに、これまで探していたものに出会った気がして自然と涙がこぼれました。自分は単なる味覚としての「美味しい」という感覚だけではなく、地域の文化や町の人の食の楽しみ方といった、料理の背景にあるストーリーからくる楽しみを求めていたとわかったのです。

以来、料理に対する価値観がガラッと変わりました。それまでは美味しいものを「作る」ことに一生懸命になっていたけれど、毎日の一人ひとりが歩むストーリーの中で出会う料理や献立を決めていく意思決定プロセス、これらすべてが楽しいと感じられると人生が豊かになるのだ、と。

「料理を楽しみにする」。

当時、この言葉が頭に浮かび、「聞いたことのあるフレーズだな」と思って調べたら、クックパッドのミッションだったんです。気づいたときは、心底「すごい!」と思いました。

「つくり手」をエンパワーメントする

私たちは、「つくり手」や「料理の楽しみを広げたいと思っている人」たちが、何らかの理由によって料理することを諦めることがないような仕組みをつくらなければなりません。「つくり手」とは、料理を作る方やレシピを投稿する方はもちろん、毎日の食材を美味しく育ててくださっている生産者やそれらを届ける方、料理にまつわる新しい価値を生み出すクリエイターすべてです。

クックパッドのミッションは「毎日の料理を楽しみにする」ことです。そのためにはこの「つくり手」たちを増やしていかなくてはなりません。私たちは料理そのものがすごく難しいフィールドではないということ、関わっていけば幸せになれるフィールドなんだということを、より多くの人に思っていただける仕組みを作ることで、つくり手を増やし、多様性を生み出し、毎日の料理の課題を解決していけたらと思っています。

食べたことのない食材だから、料理の仕方が分からない。家のキッチンそのものが狭くて料理などできない。夫婦共働きで忙しい中、料理に割く時間がない。

私はこうした状況を「クッキングロス」とか「クッキングファンロス」という概念で捉えています。日々のこうした料理にまつわる「機会損失」に向き合うこと、どのような環境でも、簡単に美味しく食べられる食材が手に入り、料理することが楽しみになるような仕組みやインフラをつくること、つまり、「つくり手」である個人をエンパワーメントしていくことが、私たちの存在意義です。音楽のある生活とない生活が全く違うように、料理のある生活とない生活も、全く違うのです。

大きな環境変化に直面した時に意識し続ける2つのこと

提供: クックパッド株式会社

クックパッドは2021年5月に、これまでの東京・恵比寿から横浜へと、本社を移転しました。この背景にあるのはもちろん、コロナ禍による大きな環境変化です。リモートワークの導入など、この1年で働き方が変わったのだから、オフィスに対する考え方もガラッと変えて当然です。これまではビジネスを作りたいと思ったら、誰もが頷く良い立地にお店を構えれば商売が回っていましたが、その根底が今、大きく揺らいできています。

私は、こうした物事の大きな変化に直面した時には、2つのことを強く意識するようにしています。ひとつは、自分は何を成し遂げたいのかという目的。そして、その目的達成のために手段にこだわってはならない、ということです。

今直面した環境の中で事業リスクを予測し、自らをどんどん変化させながらそのリスクを乗り越えていくことが求められています。

私たちにとっても、コロナ禍で新たに出てきたリスクがあります。それは、今まで以上に家で料理をする機会が増える中、毎日献立を考えながら食事を準備をするのは、とても大変だということです。以前は、フラっと歩いていたらお店でおいしそうな食材を見つけた、とか、近所に新しい飲食店ができたから入ってみよう、といった偶然の出会いがありました。しかしコロナ禍の中で、人々はあらかじめ、「今日このお店は開いているのか」「席は取れるのか」など、いろいろと考えた上で「食」に関する意思決定をするようになっています。料理を楽しむ人たちの「目的性」が高まり、効率を求めて動くようになると、それはめぐりめぐって、食のマンネリ化につながります。そしてそれは、私たちが目指すところではありません。

実現したい世界を、オンボーディングで共有する

クックパッドが移転した横浜は、私がもう10年以上住んでいる地域です。そこにはコーヒー焙煎店など、仲良くさせていただいているお店がたくさんあります。私はよく、ものすごいこだわりを持って日々生活者に向き合い続けている人と出会うのですが、そういう方々がくださるフレッシュなご意見や刺激は、私の大切な資産です。こうした高い目線と、強い意志を持った方々との出会いはとても刺激的ですから、もっとそのネットワークを広げていきたいと思っています。

その一方で、そうした高い目線をプロダクト等に具現化していく技術を持った方々は、本人が望めばどんどんチームに取り込んでいきたいと思います。ここでいう技術は、一般的なテクノロジーに限らず、店舗の営業の技術であったり、それらを仕組みにし、広げていく能力なども含まれます。

そうして集まった人とは、自分たちが目指していることや、クックパッドのカルチャーを共有しながら、自由に課題に取り組んで欲しいと思っています。

クックパッドマートでも、事業立ち上げ当初の30名の仲間には、私がどのように買い物をしているのか、平日にオンボーディングで伝えました。朝、集合して、横浜の商店街に行き、その後横須賀に行って三浦半島の生産者と触れ合って会話をするという、自分の目指す姿を見せることで、実現したい世界の共有を図りました。

Japan CEOの役割を降りるとき

提供: クックパッド株式会社

私の今の役割は、料理にまつわる「つくり手」を支えるプラットフォームの設計士です。多くの人々を幸せにし、夢を与えることができる重要な役割を担っています。その役割を実行するための大きな意思決定をすることが、Japan CEOという役割だと捉えています。

人々を幸せにするために、自分の目線の高さだけは誰にも負けないようにありたいと思っていますが、もし、自分よりも目線の高い人が現れたら、その時はもう、Japan CEOの座を降りたほうが良いと考えています。

そのためにも、自分自身が常に新しいものを発見するつくり手でありたい思います。例えば、地球の大半は海なのに、まだまだ私たちは陸地のことしかわかっていません。そういう意味では、非常に狭い世界しか見えていませんから、いつか船が欲しいと思っています。船舶免許を取って、もっとおもしろいことがいっぱいあるはずの海へと漕ぎ出し、それを探してみたいです。

本記事は2021年2月の取材に基づき作成しています。
内容および所属・役職等は取材当時のものを掲載しています。
表紙写真: クックパッド株式会社提供


クックパッド株式会社について

クックパッド株式会社は「毎日の料理を楽しみにする」をミッションに掲げる、料理とテクノロジーの会社です。国内で月間約5,900万人が利用し日本を含む世界76カ国・地域、34言語で展開する料理レシピ投稿・検索サービス「クックパッド」、買い物をもっと自由にする生鮮食品EC「クックパッドマート」、健康な心身をつくる幼児向け食育絵本「おりょうりえほん by cookpad」などを運営しています。私たちは料理を通じて、人、社会、地球の豊かな未来を目指します。

クックパッド


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