各界で活躍される経営者やリーダーの方々に、ご自身にとっての「リーダーとしての哲学」お話しいただく記事を掲載しています。
白鳥製薬株式会社 白鳥悟嗣 代表取締役社長
第9回 ポジティブな自責思考で世界を変える
2021年06月07日
さまざまな業界のトップに、経営に関する哲学をお聞きする経営者インタビューシリーズです。
第9回は、人々の健康を守る医薬品の原薬および中間体を製造する、白鳥製薬株式会社の白鳥悟嗣代表取締役社長のインタビューをお届けします。
「人を大事にする」気持ちが何より重要と考える白鳥社長も、昔の自分は「自信過剰なわがまま」だったと評しています。利己から利他へと考え方を変えた出来事や、自身の内省の仕方を中心にお話をうかがいました。
2001年慶応大学経済学部卒業後に三菱商事に入社。主計部、リスクマネジメント部、米国三菱商事(ニューヨーク)財務部、などの計数系管理部門を経験。2010年7月に白鳥製薬に専務取締役として入社。2017年11月に代表取締役社長に就任。座右の銘は「為せば成る。為さねば成らぬ。」
傲慢になっていないか?
「昔は空気の読めないわがままだったけれど、今は空気の読めるわがままになりました」
これは、結婚式という私の人生の晴れ舞台での、スピーチの一節です。話しながら、かつての自分は自己中心的で強引で、空回りしても気にしないようなところがあったな、と思ったものです。要は自信過剰だったんですね。自分のやりたいことを押し通し、傲慢にも、それがみんなにとっても良いはずだと信じていました。
強引に自分のやりたいことを押し切ってきたせいか、学生時代に部活動でキャプテンに指名されたり選ばれたりということはありませんでした。それが自分でもおもしろくなかったのでしょうか。キャプテンの言うことに従わず、「自分がやりたいようにして何が悪いんだ」とエゴを貫いたこともあります。
そんな態度を同級生から「あれは良くなかったよ」と後になって伝えられたこともあります。そうした自分の態度を心の底から反省したのは、大学でゼミの代表として皆をまとめるのに苦労した時でした。周りの思いや代表の立場を考えずに行動し、発言する「当時の自分」のような人たちをまとめる立場になり、初めて「ああ、キャプテンはあの時、こんな想いを抱えていたんだ」と気づいたんです。すごく申し訳なく感じると同時に、自分は本当に何もわかっていなかったということを痛感しました。
それ以来、私が日々自分に問うのは「傲慢になっていないか?」です。会社だけでなく、妻や子どもに対峙するときも、日々自分にそう問うています。また「もう自分は大丈夫」と思ったら終わりの始まりで、この問いに終わりはないとも感じています。
目指すは、優しさと厳しさを併せ持つ「愛のあるリーダー」
組織が意思決定をするときには、「組織にとって何がベストか?」を意識しています。難しいのは、その判断をする瞬間には、それが本当にベストなのかどうか答えが見えていないこと。私は性格的に物事をより良い方向に変えていくことが好きなので、ついすべてを「変化」の方向へもっていこうとします。しかし「変えない方が良い」「今のままの方が良い」と考える人たちがいるのも事実です。
自分一人が変えたいから変えるのであれば、その意思決定はエゴでしかありません。リーダーとして、極力自分のエゴを捨てた上で、組織にとって本当にベストかどうかを判断していく必要があります。
そのためには、反対意見の人たちの気持ちに寄り添い、不満をすくい取りながら、自身の判断に理解を得られるよう、その根拠を丁寧に伝えていくプロセスが重要です。相手の考え方や気持ちに寄り添う優しさを持ちながら、それでも決断を下すときには下す厳しさも持ち合わせる。そんな「愛のあるリーダー」を目指しています。
コロナ禍の中でウェブ会議が主流になったこともあり、強く意見を言ってしまった後に、顔を見てフォローをすることも難しくなりました。5つある事業所を超えた社内交流イベントも中止せざるを得ず、中途入社や新卒社員など、これから信頼関係を構築していく人材とのコミュニケーションもままなりません。
人と人とのつながりが薄れてしまいがちなことに懸念を感じてはいますが、それでも必要な対話ができるよう、こちらから伝えるべきことは伝え続けていくとともに、さまざまな想いを受け止めていくことが大事だと思っています。
「人」を大事にする会社が、企業を成長させる
提供: 白鳥製薬株式会社
経営者にとって企業の成長を図ることは大命題ですが、私がそのために一番大切にしている指標は、働く人たちが活き活きと楽しく働いているかどうかです。多くの人が「楽しい、幸せだ」と思える状況を作ること。これぞ自分の求めるものです。
ボランティアや自己犠牲は「綺麗ごと」だとしか思っていなかった利己的な自分が、心底「利他」を大切にするようになったのは、学生時代に観た映画『アルマゲドン』の影響もあるかもしれません。
世界最高の石油掘削人と呼ばれた主人公のハリー・スタンパー(ブルース・ウィリス)が、地球にぶつかりそうな隕石を破壊して人類を絶滅の危機から救うストーリーを描いたこの映画では、最後に、究極のエゴイズムと自己犠牲で、自分の愛する者の幸せを守り抜くシーンが描かれています。いまでも思い出すだけでも涙がこみ上げてきます(笑)。この映画を観て「こんなかっこいい人間になりたい」と胸を打たれました。
『アルマゲドン』とは次元が違いますが、私は、皆が幸せになるための貢献を、会社を、そして事業を通じて、果たしていきたいと思っています。人を育てることもそのうちの一つです。
AIがどんなに進化しても、人がいなければ事業は成り立ちません。良い人材が集う環境を創れば、組織も成長するだけでなく、そこいる人たちもよりハッピーになれます。私は何でも自分でやりたがる性格なんですが、一人の力には限界があります。細かいところまで口を出さずに、いろいろな人に任せていくことが大切だと考えています。
ポジティブな自責思考ができる組織に
提供: 白鳥製薬株式会社
白鳥製薬は"Change the world"をパーパス(存在意義)として、「世界」を変えうる会社になることを目指しています。本業の医薬品の原料製造でも、新薬メーカー様から受託されたことに誠実に、確実に行うことは、お客様のQuality of Lifeをより豊かに変えることにつながります。近年では、自社オリジナルの化合物の事業化にも挑戦しています。どのような組織にいたとしても、自分の目の前の仕事が世界を変えることにつながっている。そういう想いを持って仕事を進めると、組織も「自責」思考のポジティブな方向へ向かうのではないでしょうか。
問題が生じたとき、それを人や環境のせいにする「他責」思考は、その瞬間は楽かもしれませんが、その問題を自分たちでは解決できないものとして手放してしまうことにほかなりません。そう考えると、長い目で見れば、結局自己を苦しめることにつながります。
私が考える「自責」とは「自分に100%非がある」という考え方ではなく、「問題を自分事化する」ことです。生じた問題に対して、自分たちで修正できるポイントを見つけ、そこから得た学びを次へとつなげていく。「俺が悪かった」と落ち込むのではなく、「次につなげよう」とポジティブに前進する。そんな組織を目指していきたいです。
伸びしろは、自らを客観視することで見出せる
口で「自責、自責」と言いながら、私自身が理想の姿を完璧に実現できているわけではありません。社内で情報共有がうまく図れなかった時、心のどこかに「一度言ったことを何度も言わせるな」「そのぐらい言わなくてもわかるだろう」「そんなに細かく言うのは俺の仕事じゃない」といった思いが浮かぶことがあります。
しかし「なんで俺の思う通りにやっていないんだ」「それ、言ったよね?」といった心の声が芽生えたら、それは自分が傲慢になっていることのアラートです。相手に伝わっていなければそれは私の責任。あるいは相手が、自分の伝えた内容を受け止めきれていないことに気づけていないとしたら、それも私自身の姿勢に課題があります。自分を客観視し、内省して直すべきところは直していく。直せる部分こそが、自分の伸びしろなのです。
こうした考え方が意識として組織全体に広がれば、それは真の絆となって強い力を生み出すのではないでしょうか。ラグビーの"One for all, All for one"という言葉は、「一人はみんなのために、みんなは一つのゴールのために」という意味ですが、白鳥製薬における当面のゴールは、2028年までに日本一技術力のある原薬メーカーになること。組織における一人ひとりが、自らを客観視し、ポジティブな自責思考で取り組むことで、そのゴールへとつなげていければと思っています。
本記事は2020年12月の取材に基づき作成しています。
内容および所属・役職等は取材当時のものを掲載しています。
表紙写真: 白鳥製薬株式会社提供
白鳥製薬株式会社について
1916年に、創業者の白鳥與惣左衛門が日本で初めてお茶の葉からカフェインを抽出し事業を興した。105年目の医薬品製造業。"Change the world"をグループビジョンとして掲げ、世界を近年では、医薬品の有効成分である原薬製造だけでなく、日本の予防医療に貢献するために健康食品製造業も手掛けている。
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