リーダーの哲学

各界で活躍される経営者やリーダーの方々に、ご自身にとっての「リーダーとしての哲学」お話しいただく記事を掲載しています。


経営者インタビュー
株式会社ビースポーク 綱川明美 代表取締役

第16回 情報格差をゼロにするために、自ら道を切り拓いて突き進む

第16回 情報格差をゼロにするために、自ら道を切り拓いて突き進む
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さまざまな業界のトップに、経営に関する哲学をお聞きする経営者インタビューシリーズです。

今回は、2015年に起業し、成田国際空港、JR東京駅、ホテルニューオータニなどで、多言語で正確かつリアルタイムな観光案内をAIチャットボット「Bebot」を通じて外国人旅行者に提供してきた、株式会社ビースポークの綱川明美代表のインタビューをお届けします。

同社は、観光案内や行政の窓口対応自動化まで網羅する「Bebot」や、コロナ対応や災害を含む緊急時の対応を行う「Bebot CrisisConnect」など、危機管理情報を多言語でリアルタイムに提供するサービスを、国内外の自治体や海外空港向けに拡大しています。世界中のAI技術者を束ねて事業を推し進める綱川代表が、リーダーとして自分自身をどう捉えているか、お話をうかがいました。


綱川 明美氏 / 株式会社ビースポーク 代表取締役
1987年神奈川県生まれ(34)。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)卒。外資系の投資銀行、戦略コンサルティング、そして資産運用会社での金融商品の開発業務を経て、2015年に株式会社ビースポークを設立。世界15カ国からトップレベルの開発者を採用し、現在世界中の政府機関や公共機関に導入されている、リアルタイムのコミュニケーションプラットフォームである「Bebot(ビーボット)」というチャットボットを展開中。チャットボットの第一人者として国際会議にも多数登壇。趣味はボードゲーム「カタンの開拓者たち」。
写真提供: 株式会社ビースポーク

コロナ禍で、商機を見つける

コロナ前の当社サービスのメインの売り先は、旅行者が多く集まるターミナルや施設を運営する観光事業者でした。日本でダイヤモンドプリンセス号での感染拡大が報道されていた2020年2月頃、新型コロナウイルス感染症は、まだ他人事というか、中国国内で起きた問題だと思っていた方が多いのではないでしょうか。

ところが、4~5月に入ると、ホテルや交通事業者のお客様からの支払停止や解約の連絡が入り始めることに。当社の顧客ポートフォリオの約4割は、コロナ禍で打撃を受けたど真ん中に位置していたんです。一方で、災害発生時対応で政府や自治体向けに展開していた「Bebot」に新型コロナ対応を加えると、事業が急拡大していきました。そこで大きな意思決定をしたんです。「今後2,3年は、観光フォーカスではなく、行政のDXに力を入れる」と。

ホテル向け事業は最初に立ち上げた事業で、私自身、強い思い入れもありました。でもこの環境下では、顧客ポートフォリオを転換していく以外に選択肢はありませんでした。ニーズが大きくなっているマーケットを狙わなければ、事業は伸びません。利益が出るか、出ないか。お客様に価値を提供しつつ、遅れることなく社員にお給料を払うためには、「やりたいこと」を優先させてはいられないこともあります。結局いつも数字に行きつくんです。いろいろなことに手を出してリソースを分散させるより、今は売上を伸ばすことに集中したい。コロナ禍という大きな事業環境の変化の中で、柔軟性を求められたと実感しています。

リーダーは、未開の地を突き進むバスの運転手

提供: 株式会社ビースポーク

いきなり「行政のDXにフォーカスする」と言い出したことで、社員の目には、かなり独裁的なリーダーに映っているのではないかと思います。起業当初は、お願いして加わっていただくなど、徐々に人員を増やしてきましたが、世界各国から職人的な人材が集まった今、私が果たす役割は、未開の地を突き進むバスの運転手のように、目指すべき方向に皆を導くことだと思っています。

新たに着手する事業を考えたり、逆にやらない事業を決めたり、年間計画の作成やその軌道修正、人員の採用や社員との1on1、トラブルシューティングなど、日々さまざまな仕事がありますが、当社はやはり技術の会社です。AとBとCの技術を組み合わせたらこんなことができるのではないか、といった"妄想"をすることも私の大切な任務です。当社は、世界15カ国から優秀なエンジニアが集まっていて、他者のアイディアを否定しないカルチャーが自然と醸成されています。3ヵ月に一度実施しているITエンジニアやデザイナーなどとの社内ハッカソンでも、良いアイディアがあれば全部採用して実装していきます。

実務に追われて忘れがちなビジョンを定期的に振り返る

大きな夢に思えても、社員が実現可能だと信じられることもとても重要です。ですから、日々の実務に埋もれて忘れられがちな、私たちの向かう方向性、つまり、目の前の仕事を通じてどれだけ多くのユーザーがどんなふうに助かるのかといったことについて、二週に一度は、必ず私が校長先生のスピーチのようなかたちでリマインドし続けています。どんなに抽象的でもいいのです。伝え続けることが大切だと考えています。

たとえば、2019年11月に私はオーストリアのウィーンに滞在していたのですが、突如ウィーンの中心街でイスラム過激派のテロに襲われたのです。私も襲撃現場から悲鳴を上げて走って逃げる現地の方に交じって逃げましたが、ドイツ語を解さない私には何が起きているのかを知るすべがなかったんです。私たちの危機管理対応「Bebot」には、こうした緊急事態が発生したときに、すぐに誰もが何が起きているのかを知ることのできる頼れる先としての社会的意義があります。そう感じられれば、日々の実務に対する向き合い方も変わりますよね。

当社には欧米系のエンジニアが多いのですが、台風や豪雨、地震など、頻繁に日本各地が被災している事実を前に、彼らにはいろいろとアイディアが湧いてくるようです。個人的な実体験をそれぞれで共有し、ビジョンを振り返った後は、社員の生産性もモチベーションも上がりますし、チームとしての連携も強くなると感じています。

ゴールから逆算して達成に必要なことを突き詰める

提供: 株式会社ビースポーク

ビジョンやゴールが定まれば、細かい軌道修正が必要になることはあっても大きな失敗をすることはありません。小学生の時から、友だちと遊ぶ時間を少しでも作るために、ほぼ毎日あるお稽古事をいかに早く終わらせるかばかり考えていましたし、中学時代も毎日塾通いをする中で、いかに最速で宿題を終わらせてジャニーズショップに行くかに命を懸けていました(笑)。だから、ゴールを決めて、そこから逆算して何が必要かを考えて突き進むスタイルは、私の中に染みついているんです。

今も、事業を通じて叶えたいゴールがあります。そこにたどり着くために何が必要かを逆算して、必要な機能を作り、工数やコストを計算し、新規調達が必要なら、それを取りにいきます。そうして、これまでもホテル、空港、鉄道、自治体、省庁、日本から海外へと少しずつ拡大してきました。

新しい領域に参入するときに、リソースやネットワークがあるわけではありません。ただ、目的地が定まれば、私はバスのドライバーですから、このルートが早い、行き止まりがあるから他の道を行こう、と突き進むことができます。こうやって効率性を重視するがゆえに、人間らしさが足りないと言われることもありますが、そこは私の素晴らしい仲間たちが補完してくれています。

当社のパーパスは、情報格差をなくすことです。これからも自分たちにないリソースを特定し、調達・融合させながら、このパーパスを実現する新事業を次々と生み出し、足し算による積み重ねをはるかに上回るスピードで、事業成長を図っていきたいと思います。

本記事は2021年2月の取材に基づき作成しています。
内容および所属・役職等は取材当時のものを掲載しています。
表紙写真: 株式会社ビースポーク


株式会社ビースポーク

独自開発の自然言語処理(人工知能)を搭載したチャットボット「Bebot」を国内外の政府機関や事業会社向けに展開中。
Bebotは、宿泊施設、駅・空港、自治体など多くの人々が集まる施設で発生する様々な質問やリクエストに対し、人間に代わりリアルタイムに多言語対応するチャットボットです。ただのFAQ対応にとどまらず、回遊促進、混雑緩和、消費額アップ、課題やニーズの特定など、様々な利用シーンに対応しています。

株式会社ビースポーク


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