リーダーの哲学

各界で活躍される経営者やリーダーの方々に、ご自身にとっての「リーダーとしての哲学」お話しいただく記事を掲載しています。


経営者インタビュー
株式会社パイオラックス 島津幸彦 代表取締役社長 社長執行役員

第15回 創業家「外」の社長として、新しいリーダーシップで成長を図る

第15回 創業家「外」の社長として、新しいリーダーシップで成長を図る
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さまざまな業界のトップに、経営に関する哲学をお聞きする経営者インタビューシリーズです。

第15回は、1933年創業以来、弾性技術を軸に、自動車、医療、生活・セキュリティ分野で国内トップシェアのばね部品の製造を手掛ける、株式会社パイオラックスの島津幸彦代表取締役社長 社長執行役員のインタビューをお届けします。東証一部上場企業の経営者としてバトンを渡された、同社初の生え抜き社長である島津社長のリーダーシップの変化などについてお話をうかがいました。


島津 幸彦氏 / 株式会社パイオラックス 代表取締役社長 社長執行役員
1957年生まれ。1981年、早稲田大学政治経済学部卒業。1981年3月、加藤発条株式会社(現株式会社パイオラックス)入社。1999年7月、海外営業部長。2001年8月、パイオラックス コーポレーション(米国)取締役社長就任。2005年6月、取締役。2006年6月、取締役営業SBU長 兼 海外営業部長。2008年4月、取締役営業SBU長。2010年4月、代表取締役社長 兼 営業SBU長。2010年6月、代表取締役社長(現任)。
写真提供: 株式会社パイオラックス

社長就任後も続けた創業家への"お伺い"

創業家2代目の加藤一彦前会長(当時社長)にいきなり次期社長として指名を受けた時は、正直「自分に務まるのか?」という気持ちがありました。甲子園を目指した学生時代も、キャプテンではなくナンバー・ツーとしてチームを支える役回りでしたし、入社後も上司を支えることに徹してきましたから、自分には参謀的な役割が性に合っていると考えていました。

加藤前社長が会長職になり、私が社長に就任しましたが、創業家出身である会長が最終的な意思決定を下すことがありましたから、私はどこかで遠慮をしていました。私は、加藤家と血縁関係はなく、大学卒業後に一新入社員として当社に入社した身です。同族企業に30年間勤めていくうちに、無意識に「この会社は加藤家のもの」という意識が自分に染みついていたのでしょう。

そうした遠慮もあって、社長としてやりたいことが100あっても、70~80くらいに抑えていたように思います。逆に言えば、会長を支えながらも、何かあったときには会長が私自身を支えてくださっていた、そんな持ちつ持たれつの関係だったのかもしれません。

創業家の退任で、変化したリーダーシップ

その会長が2019年に退任されてからは、私のリーダーとしての意識は大きく変化しました。いざという時に自分を支えてくれる存在がいなくなり、自分のことは自分で支えなければならない。すべてのことを決定するのは私一人。

遠慮や気遣いがなくなり意思決定の自由度が増した分、もし自分が間違えば社員もその家族も路頭に迷わせてしまう。自分自身が本当に良いと思うことを進めないと、みんなを不幸にするかもしれない。こういう環境に置かれて初めて、リーダーとしての意識も、経営スタイルも、取り組み方も変わりました。

これまで遠慮して控えていたことについても、「遠慮なく言う・やる」に変わっていきました。社員向けにメッセージを発信するときも、仮に創業家の想いと反することがあっても、「あとは私が創業家と話をつけます」と言えるようになりました。開き直ったのだと思います。

耳の痛い意見をする人ほど大切に

最終的な意思決定は私であることが、社内でも明確になりました。でも私は社員から、「意見の言える社長」だと思われていると自覚しています。昔から人の意見を聴くタイプでしたし、自分と異なる意見を抑え込むことはしないように心がけていますから、「この社長にならば意見を言える」「社長が間違ったときにはちゃんと苦言を呈せる」といった、比較的相談のしやすい社長に映っているだろうと思います。

経営陣の8割くらいはチームワークを大切にして従順にきっちりとやるタイプですが、残りの2‐3割は、私に対して意見を言います。それが仮に耳の痛い話であっても、敢えてその話を聞かせてくれた人は、大切にしないといけません。多様な意見に耳を傾けつつ、自分の考えもはっきりと伝え、意見交換をしながら相互の考え方を理解し、意思決定にも結びつけていきます。

最も危険なのは、誰も私に意見を言わなくなることです。変化の激しい時代だからこそ、多様な意見があることが望ましいと思っています。

「ONE PIOLAX」で、考える癖をつけよ

提供: 株式会社パイオラックス

当社は、創業以来のばねに加えプラスチック部品やファスナーが主要事業です。ファスナーとは、自動車の部品と部品、部品と車体を留める部品で、消費者が目にすることはまずありませんが、自動車1台に当社のファスナーが1,500点ほど使われています。今は医療機器の部品も展開しており、見えないところで、縁の下の力持ちとしてみなさんの生活を支えています。

事業全体の海外比率が拡大していく中で、海外も日本も、社員が一つの企業として同じ方向性を向いて仕事を進められるようにすることが課題の一つです。そこで、ここ5年くらいは「ONE PIOLAX」を合言葉に、社員の意識変革を進めてきました。最近では、うまくいかない時などに、「それはONE PIOLAXの考え方に合わないんじゃないか」といった会話が社員間でも無意識のうちに出てくることが増え、言葉だけでなく、考え方や仕事のやり方として浸透してきたという手ごたえを感じています。

自分のやりたいことであっても、周囲の協力なしには前に進めることはできませんから、同じことを何度も発信しながら、自分の考えややろうとしていることを理解してもらい、その通りに動いてもらう必要があります。

「やり方は任せる。でも最終的なゴールはここだよ」と示すことが、社長の仕事ではないでしょうか。ですから、できるだけ自分の言葉で伝えることを心がけています。海外の案件でも、欧米圏であれば、英語で自らプレゼンをします。その方が皆さんの心に響くと思っています。

同時に、トップの指示や意見について何も考えずに「はい、わかりました」となるのではなく、一人ひとり、しっかりと考えた上で意見を出してほしいとも伝えています。自分の意見をもつには、常日頃から、周りに起きている出来事が自分の将来にどういう影響があるのかを考える癖をつけることが大事です。常に問題意識をもち、自分の頭で考えて、自分の意見をもつことを習慣づけると、感性が磨かれ、普段のふとした違いにも気づけるようになります。それは、品質の向上や不正の防止にもつながります。

社長拝命時の初心を忘れない

社員にそう問いかける一方で、自分に対しては、「驕っていないか、初心を忘れていないか」と、常に問いかけています。「実るほど首を垂れる稲穂かな」と、偉ぶらずに対処・対応していくことを常に意識しています。もし、人の意見に耳を傾けることなく自分の意見を押し付けようとしていることがあれば、それは驕っている、もしくは驕りかけていることの兆しです。

若い世代と20年後、30年後のパイオラックスについて自由にディスカッションしていると、彼らから自分にはないアイディアがどんどんと湧き出てくことに夢を感じます。トップがぐいぐい引っ張りすぎるリーダーシップは、ともすると、一人ひとりの考える力を潰してしまうかもしれません。「はい、わかりました」とついていくことだけを求めない、私らしい経営スタイルで、さまざまな意見をもとに会社の将来を考えています。

本記事は2021年3月の取材に基づき作成しています。
内容および所属・役職等は取材当時のものを掲載しています。
表紙写真: 株式会社パイオラックス


株式会社パイオラックス

パイオラックスは、1933年に「加藤発條製作所」として創業し、今年で88周年を迎えます。「弾性を創造するパイオニア」を企業理念とし、「金属」と「樹脂」の両方を組み合わせた製品の開発、製造ができることを生かし、主力の自動車分野以外にも生活関連、医療機器事業などへ事業分野を広げております。
現在、8ヶ国14拠点(内生産拠点は9拠点)と海外にも広く事業を展開しており、国内子会社7拠点を含めたワンパイオラックスで一丸となって、良い製品をお客様へ届けられるよう、日々取り組んでおります。


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