リーダーの哲学

各界で活躍される経営者やリーダーの方々に、ご自身にとっての「リーダーとしての哲学」お話しいただく記事を掲載しています。


経営者インタビュー
株式会社エスエストラスト 杉本浩司 代表取締役社長

第14回 「ここまでやるか!」で、地域に根差したビジョンをかなえる

第14回 「ここまでやるか!」で、地域に根差したビジョンをかなえる
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さまざまな業界のトップに、経営に関する哲学をお聞きする経営者インタビューシリーズです。

第14回は、八王子エリアを拠点に不動産賃貸事業を手掛ける、株式会社エスエストラストの杉本浩司代表取締役社長のインタビューをお届けします。Jリーガーになることを夢見てブラジルにサッカー留学していた杉本氏が、一転、父親の起こした事業を承継。今も溢れるサッカーへの熱い思いを胸に、杉本氏が描く個人と会社双方のビジョンなどについて、お話をうかがいました。


杉本 浩司氏 / 株式会社エスエストラスト 代表取締役社長
1976年八王子市生まれ、1995年高校卒業後間もない頃にブラジルへサッカー留学。サンパウロ州2部チームとのプロ契約。その後帰国し、Jリーグプロテストを数チーム受けるも玉砕。1999年エスエストラスト入社。2005年代表取締役就任。趣味はサッカーとゴルフ。特技は多少のポルトガル語。サッカー男子3人の父でもある。
写真提供: 株式会社エスエストラスト

「やったるで」の気持ちで手にしたバトン

エスエストラストは、父が当時の勤め先の倒産を期に同期とともに興した会社です。父が起業した当時、僕は高校生でした。仕事が大変な時期にもかかわらず、Jリーガーを夢見てサッカー留学を熱望していた僕を、高校卒業後にブラジルに送り出してくれました。

ブラジルではプロ契約までいったものの、万年ベンチで、試合に出場する機会は回ってこない日々でした。その後、日本に帰国。しかし、選手としての採用は決まらず、父から声をかけられて、当社に入社。身につける服がユニフォームからスーツに変わりました。

それからは、「当社を八王子でナンバーワンの不動産会社にするぞ」という強い意気込みで、猛勉強して宅建の資格を取得、トップクラスの営業実績を上げるようになりました。気づいたときには、当社の営業を背負うのは、父と僕の二人。自然と、自分がこの会社を支えていくんだとの意識も芽生えていました。

そんな頃に、僕の人生を変える大きな転機が訪れました。フランチャイズ展開しているアパマンショップの加盟店になる方向で動き始め、同社の大村浩次社長にいろいろ教えを乞う機会を得たのです。ある時、大村社長に当社の決算書を見ていただくと、「このままだと潰れるよ。お父さんから銀行印を取り上げてでも、君が社長になったほうがいい」と言われたのです。

新規出店に必要な資金を借り入れるために奔走していた時期でもあり、自分なりに考えた上で、父に直談判しました。「このままでは潰れかねない」と切り出すと、最初は怒られました。でも、一か月後に、「お前が社長をやれ」と銀行印を渡されたのです。「よし、やったるで」。強い気持ちでバトンを受け取りました。

人が映像として映し出せるビジョンを描く

提供: 株式会社エスエストラスト

社長になったばかりの頃はワンマン経営でしたが、常に心の中には「このままでいいのか」というもやもやした気持ちがありました。その頃にコーチングに出会い、社員に動いてもらうためには、リーダーである自分がビジョンを描き社員と共有することが必要だと気づいたのです。

コーチから薦められた中村芳平氏の著書『キリンビールの大逆襲』の中に、夏祭り後のゴミのほとんどがアサヒスーパードライだったのを見て、「来年はこのゴミをキリン一色にしたい」と強く思うキリンの営業マンのエピソードが出てきます。それを読み、ビジョンとは、売上などの数値を示すことではないという大きな気づきを得ました。周りの人々が映像としてイメージできるものを描かないといけない、そう思ったのです。

当社の事業は、全国展開やグローバル展開を意識するものではありません。大切なキーワードとなるのが地域。すなわち、僕の生まれ育った地元である八王子エリア(八王子、日野、多摩)です。このエリアのアパート約12万戸の市場において、今の「管理戸数・店舗数とも地域No.1」の座から、さらにシェアを20%くらいまで伸ばして、「地域の"圧倒的"シェアNo.1」が目指す姿です。

出る杭は打たれても、圧倒的に出る杭ならば打たれません。「圧倒的No.1企業」に勤める社員は、自社への誇りがさらに増す。加えて、地域密着のおもしろい企画を手がけられれば、地域全体が「住みたい街」となって盛り上がる。

では、どのように「住みたい街」にしていくのか? 会社のビジョンを描きながら、やはり僕が目指すビジョンなのだから、僕個人のビジョンにも絡めたいと思いました。そこで頭に浮かんだのは、そう、サッカーです。

合言葉は「不動産屋がここまでやるか!」

僕の描く映像の中には、社員のみんなとビールを飲みながら、地元のサッカー専用スタジアムで、八王子チーム対東京ヴェルディの試合を観戦している姿がある。

そこで、八王子を愛する経営者仲間らとともに、株式会社八王子Jリーグプロジェクトを立ち上げました。育ててもらった八王子で、自分の大好きなサッカーに携わり、何年かかっても、サッカーを通じて地域全体が盛り上がるような、そんなおもしろい街づくりをしていきたいと思っています。地域のサッカーに携わるためにも、地元に根差した不動産の仕事に精を出す。会社と個人のビジョンはリンクしているのです。

ブラジル留学時代からの親友でFC NossA八王子監督の土屋征夫氏(*)と
*Jリーグ580試合出場、Jリーグ功労賞受賞、J1最年長出場記録3位、ルヴァン杯最年長得点記録
提供: 株式会社エスエストラスト

不動産業は、飲食店とは異なり、美味しければ毎週売れる商売ではありません。もしかすると人生に1度や2度くらいしかないお引越しを機に、お客様が当社と接点を持たれます。サッカー部人材かつ八王子市民にこだわって人員を採用するなど、サッカーを打ち出していることは、当社の差別化ポイントです。オールマイティーにスポーツを推すのではなく、サッカー1本とニッチです。そこを割り切った上で、地域のことを一生懸命考えて動く、社員一人ひとりが全員個性のあるおもしろい会社を志向しています。

だから、当社の合言葉は「不動産屋がここまでやるか!」。接点がなくても私たちにとっては地域の皆さんがお客様であり、サッカーや地域振興など、地元が盛り上がる企画を通じて、地域の方々から「いいね!」と共感を得ていく。そしてその先に、「そう言えば、家を買いたいんだった、貸したいんだった」というニーズが出たときに、あいつに聞いてみようと、僕や社員のだれかを思い出してもらいたいと思っています。

近頃のお部屋選びも、最初はインターネット経由が多いのですが、入り口はネットでも、物件をご紹介し最後には当社の社員が「人」として評価される姿を追求したい。そこに、当社の存在意義や価値を見出しています。

同じビジョンの下、新たな挑戦を社員とともに体感する

明確なビジョンを描いて共有したことで、社員が僕と同じ方向を向いて自発的にさまざまな挑戦を試みるようになりました。僕自身から社員へのコミュニケーションの中にも、「やれ」という命令形は消滅し、住みたい街を目指して「やるぞー」という発信に変化しています。僕の役割は、今ある8拠点の人財を育て上げることではありません。少し先の未来像を示し、自分も共に汗をかきながら同じ方向に向けて進む伴走者になることです。知識や経験のない社員も、「無」の状態で放置はせず、ティーチングをしたうえでコーチングをする。気づかなければ気づけるよう、声をかける。ビジョンを共有したことで、社員にとっても目指す方向性が明確になり、僕たちのコミュニケーションも変わったように実感します。

僕が当社以外に唯一経験した組織はサッカーチームですが、そこでは試合に出る選手も出られない選手も、監督も、資金を出してくださるスポンサーも、時に揉めることはありながらも、「優勝」という目標に向けてものすごい情熱をかけています。そして目標を達成した時の一体感、感動を分かち合った仲間との絆や結びつきがどれだけ大きいかは、サッカーを知らない方であっても想像に難くないのではないでしょうか。僕はそうした思いを会社という組織の中でも創り出せれば、それは地域のつながりを大切にすることにもつながると信じています。

面白い、楽しい、社員同士が仲が良くて地元が好き。この企業風土と、「不動産屋がここまでやるか!」のカルチャーを継承しながら、自分自身も等身大で仕事をし、社員が心地よく仕事ができる環境をつくっていきたいと思います。そしてその先には必ず、ビジョンの達成が待っているように思います。

本記事は2021年1月の取材に基づき作成しています。
内容および所属・役職等は取材当時のものを掲載しています。
表紙写真: 株式会社エスエストラスト提供


株式会社エスエストラスト

1992年創業。主に賃貸不動産の仲介業・管理業を行う。八王子市・日野市・多摩市を拠点とし、仲介店舗をエスエストラスト1店舗・アパマンショップを7店舗運営する。管理戸数は5,755件、年間仲介件数は約2,500件。不動産業以外にも、コワーキングスペースfabbitやブラジルダイニングNossA を運営。
その他、八王子市民の方がチャレンジできるスペース八王子一坪チャレンジショップ「はちチャレ」や起業家を応援するためのシェアオフィス「SOHOオフィス八王子東町」、またFC NossA八王子を手掛けるなど八王子エリアを住みたい街。そして住み続けたい街にしたいという想いで、地域を盛り上げる様々な取り組みを展開しています。
八王子エリアにこだわり、街を愛し、街に愛される"八王子代表"と呼ばれるような企業を目指しています。


※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

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