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あんた、そんなもんじゃないだろ
コピーしました コピーに失敗しましたコーチは相手の可能性を引き出す。
確かにそうです。
でも、どのようなスタンスで相手から引き出そうとしているかはコーチによってずいぶん違うようです。
あるコーチは静かなトーンで『あなたのサポートをしたい』と、また別のコーチは熱く『あなたの中に答えがある!』と、頭の中で繰り返し唱えています。
で、私はというと、結構頻繁に『あんた、そんなもんじゃないだろ』と静かに熱く内側で叫んでいます。
先日ある企業で営業マントレーニングを実施しました。営業マンにコーチングスキルを学んでいただくわけです。
丸1日のトレーニングの後、課題を出し、現場で実践してもらい、1ヶ月後、その課題の振り返りのために、もう1日集まっていただくというプログラムでした。
フォロートレーニングの場で、いい人そうに見えるものの、パッションを感じない30代前半の営業マンに問いかけました。
「この1ヶ月間でどういう変化がありましか?」
彼はいい人らしく、真面目に答えました。
「前回先生が言っていた会話と対話というのをクライアントと話すときに意識したんですが、なかなか対話ができないんです。さらっと終わってしまうというか。どうするといいんでしょう?」
私は強いトーンで言い放ちました。
「なんで対話できないんですか?」
こちらの先制パンチに彼はたじろぎました。
「なんで。んーっと......」
追い討ちをかけるように立て続けに質問を投げかけました。
「そこまでクライアントのこと考えてないんじゃないですか」
「......そうかもしれませんね」
「かもしれませんっていうのは、そうでないかもしれませんっていうこと?」
「......もっと本質的なことを引き出せたら、もっとこっちもプランを考えていけると思うんですけど」
「最初に考えるから、引き出せるんじゃないんですか」
「......そうですね」
突然それまでの「全部話しを聞きますよ」オーラを急変させ、ぐいぐい突っ込む私に、彼の眼は点になりました。
さらにスピードを上げて彼に次から次へと質問を浴びせかけました。
「営業やって何年ですか?」
「まだ2年です」
「この2年間で自分の営業スキルはどれくらい上がったと思います?」
「あんまり上がってないですね」
「100点満点にしたら、2年前が何点で今が何点」
「ずっと50点ぐらいから変わってないかもしれません」
「まずいんじゃないの」
「まずいですね」
「なんで成長してないの」
「目先のことに追いまくられていて」
「それって、1年後も同じこと言ってるんじゃないの」
「や、スキルあげたいとは思っていますけど」
「あげたいとは思っていますけど? 『たい』と『は』と『思ってる』と『けど』がついちゃったらやらないでしょ。だってもし彼女が、『結婚したいとは思っていますけど......』っていったらどう思います? 可能性は高い、低い?」
「あんまり高くないですね」
「でしょ。やっぱり1年後も同じ?」
「いや、スキル高めたいです」
「たいっていうのは、高めるっていうこと?」
「はい」
「50点が何点になるわけ?」
「80点」
「おおーっと強く出たね。2年で1点も上がらなかったのに、いきなり30点」
「はい」
「30点上がったら何が変わるの?」
「もっとクライアントのことを考えて、情報引き出して、提案してると思います」
「なんか教科書的だな。ほんとにそうするの?」
「ほんとに」
もう彼の顔は紅潮し、姿勢は前のめりになっています。
激しくふたりでスポーツをやっているような感じです。
「要するにクライアントをどうしたいの?」
「どうしたい?」
「そう、クライアントにどうなってほしいの?」
「ブランドを高めてほしいです」
「ブランドって」
「今いろんな顔を出してしまっているので、統一感がないなと」
「いいじゃん、統一感なくても」
「いや、やっぱり他と差別化できないと」
「差別化できたら自分にとってどういういいことがあるんですか?」
「自分にとって?」
「そう」
「達成感ありますね」
彼の声は大きく、そして「張り」がありました。
一呼吸置いて彼に尋ねました。
「なるほどね......ここまで話していてどうですか?」
「なんか......熱くなりました。これまで、目先の処理しなければいけない仕事が多すぎて、あんまりクライアントのことを考えてなかったですね。まずいっすね」
「でしょ」
約15分のやり取りの間、私はずっと頭の中で「あんた、そんなもんじゃないだろ」といい続けていました。そんなところで止まっていていいのかと。もっとやれるだろうと。あんた次第で幾らでも状況を変えられるだろうと。
人の可能性を引き出すのは、やりがいに満ちた仕事だと、最近つくづく思います。
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