Coach's VIEW は、コーチ・エィのエグゼクティブコーチによるビジネスコラムです。最新のコーチング情報やコーチングに関するリサーチ結果、海外文献や書籍等の紹介を通じて、組織開発やリーダー開発など、グローバルビジネスを加速するヒントを提供しています。
一部上場企業社長の不満
コピーしました コピーに失敗しました(クライアントの許可をいただいてコーチングの内容を一部紹介しています)
ある一部上場企業の社長のコーチングを始めました。
一部上場企業の社長のコーチングをするのは、私にとって初めての経験です。いつもと違った気負いを自分に感じながら最初のセッションに臨みました。
社長は話し始めました。
「とにかくさ、うちの社員は人に感謝しようという気持ちが足りないんだよ! 管理職も部下を育成しようという気概に欠けるし!」
50半ばのその社長は、社員に対する不満を突然ぶちまけ始めました。正直に言って、これには面食らいました。
一流私立大学卒の一部上場企業の社長。知的な雰囲気を漂わせるその面持ち。タイムマネジメント、ビジョンの構築といった「前向きなテーマ」がまず口をつくのだろうと予想していたからです。
しばらく社長の話を聞いた後、切りかえしました。
「でも、会社で起こることの全ての責任は、なんだかんだいって社長にありますよね。もし、あえて、全ては自分が引き起こした、という立場に立てばどんな風に考えられますか?」
一般的にインテリの社長はこの類の質問を受けると、ふと我に返り冷静に状況を分析し始める......はずでした。
ところが、
「俺のせいじゃないでしょ! だめなやつはだめなんだよ! やるだけやってだめならいい人間を他から連れてくる。それだけだよ! 違う?」
こちらも思わず反応してしまいました。
「よく、そんなことで上場企業の社長やってられますね!」
それからの30分は、なんとか「自責」にしようとする私と、「他責」に逃れようとする社長との押し問答でした。
出口が見つからないまま、後味の悪さを残して、そのセッションは終わりました。
セッション後、コーチング導入の窓口をしてくださった執行役員に電話をかけました。そして、社長がどんなバックグラウンドを経て、今日に至ったのかを聞きました。社長の直属の部下だったこともある執行役員は昔を懐かしむかのように話してくれました。
かつて社内の不正が公けのものとなったときに、社長は当時部長でありながら自ら矢面にたって、事件の解決にあたったこと。社内のどろどろとした派閥争いを、一役員として大変な想いをして収めたこと。会社が買収されそうになったときに、ひとりで奔走し、何とか防波堤でその動きを食い止めたこと。
孤軍奮闘する社長の姿がありありと目の前に浮かびました。
2回目のセッション。
全て聞く。何をどう社長が言っても、全て聞く。社長のこれまでの「戦い」に敬意を表して全て聞く。そう決めてセッションに臨みました。
社長は1回目と同じように、社員に対する不満を話し始めました。10分、20分、30分。予定の終了時刻を過ぎても、全く意に介さないといった風に、社長は話し続けました。
40分、50分、私の方が、セッションを終えないと、次のアポイントに間に合わないという時間になりました。しかしここは止めるわけにはいきません。許可をいただき一瞬退出し、次のアポイントをキャンセルしました。
結局2時間、社長は社員に対する不平不満をぶちまけ続けました。
そして、最後の最後に一言こういいました。少し照れたような表情で。
「やっぱり、悪いのは俺かな」
それから、この社長とは10回以上のセッションを行っていますが、ただの一度も社員の悪口を言っているのを聞いたことがありません。
一部上場企業のトップは、常に批判の矢面に立っています。先ごろの退任された某電器メーカーの会長をはじめ。とことん彼らの側の言い分を聞いてくれる人がそばにいたら、ひょっとしたら日経平均株価は、あと100円ぐらいは上がるのかもしれません。
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