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体を張る

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先日、ものすごく久しぶりに、テレビを見ていて涙が流れました。

韓国ドラマを見ていたわけではありません。プロ野球の中継です。巨人対ヤクルト。

試合も後半になって、巨人は代打に清水選手を送りました。清水選手は、昨年はレギュラーメンバーとして、チーム一の173という安打を放っています(セリーグ全体でも2位)。しかし、今年はキャプラーという高額で獲得したメジャーリーガーの控えに回り、ここまで6回代打に立っていますが、まだヒットは1本も出ていません。

解説者も、
「清水もつらいでしょうね。試合に出たいでしょうね。でもきっとその内、また彼が先発復帰できる日が来ますよ」
しきりに清水選手の心情を察したような発言をしています。

その打席、清水はあわやセンターに抜けようかという強いゴロを放ちました。しかしかろうじてセカンドが追いつきファーストに送球。きわどいタイミングでしたが、見た目には明らかにセーフでした。しかし判定はアウト。解説者でさえ、「今のは絶対セーフですよ!」と言い切っています。

判定を受けて、一塁のコーチャーズボックスにいた広田さんというコーチが、烈火の勢いで審判に挑みかかりました。大柄な野球選手に混ざって、小柄な、本当にどこにでもいるようなおじさんに見える広田コーチが、「親の敵!」といわんばかりの激しい形相で激しく審判に抗議を始めました。

解説者が、
「いや〜珍しいですね。あの温厚な広田さんが怒っているのはじめてみましたよ。抗議して判定が覆ることがないのは広田さんが一番わかってるでしょう。でも敢えてああやって抗議する。清水は救われますよ」

下から突き刺すように審判を見上げ、大きく腕を上下させ、大きな声をあげながら広田コーチは繰り返し、繰り返し審判に向かっていきます。周りの選手たちに制止されても、彼はそれをふりほどいて、審判に食って掛かって行きます。とめられてもとめられても、彼は抗議を止めません。

画面からは何を言っているのかはわかりませんでしたが、
「お前、今の一本が清水にとってどれだけ大切なものかわかっているのか!」
「一本のヒットがどれだけ清水を楽にするのかわからないのか!!」
「清水がどんな想いでこの間すごしてきたのか知ってるのか!!」
そんな言葉が口をついているように見えました。

怒鳴り続ける広田コーチと、その姿を横で見ている清水選手を見ていたら、自然と涙が出てきました。

その日はある企業での、1泊2日のコーチングトレーニングの1日目でした。トレーニングが終わって施設の部屋に戻って、たまたまつけたテレビに映し出されたのが巨人対ヤクルト戦だったのです。

次の日、朝トレーニングルームに行って、受講者に聞いてみました。昨日の広田コーチの抗議を見ませんでしたかと。3分の1ぐらいの人がそのシーンを見ていました。ひとりの部長がいいました。

「部下と信頼関係を築くのに大事なのは小難しい理論じゃないんだよね。いざというときに、部下のためにどれだけ体を張ってやれるかっていうのがやっぱり大事なんだろうな」

もうひとりの部長がいいました。

「うちの役員にも見て欲しかったな。本当に、よくはしご外すからな、あの人たち」

本気とも冗談ともつかないその発言に、会場はどっと笑いました。

部下のために、子どものために、クライアントのために、どれだけいざという時に体を張る準備ができているか。

私もふと想いを馳せました。

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