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肯定質問を創りだす
コピーしました コピーに失敗しました「ラ・ボエム」というイタリアンのお店があります。
チェーン展開していて、青山、白金など都内各所にお店があります。最近はテレビなどで紹介されることもよくありますが、有名になる前からよくパスタを食べに行っていました。行き始めたのは10年ぐらい前でしょうか。
このお店の特徴は、とにかく店員さんが、「お客様を楽しませよう」という気持ちに溢れているというところにあります。
カルボナーラを注文すれば、運んできたときに、
「今日は気持ちを込めて黒胡椒をふっておきましたから」
カクテルを注文すれば、
「このカクテルを飲むと、情熱的になりますよ」
それを皮切りに会話が弾むわけです。
当時から研修の仕事をしていましたから、人材育成には興味がありました。そこで、仲良くなったひとりの店員さんに聞きました。
「みなさん、すごくサービスいいですよね。会話がすごくうまいし。なんか研修とかしてるんですか?」
答えはこうでした。
「いえ、研修は特にないんです。ただ、お客様のテーブルに行ったら、必ずなんでもいいから、お客様に楽しんでいただけるような話をしてきなさいとは言われてます。だから考えるんですよね。どうすれば、楽しい会話ができるかなって」
一方、先日あるスーパーマーケットの管理職の方と話していたら、こんな話が出ました。
「とにかく命令調で怒鳴っちゃう店長がいるんですよ。『元気に挨拶しろ!』って。そうすると、店員は怖いから、だれにもかれにも大きい声で挨拶しちゃう。でも違うと思うんですよ。下を向いてとぼとぼ歩いているおばあちゃんには、小さく語りけるように挨拶した方がいいかもしれないし、赤ちゃんや幼児に対しては、にっこり微笑みかけるように挨拶した方がいいかもしれない。そういう臨機応変な接客ができなくなるんですよね」
人の行動を生み出す要因は様々ありますが、中でも大きいのは、内側で自分自身にどんな問いかけをしているかです。
朝会社に来るときに、重いトーンで、「今日の会議は何時間続くんだろう?」「今日は上司に何言われちゃうんだろう?」という質問を自分に投げかけている人と、快活な響きで、「どうやったら今日は効率よく楽しく仕事ができるだろう?」「今日周りの人たちに自分が与えられる影響はどんなものだろう?」と語りかけている人とでは、自ずと生まれる行動は違います。
したがって、上司、親、先生など、人を指導育成する立場にある人に課せられる一つの役割は、いかに肯定的な問いかけを相手の中に内在化させるかということになります。
スーパーの店長さんのように、強く指示命令を与えてしまうと、おそらくそれを聞いた店員さんの内側には、「大きな声を出さなかったら店長になんて言われてしまうんだろう?」という否定的な質問が生まれてしまうでしょう。結果として、画一的な、どこか張り詰めたマニュアル対応を誘発することになります。
一方「ラ・ボエム」のような環境にいると、「もっとどうすればお客様を楽しませることができるだろう?」「どんな会話をお客様は望んでいるだろう?」という肯定的な問いかけが店員さんの中に生まれる可能性が高い。創造的で、場に応じた接客がそこには誕生します。
自分は相手の中に否定質問を創りだす存在か、肯定質問を作り出す存在か、どちらでしょうか?
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