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デビルズ・アドボケイト(悪魔の提唱)
コピーしました コピーに失敗しました管理職向けのコーチング研修を始めて、かれこれ7年になります。
この間、一体何日ぐらい研修をしたのだろうかとふと気になり、過去の手帳を引っ張り出して、数えてみました(夏休みでしたので)。全部でざっと1000日。ほぼ3年間毎日やった計算になります。
さて、1000日もやっていると、研修のリーディングの仕方もずいぶん変わってきます。
研修の時に「良い上司とはどんな上司だと思いますか?」という質問を受講者にすることがあります。
始めて間もない頃は、アクシデントが怖いわけですね。こちらの筋書きに沿ったことをなるべく受講者に言って欲しい。ですから、温厚そうな、前かがみで座っている、よくうなづいてくれる人をわざわざ見つけて、聞くわけです。
そうすると、「やはり、よく部下の話を聞く上司じゃないでしょうか」なんて、こちらの予想通りのことを言ってくれて、「よし、よし順調」などと心の中でVサインを出していました。
ところが、こちらの主旨に沿った意見ばかりが出るようにコントロールしていくと、研修も半ば過ぎた頃になって、「でもこの忙しい中、どうやって部下の話を聞く時間を取るんですか。俺は納得できないな」などという、反発心丸出しの意見が飛び出したりします。自分にとっては全くの不測事態。心の中で十字架を切ります。それをきっかけに、収拾のしようのない大騒ぎになることも時としてありました。
しかし、回数を重ねるに従って、そのようなリードはしなくなりました。
例えば、一人の受講者が「部下の話を聞くことはとても大事だと思います」と言ったとします。
そうすると、
「本当にそう思われますか? 部下の話を聞いたりなんかしたら、それこそ時間がかかって大変じゃないですか?」
「部下の話を聞かずに業績を上げているマネージャーもたくさんいますよね。それについてはどう考えますか?」
あえて反論を投げかけます。
問い詰めるようにではなく、「少し一緒に探求しましょうよ」というトーンで。受講者は意表をつかれるわけですが、そこではたと考え始めます。「本当はどちらがいいんだろうか」ということについて。
日本では、管理職といえども講師の意図を汲んだ意見を言ってしまう人がわりと多いようです。ですから、発言者が本当に心から信じて言っている場合でなければ、こちらの「確かにそうですよね」などという同意はあまり意味を持ちません。表面的なボールが往復するだけですから。
つまり、安易な受け入れは、発言者の考える機会を奪うことにもなりかねません。それに、20人受講者がいれば必ずいる2~3人の批判分子を勢いづけることにもなりますし。
相手の意見にあえて反論を投げかけることを、英語では「Devil's Advocate(悪魔の提唱)」といいます。2つの正反対の意見を内側で吟味するというプロセスを通して、「なんとなくそういうものだろう」というところから「確かにそれだ」というところに移行する可能性が高まります。
コーチの役割は相手に考えさせることにありますから、最終的に相手がどちらを選ぶかは、実はそれほど重要ではないと思っています。なんとなく最近のトレンドに乗って選んでしまうのではなく、他の可能性もじっくり吟味してもらう。その上で、「やっぱり指示命令だ!」と決めるのであれば、それはそれで力があるでしょう。(実際には「聞く」と「聞かない」を冷静に吟味していただくと、「聞く」という結論に到達するマネージャーが多いのも事実ですが)。
いつでもこの方法が使えるわけではないと思いますが、良いコーチは「安易に同意しない」というオプションも持っています。相手の「内なる対話」を誘発させるために。
デビルとはいいますが、本当はエンジェルの主張だと思っています。
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