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コーチの叱り方

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企業研修で、「『叱り上手』だと思う人は手を挙げてください」というと、20人の参加者のうち、多くても3人ぐらいしか手が挙がりません。1人も手を挙げないなどということもままあります。

「『ほめ上手』だと思う人?」と聞いたときには、半分近くが手を挙げますから、叱るという行為に対して、いかに管理職が苦手意識を持っているかがわかります。

「叱れない理由はなんですか?」と聞くと、「関係を壊すのが怖い」「部下のモチベーションを下げてしまうのではと心配」「叱りはじめると自分の感情をコントロールできないのではないかと不安」など、幾つかの理由が挙がってきます。いずれにしても、ほとんどの人は「叱る=声を荒げること」だと捉えています。

果たしてそうでしょうか。

ある本によれば、叱るとは「挽回への励まし」と定義されるそうです。つまり、結果として相手が、「よし挽回しよう!」と思うのであれば、それはどんな言葉を使ったとしても、叱ったことになると。

少し言い方を変えれば、叱るとは「理性的対応」であり、「感情的反応」である怒るとは違うわけです。相手の言動に対して反応し、ただただ強い言葉を浴びせかけるのは、必ずしも挽回への励ましではありません。


ある企業の社長のコーチングをしていたときのことです。珍しくセッション以外の時に社長から電話がありました。
 
聞くと、北海道にいる自分の部下が新規事業に絡んだ案件で、1億円近い損失を出した。本来ならば頭から怒鳴りつけるところだが、今回は少し冷静になって、事の顛末を振り返ってみた。

「もちろん部下にも責任はあるけれども、準備が万端でないところで、『早くしろ早くしろ』と先を急がせた自分にも責任の一端があると思う。だから、今回は彼を責めることは一切せず、自分から北海道まで出向き部下を励ましてこようと思うが、それは正しい選択だろうか。きつい言葉も残した方がいいだろうか。コーチとしてどう思うか聞かせてほしい」とのことでした。

私は前述の叱るということの定義について、社長に話しました。社長は電話の向こうで深く大きくあいづちを打ちました。そして彼は北海道へと向かいました。

朴訥な社長ですから、部下と会っても多くは語らず、ただ、じっと部下の目を見て、そして強くひとこと言ったそうです。
「気を落とすな。頑張れ」

社長が東京に戻ってから間もなくのことでした。その部下からメールが来たのは。
 
そこには「社長の言葉に勇気づけられました。絶対に、何があってもこの損失を取り戻したいと思います」。そう書かれていました。社長の「挽回への励まし」は成功しました。

人は自分の価値観と合わない、他人の行動を見ると「反応」を起こします。「俺が新人の頃はそうはしなかった」、「どうしてこの状況でそういう動きをするんだ」。いらつきが体を支配します。しかし、いらつきから言葉を出してしまえば「挽回への励まし」とは程遠いものになる可能性が高いですし、相手もそれを拒絶することでしょう。

自分の中に反応を感じたら、一瞬止まって、できれば、場所を変えるなど、ほんのちょっとクールダウンさせ、どんな言葉が相手にとって「挽回への励まし」となるのか、考えてみてはどうでしょうか。

目的は、自分のいらつきを収めることではないはずですから。

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