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パンドラの箱の開け方
コピーしました コピーに失敗しましたお読みになった方も多いと思いますが、先日、日経新聞に、一部上場企業に入社した新卒の30%が3年以内に離職するという記事が載っていました。
転職が特別のことでなくなったとはいえ、この数字にはやはり驚きました。そこまですぐに辞めてしまうのかと。
もちろん、新卒だけではありません。昔とは比べものにならないくらい、人はあっさり会社を離れるようです。
改めて、一体どんな背景があるのだろうと厚生労働省や転職支援会社などのホームページをつらつらと見てみました。
そこで分かったのは......
人が会社を辞めてしまうのには幾つか理由があるようですが、中でも大きいのは「上司や会社が自分の将来や、ビジョンに関心を示してくれない」ということのようです。2、3のアンケートがそれを示していました。平たく言ってしまえば「ここでどんなことをしてみたいんだ?」と上司が聞いてくれないわけです。
上司の気持ちも分かります。非常に速いスピードでの業績向上が求められる中、安易に部下のやりたいことなど聞いてしまったら、期限までにゴールを達成できないかもしれない。プロジェクトが収拾のつかない状態になってしまうかもしれない。そんな風に思ってしまう。だから、できればパンドラの箱は開けたくない。手をつけずに、そのままにしておきたい。
しかし、開けないからといって、消えてなくなるわけではありません。確かに箱の中にはその想いが眠っています。
周りがその中味に関心を寄せてくれなければ寄せてくれないほど、本人はパンドラの中味が気になります。誰かに思いっきりそれを伝えてみたくなる。そんな時ですね、他の会社も覗いてみようかなと思うのは。
採用のコストをかけ、教育のコストをかけ、ようやくこれからという時に社員が辞めてしまうというのは、やはり会社にとっては損失です。
上司はパンドラの箱を前にして、どのように振舞えばよいでしょうか?
ある企業の5年目の社員の方にビジョンメイキング研修をしていた時、研究部門の参加者の一人がこんな話をしてくれました。
彼はアメリカの大学で博士号を取った後に、この会社に入りました。期待に胸を膨らませて入った会社でしたが、配属された部署はそれまでの自分の研究領域とは畑の違う部署でした。
自分の経験や知識が使えない部署で、彼のモチベーションは一気に低下しました。来る日も来る日も、彼の頭の中には「テロップ」が流れ続けました。
「こんなはずじゃなかった......」
彼が幸運だったのは、彼の上司が「入社1年目なんだから、なんでもまずやってみろ!」などと頭ごなしに言わなかったことです。
上司は彼に尋ねました。
「どうも苦しんでいるようだけれども、そもそもどんな仕事がしたくてこの会社に入ったんだ?」
彼はそれまで言えずに溜めていた想いを一気に上司にぶつけました。上司は真剣に彼の目を見て、じっくり話を聞いた後、彼にリクエストを出しました。
「いいか、君の配属部署自体は、3年はおそらく変わらないだろう。ただ、その間に君がやりたい仕事を企画書の形で出してくれたら、俺が直接役員に掛け合ってやろう。うまく行けばプロジェクト化されるかもしれないぞ」
彼は目の色を変えて、企画書作成に取り掛かりました。もちろん、与えられた仕事も一切手を抜かず懸命にやりました。
彼が作成した2つ目の企画書は、上司の推薦もあり、副社長の目に留まりました。そして、副社長直轄のプロジェクトとして、彼の企画書は動き出すことになったのです。
毎回必ずうまくいくというわけではありませんが、パンドラの箱への対処方法は、
1. とにかく、まずは勇気をもって開けてみる
2. 今の状況の中で変えられないことと、変えられることを切り分ける
3. 変えられないことを受け入れるよう部下に伝える
4. 変えられることを部下自身の責任で変えるように部下を励ます
5. 変えられることが変わるように上司として援助する
パンドラの箱を持っている部下を前にしたときのレシピとして、ぜひ試してみてください。
突然の「実は......」を避けるために。
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