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「プラスの追求」と「マイナスの回避」
コピーしました コピーに失敗しましたものすごく単純化してしまうと、人の行動パターンは2つに分けられます。「プラスの追求」か、「マイナスの回避」か。どちらかしかないといっても過言ではありません。
例えば、家で掃除をするときのことを考えてみてください。隅々まで掃除をして、素敵な花をテーブルに飾って、そこで香り高いコーヒーを飲むんだ、とイメージして掃除にとりかかるのが、前者の行動パターン。これ以上掃除をしないと、カビが生えるかもしれない、ダニが湧くかもしれない、匂いがたつかもしれない。それは嫌だから掃除をする、というのが後者のパターン。
ひとりの人がいつもどちらかのパターンで行動しているわけではなく、プライベートでは「プラス追求型」中心だけれども、仕事は「マイナス回避型」中心というように、場面によってパターンは変わります。
ただ、いずれにしても、未来に対するスタンスは「期待」か「不安」か、そのどちらかです。そして、一般的には、「期待」で動いているときの方が、より高いパフォーマンスを発揮することができるようです。僅差の勝負になったり、追い詰められた状況になればなるほど、「期待」は「不安」を上回ると言われています。
そんなことが、先日の女子のフィギュアスケートを見ていて、頭に去来しました。
安藤美姫さんの演技前の堅い表情、ジャンプを失敗しての3回もの転倒、そして演技後のインタビュー。その全てが、おそらく安藤さんが「マイナスの回避」で動いていたであろうことを示唆していました。
安藤さんのインタビュー。
「(朝の)公式練習で体が動きすぎて、足が軽くなっちゃって......。ジャンプを降りるときに右足が踏ん張れなくて......」
転倒は避けたい、失敗は避けたい、4位転落は避けたい、そんな想いがパフォーマンスを下げてしまったのかもしれません。
一方で、ミラクル真央ちゃん。
あの躍動感のある動き、活き活きとした表情、きらきら輝く眼。自由自在にリンクの上を舞いたい、見る人をあっと言わせたい、どこまでも軽やかな演技を披露したい。少なくとも、今回の大会は、彼女は「プラスの追求」で動いていたように見えました。
おそらく安藤さんも、4回転のジャンプを成功させたときは、「プラスの追求」で動いていたでしょう。もっと跳びたい、周りをあっと言わせたい、空中をできる限り高く舞いたい。
しかし、一旦大きな成功を手にすると、モードは「期待」ではなく、それを失いたくない「不安」になりやすいものです。それが、「マイナスの回避」へと行動の源泉を移していきます。
そうなったときこそが、本当の意味でコーチの出番なのかもしれません。もう一度「プラスの追求」でその人に動いてもらうために。
では、マイナス回避型で動いている人を、プラス追求型で動くようにするためにはどうすればいいでしょうか。ヒントとなるようなことを、あるクライアントの方から聞きました。
彼は大手の複写機メーカーの支社長で、これまで行く部署行く部署、全ての所で飛躍的に業績を高めてきました。
彼に聞きました。
「『売れないんじゃないか、ゴールを達成できないんじゃないか』と、不安に思い続けている部下には、どのようなアプローチをするのですか?」
彼は即答してくれました。
「言い続けるんですよ。『いけるよ』『やれるよ』『大丈夫だよ』って。相手がそれを信じるまで、何度も何度も何度も。そうすればきっと心が変わるから」
「それだけですか?」
「僕の役割はね。あっ、でもあれですよ、なるべく自然に言うのが大事ですよ。力を込めると相手はやらなければいけないとプレッシャーを感じるから。それに、力を入れると、こっちも何度もは言えないでしょ。あくまでも軽くね」
安藤美姫さんのコーチは、これから何を、どのように彼女に伝えるでしょうか。
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