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頭 vs 直感
コピーしました コピーに失敗しました私たちの会社には、毎月、中途で新しいコーチが入社します。さまざまな分野での経験をもって入ってきますが、コーチとしての経験はゼロ。コーチとして、いちから育てることになります。
先日、入社して3ヶ月になる新人コーチから質問を受けました。
「コーチとして一番大事なことはなんですか?」
唐突な質問に一瞬戸惑いましたが、5秒ほど思考し答えました。
「直感を信頼することでしょう」
「直感ですか?」
新人コーチの顔には、たくさんの「?」マークが浮かびました。そこで、彼に『第1感』(マルコム・グラッドウェル著、光文社)という本に載っていたエピソードを紹介しました。
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1983年9月、ベッチーナと名乗る男が、カリフォルニアのゲッティ美術館を訪れました。紀元前6世紀のギリシアの立像を見つけたので、1000万ドルで買い取って欲しい、と彼は美術館にリクエストしました。
ゲッティ美術館では、14ヶ月の時間をかけ、ありとあらゆる最新の解析機器を使って立像の真贋を検討し、最終的にこれが本物であるとの結論を出しました。
ゲッティ美術館が立像を購入してしばらくして、ある古代ギリシア彫刻の専門家が、その立像を目にしました。彼はその立像を一目、たった一目見て言いました。
「これは偽物だ」
判断に要した時間はわずか1秒。
その後、その立像が本物であることに疑いをなげかける証拠が次々と見つかりました。最終的にこの立像は贋作であることが証明されたのです。
人の直感的判断は最新鋭の技術に勝りました。
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脳科学者の茂木健一郎さんも、近著『脳の中の人生』(中公新書)の中で、「直感」の重要性について述べています。神経学者ダマシオ博士の研究を引き合いに出し、人は大脳皮質で理性的に判断することに加えて、「内臓感覚」といわれる情動系の反応を判断材料としている、と。特に、正解を見つけることが難しい問題などは、「よくわからないけれどもこれが正しい」という直感が、大きく事態を発展させることにつながる、と。
先ほどの新人コーチは、直感が大事であるとの私の言葉に対して、「自分はどのぐらい直感があるかないかわかりません」といいました。ちょうど営業同行した後だったので彼に聞きました。
「今日お会いした部長、会った瞬間どんな人だと思った?」
「会った瞬間ですか......う~ん、隙がない人だなと」
「他には?」
「う~ん......失敗するのがすごく嫌いで、部下に1から10まで自分のやり方を指示するタイプにも見えました」
「部下は部長のことをどう思っていると思う?」
「いざというときに責任を取ってくれる人ではあるけれど、一方で話しかけにくい人と思っているんじゃないでしょうか」
「他にはどんな強みがあると感じた?」
「決して最後まで諦めない人だなと」
「ほら、直感はあるでしょ」
「そうですね」
直感というのは、決して誰かに与えられた特別な能力ではありません。問題は、あるかないかではなくて、それに気づくか気づかないかです。私たちの「内臓」はアンテナとなって、何かを常に感じています。それを観ることに意識を向けさえすれば、それを感受することは可能です。ただ、意識は一回に一箇所しかいかないという特性がありますから、頭で分析し始めれば、感じているものが感じられなくなります。
もちろん経験のある人が、その領域において生み出す直感は、経験のない人よりも質の高いものとなるでしょう。美術を知らない人よりも知っている人が美術品に対して生み出す直感の方が、信憑性が高いのは当然です。ただ、対象が人の場合、ほとんどの人は直感を生み出すのに必要な経験はもっていると思います。あとはそれに気づくか気づかないか。
ぜひ目の前の人を見て、改めて見て、自分の中にどんな直感が生まれるかを観てみてください。
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