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質問の前提

ある企業の役員の方のコーチングをしています。
この方は、6月に子会社の社長として出向することになりました。
そこで、前回のセッションでは、どのように子会社の幹部と
いち早く関係を作るか、ということがテーマになりました。
「どんな戦略でいきましょうか?」
と尋ねると、半年近くコーチングを受けている彼は、
コーチング用語をたくさん使って、自分の戦略を説明してくれました。
「まず、一方的にああしろこうしろとは言わない。
ティーチングではなくて、コーチング。
鈴木さんに教えてもらったインタラクティブっていうのでいかないとね。
質問をして、彼らに新しい視点をもってもらう。」
意気揚々と語る役員の方の言葉に、
なんとなく一抹の不安がよぎり、尋ねました。
「どんな質問をされるおつもりですか?」
「小出しにしていこうと思ってるんだよね。
『○○については知ってる?』とか
『○○について考えたことある?』とか。
そういう質問を折りに触れしていって、彼らに気づいてもらう。」
彼はちょっと自慢げに話してくれました。
私は、すかさず切り返しました。
「あなたのことを長く知っている人にするのはまだいいですが、
これから関係を作ろうという人には、
その質問は信頼を損ねかねないですよ。」
「えっ、そうなの? どうして??」
質問というものは、常に背景に「前提」をもちます。
前提は大きく分けると2つです。
肯定か否定か。
つまり、あなたはできている、やれている、能力がある
といったような「肯定」を前提とするか、
もしくは、あなたはできない、知らない、たぶんできない
といった「否定」を前提とするかです。
どちらを前提とするかで、
相手に与える印象はまったく変わりますし、
相手が質問に答える量にも大きな影響を与えます。
役員の方が考えた、「○○については知ってる?」
「○○について考えたことある?」という質問は、
もちろん言い方にもよりますが、
基本的に否定が前提となっています。
「知らないはずだ」「考えていないだろう」という否定が。
彼は気づかせたいと思ってなげかけたとしても、
部下からすると自分達に対する否定と捉えかねません。
肯定を前提とすれば、
「○○についてはどんなことを知ってる?」
「○○についてはどんな風に考えている?」
という質問になります。
そうすれば、「君たちは既に知っている、考えている」と、
暗に認めていることになるわけです。
質問に肯定という前提を含ませることは、
ときに相手に対する強い承認を与えることになります。
「君は前向きだよね」と
ストレートに言ってしまうのもいいですが、
こうした直接的な表現は、ときとして、
「いや、そんなことないですよ。」といった、
遠慮や勘ぐりを招いてしまうこともあります。
でも、もし「君のその前向きさはどこからくるの?」と
質問に承認を内包させてしまえば、
相手の意識は質問に答えるということに向かい、
そこに含まれている承認の是非を吟味できなくなります。
結果として、メッセージが相手の中に入りやすくなるわけです。
私のクライアントの役員は、出向前に、
相手への信頼を内包する質問を30個リストアップしました。
それを実際にするかどうかは別としても、
30個質問を作ったことで、出向する会社で
相手を不用意に否定してしまうことは少なくなると思います。
みなさんは、どんなふうに肯定を前提とした質問をしていますか?
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