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ドッジボール vs キャッチボール
コピーしました コピーに失敗しました私は高校時代、ラグビーをやっていました。ほぼ30年前のことです。
毎日毎日、10人以上のOBが指導に訪れ、練習は本当に厳しかった。3年生になり、受験のために引退という最後の練習のときに、初めてOBから「ナイスダッシュ!」と誉められて、それがうれしくて涙ぐむ。というような、典型的な体育会系でした。
たたき上げる。しごく。どうも私たちの世代は、そのように育てられたのではないかと思います。だから、この年になって、部下を育てる側にまわっても、自分たちがされたやり方で指導する傾向があるように思います。わかっていても、それはなかなか変えられない。
3年前、ある食品メーカーの事業部長が、コーチング研修に参加しました。
コミュニケーションをキャッチボールに例えたデモンストレーションを行ったときのことです。
「桜井さん、僕は部下とキャッチボールはしていないな」
「キャッチボールをしていない?」
「うん。していない。毎日がドッジボールだよ!」
部下をもつようになって20年。部下めがけて剛速球を一方的に投げまくっている。部下を育てることに関しては、本当に一生懸命やってきた。部下をたたき上げるという信念で、心を鬼にして厳しいボールを投げてきた。そのやり方で、何人も優秀な部下を育てた自負もある、と言うのです。
「でもね、桜井さん。相手によっては、強いボールが受け取れず、結果的に自分から離れていった奴もいるんだよ。これからは、一方的にガンガン部下に言うだけでなく、部下の話も聞いてみたい、部下とキャッチボールもしてみたいって思ってるんだよ」
彼は、コーチ・トレーニング・プログラム(以下CTP、現在のコーチ・エィ アカデミア)に参加することを決めました。多忙なスケジュールを調整し、週に2回の電話会議によるトレーニングを開始したのです。
彼は、毎週のトレーニングごとに楽しそうに言っていました。
「コーチの勉強はおもしろいね。すぐに全部はできないけど、部下とのキャッチボールだけは毎日自分に言い聞かせて、実践するようにしてるよ」
3ヶ月ほどして、彼から相談を受けました。
「桜井さん、このところ、部下の間で噂になってるんだ」
「どんな噂ですか?」
「最近、部長のようすが変だ。気持ちが悪いって言うんだよ。どうしたらいいんだろう?」
「原因は何だと思いますか?」
「なにしろ、部下の話を聞くようにしてるからじゃないかな?」
「それはすごい。自分のコミュニケーションを変えるのはとても勇気がいること。気持ちが悪いと言われるなんて、それは尊敬に値します。僕も見習いたい。それで、部下の動きに変化はありますか?」
「以前は、月次のレポートを出すように口をすっぱくして言ってもなかなか出揃わなかったものが、先月は何も言わなかったのに期日どおりに全部揃った。部下からの提案も増えている。以前より部下の動きは確実によくなっていると思う。 今は、気持ちが悪いと言っているけど、そのうち慣れるのかな」
彼は現在、CTPのプログラムをすべて終了し、認定コーチの資格をとって、社内コーチとして活躍しています。
自分のコミュニケーションを変えるためには、継続したトレーニングに参加すること。そして、少しだけ「勇気」が必要なのだと思います。
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