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新しい壁
コピーしました コピーに失敗しました先日、家の近所にある「打ちっぱなし」で、レッスンプロからこんな話を聞きました。
「最近の若いプロゴルファーはみんなコーチをつけてますよ。でもね、ある程度できるようになると、自分ひとりでやろうとする人が多いんだな。もう大丈夫って感じで。ところが、ゴルフって上達すればしたで、必ず新しい壁がそこに立ち現れる。そうなったときに、いち早く、改めてコーチの門を叩けば、短い時間でその壁を乗り越えられるんだけどね。一度できるようになった選手はなかなかそうしない。もったいないよね。だけど"本当に"優秀な選手はそこでコーチを求めるんだな」
この話を聞くと、やはり、タイガー・ウッズは"本当に"優秀な選手なんだなと思います。
タイガーはもともと、ブッチー・ハーモンというコーチについていました。しかし、強くなり、連戦連勝するようになって、彼は、ブッチーと歩むことを一旦は止めました。ですが、その後、試合にまったく勝てなくなった時期があり、タイガーはそこで再びブッチーの門を叩きます。それが再び、彼に勝利をもたらす大きな足がかりになったと言われています。
企業のエグゼクティブも同じで、役職が上がれば、常に新しい壁が立ち現れます。部長から執行役員になれば、当然、これまでとは違う壁を乗り越える必要があります。部長の延長線で執行役員をやることは難しい。常務、専務、副社長、社長。ひとつポジションが上がれば当然違う課題が目の前に現れます。本当はそこで、タイガーのように誰かのサポートを経て、変化を遂げることを目指せばいいのですが、なかなかそうはいきません。なぜなら、エグゼクティブというのは基本的に、自分は「成功者」だと思っているからです。
「成功者」は一般的に、おいそれとは自分の行動を変容させません。今日の自分に導いてくれたやり方が、明日の自分を保障するはずだと思うからです。
その一方で、米長さんという棋士は、自分の成功体験を脇に置き、行動を変化させた人として有名です。彼は6回名人戦に挑戦し、一度も勝つことができなかった。次に負けたらもう名人になれないだろうと言われはじめたときに、米長さんは、自分のそれまでの戦法を一旦全て投げ打ち、若手に弟子入りして、最先端の将棋戦法を4年かけて学びなおしました。そして、50歳の時にはじめて名人位を獲得するに至るのです(『決断力』羽生善治著より)。
成功体験をもっている人は、ややもすると、新しいことにチャレンジして失敗してアイデンティティを失うくらいなら、同じやり方で失敗して、周囲のせいにした方がいいとさえ思います。
アイデンティティの喪失というリスクを乗り越えて、新しい壁超えを目指すには、どうもコーチのような、異なる視点を投げかけてくれて、励まし、共に歩んでくれる人が側にいた方が早いようです。
先日、コーチングをしているある企業の副社長が社長になりました。
彼いわく、「社長になったら、見る世界がまったく変わったよ。十分力を身につけてきたと思ったけど、想像するのと、実際になってみるのとでは、雲泥の差だね。もうしばらく鈴木さんのサポートが必要だな」
新しい壁を一緒に乗り越えるというのは、なかなかやりがいのある仕事です。
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