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三者面談

三者面談 | Hello, Coaching!
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適切な目標を設定することは、コーチングを成功させるためにとても大切なことです。ときにコーチは、高すぎる目標、低すぎる目標をうまく修正しなければなりません。

私の長女は中学3年生。現在、高校受験の真っ只中です。志高く、自分の実力よりもかなりレベルの高いA高校を目標にしています。しかし、A高校を受験すれば落ちる可能性が高い。そうすると、滑り止めの、実力より低い高校に行くことになってしまいます。親の目を差し引いても、それは無謀な挑戦です。客観的に見て、推薦で入学可能なB大学の付属高校を目指す方がよいだろうと思うのです。

志望校を決定する三者面談の前日のことです。

ここまで、娘の受験は妻に任せていたのですが、ここは父親の出番ということになりました。娘と話して目標を修正しなければなりません。

「受験について話そうよ」
「うん」
「最近良くがんばってるよね。成績も上がってきたし、すごいね」
「うん」
「A高校のどんなところが気に入ってるの?」
「学園祭に行ったんだけど、すっごい楽しかったよ。自由だし、制服もかわいいし......」
「そうか、そういうところが気に入ってるんだねー」

娘は機嫌がよさそうです。さて、ここからが勝負。

「難しいんでしょ?」
「うん、難しい」
「今の実力からいってどうなのかな?」
「......」

娘は下を向いて黙ってしまいました。

「B高校の推薦を狙った方がいいんじゃない?」
「......」
「A高校は落ちる可能性が高いんだから、そしたら今度は滑り止めの高校に入って、大学受験することになるかもしれないよね。高校だけが人生じゃないんだから、先のことを考えれば......」

まずい。しゃべり過ぎです。うつむいたままの娘の目を見ると涙が溜まっているではありませんか。そして娘からのとどめの一言。

「そんなこと言われてもわかんないよ!」

好きなようにしろと言うわけにもいかず、どのようにまとめようかと考えていると、娘は立ち上がって自分の部屋に立ち去ってしまいました。うーん。困った。

ところが次の日の夜。娘は、昨日とは打って変わってあっけらかんとしています。私はおそるおそる娘に聞きました。

「三者面談はどうだったの?」
「うん、お父さんの言うとおりB高校の推薦を目標にすることに決めたよ」
「え?」

娘は、明るい調子で続けます。

「塾の先生も、学校の先生も、お父さんと同じことを言ってた。私も、良く考えれば、B高校はそのまま大学にも行けるし、将来の選択肢も多いし、A高校をあきらめるのはちょっとつらいけど、B高校の推薦をもらえるようにがんばるよ」

適切な目標を設定することの重要性は、受験に限らず、スポーツ、ビジネスにおいても同じです。

上司として部下の目標を一方的に変えてしまうのは簡単です。データをならべ、経験を話し、その目標がいかに難しいかを説けば、部下はその場では従うでしょう。しかし、その「yes」が必ずしも真の同意を意味していないことを、私たちは知っています。そのやり方では、部下のモチベーションがさがってしまう。かといって、失敗することがわかっている目標を、そのままやらせることもできません。

低すぎる目標を上げようとするときも、高すぎる目標を修正しようとするときも、新たな目標が、本人の中で新しい魅力的なビジョンとして置き換わる必要があります。目標を変更したり、考えや行動そのものを変えていくためには、ビジョンを創り変えるのに必要な大量の情報と、その情報が新たなビジョンとして本人の中に創られていくためのコミュニケーションが必要なのです。

相手が考えややり方を変えないのは、もしかしたら、ビジョンを創るための情報とコミュニケーションが不足しているだけなのかもしれません。

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