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意欲の源
コピーしました コピーに失敗しました先日、立ち上げて10年になる会社の社長さんのコーチングをしていたとき、唐突に彼が言いました。
「鈴木さん、こんなこと間違っても社員には言えないけど、最近、自分の意欲がちょっと落ちているような気がするんだよね。会社は順調だし、家庭もうまくいっている。何も問題はないんだけど、どうも会社を立ち上げたときのような熱が自分にない感じがして」
「熱がない?」
「そう。最初はいろいろわからないことだらけだし、しゃかりきになるじゃない。ノンストップの機関車みたいだったよね。あの頃に比べると、なんか各駅停車の鈍行みたいな気がして」
「各駅停車の鈍行ですか。なんでそうなってしまったんですかね?」
「やっぱり、予測がつくようになってしまったことかな。こうすれば、こうなるって、だんだんわかるようになってきた。だからゆったりしてられるんだけど、なんか、自分に勢いを感じない」
「ということは、『意欲の源』は、未来に対する不確実さっていうことですか?」
「あっ、そうだね。未来が不確実だと、つらいところもあるけど、なんか気合入るよね。もちろん、そればっかりでも困るけど(笑)」
会社を立ち上げる。そうすると経験も実績もなく、わからないことばかりですから、経営者もそれに続く社員も、ものすごく意欲の高い状態になる。毎日が文化祭の前日のようなものですね。
ところが、会社が軌道に乗り安定してくると、今日と同じ明日が来るような錯覚に陥ることがあるようです。経験が蓄積されますから、未来がある程度予測できるようになる。会社はあれこれ手を入れなくても慣性で動いてしまう。そうすると、新しい経験を蓄積しよう、新しい体験をしようという意欲が欠けてくるわけです。いわゆる大企業病というのは、まさにこうした状態のことを言うのでしょう。誰も新しいリスクを取ろうととしない、と言うよりは、リスクを取るための意欲がないために、取るに取れないと言った方が正確かもしれません。
会社を支えるのは、最終的には社員の意欲であると思います。であれば、それを高めるために、常に不確実な、これまでの経験では解決しえないような課題を経営者が投げかけていく必要があるのかもしれません(もちろん、あまりに大きな不確実さは逆に社員にとってストレスになりますし、どの程度の不確実さがその人の意欲につながるかは、個人差があると思いますが) 。
前出のクライアントの方にも伝えました。
「会社があまりにも安定してしまうと、実は危険なんですね。だとすれば、もう少し社員を揺さぶって、意欲の源となる不確実さを創り出すには何ができますかね?」
彼は、考えた挙句に、今までと少し方向性の違う分野の事業をスタートすることを決めました。予算規模的にもそれほど大きなリスクではありませんが、まずはリスクを取って新しいことに乗り出していくという意思表示を、社員に対して行なったわけです。
未来を予測可能なものにしながら、一方で簡単には予測できない事柄にもしっかりとチャレンジしていく。組織も人も、内なる意欲が枯渇しないようにするためには、この両方のバランスを取っていくことが大事なのかもしれません。
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