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私のコーチは翻訳機
コピーしました コピーに失敗しました1997年、私はアメリカで行われたコーポレートコーチ(法人を対象としたコーチ)のトレーニングに参加しました。
会場はテキサス州ダラスの少し古びたホテル。ロビーを入ったところに、誰も入らないゴミの浮いたプールがあって驚いたことを思い出します。
そのトレーニングに集まったのは約100名。コーチングのパイオニアと言われる人たちでした。
まだコーチングについてそれほどのトレーニング経験もなく、ましてや英語でのトレーニングは初めてでしたから、私は緊張しながら、少し様子見の気持ちで参加していました。
「コーチが聞くポイント」についてのレクチャーが行われたあと、トレーナーはいきなりこう指示しました。
「では、二人組になってお互いにコーチングしてください」
私と組んだ相手は、企業の中ですでにコーチとして活動している、美人でスレンダーで頭が切れそうな30代の女性でした。私はほとんどコーチングの経験がなく、しかも英語だったのでちょっとしたパニックに陥りました。それを察した彼女は、「私がコーチ役をやりましょう」と、切り出してくれ、まずは会話を始めることができました。
そのときとても印象に残ったのは、彼女が私の話したことを忠実に戻してくれることでした。
緊張して自分で何を話しているかもわからないような状態だった私に対して彼女は「私に聞こえてきたのは、こういうことですが、よろしいですか?」とか、「あなたが言っているのは、こういうことですね」という確認をしてくれたのでした。まるで、私が話したことが、高性能な翻訳機にかかり、正確な言葉になって戻ってくるような感覚がありました。
そこで体験したのは、「私が伝えたいことは正確に伝わっている」という安堵と、場合によっては「いや、私が話していたのは、そういうことではなくて......」と、修正・訂正できることでした。実は、修正・訂正することの方がどちらかというと有益で、そのプロセスを経て、自分が考えていることがより明確になっていくことを実感したのです。
そのときの体験は、私のコーチングの原点になっていると思います。
コーチがすることは何か? という質問に対し、「話を聞くこと」という答えをよく聞きます。「相手が気持ちよく話せるようにしてあげる」という多少の誤解を含んだ答えを聞くこともあります。
コーチはただ「相手が話しやすいように聞く」のではありません。クライアントが伝えている内容を、伝わったままに戻すという大事な役割があります。クライアントが自分の考えを確認しながら整理し、ずれが生じた場合は、考えと言葉を一致させていくことができるからです。
コーチはそれを可能にするために、クライアントの話している「内容」だけでなく、
・話し方
・声のトーン
・その人の強み
・価値観
・あり方
などにアンテナを張りながら聞き、相手から伝わってきたことを正確にキャッチして、戻します。
10年前に出会ったコーチは、まさに言葉だけでなく、以上の事柄に注力して聞いていたのでしょう。そのとき実感した、自分が考えていることを伝えることがいかに難しいか、そして、いかにあいまいに伝えているかということは、現在でもコーチとのセッションで毎回直面することです。
しかし、これを10年間続けたことで、クライアントの立場としては、自分の考えを言語化する能力が大幅に上がり、コーチとしては、クライアントの話している言葉以外のことから伝わってくることを戻す能力が上がったと感じています。
「私はこの人の高性能な翻訳機になっているかどうか?」
ときどき、このことを思い出しています。
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