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部下のデータベースをもつ

社内でコーチングを行う場合、コーチである上司が部下の情報をもっていればいるほど、多角的なコーチングを行うことが可能になります。
先日、某大手企業の人事部に勤めるKさんと話す機会がありました。Kさんは、ハラスメント防止の責任者です。マニュアルを作成したり、研修を実施するなどして、 全社に対して、いわゆるセクハラやパワハラ防止の啓蒙を行っています。
Kさんは言います。
セクハラやパワハラは、起こす側の意識の問題は当然のことながら、相手との信頼関係の有無が大きく影響する。
同じ言葉を言っても、信頼関係のあるなしで、大きな問題に発展することもあるし、そうでないこともある、と。しかし、そこの線引きが微妙で難しい。
結局のところ、マニュアル的な「○○するべからず」集のようなものがいつの間にかできていて、なかなかハラスメント防止の真意が浸透しない。
たとえば、
- 男性の上司が女性の部下を誘って、二人だけで食事に行く。これはセクハラ。最近はその逆もセクハラ。
- 「おい! 飲みに行くぞ!」と強引に誘う。
- 「君はいつ結婚するつもりなの?」
- 「ずいぶん遅くまで仕事してるな。デートに行く相手はいないのか?」
- 「その髪型かわいいね」
これはパワハラ。
これも当然ハラスメント。
このあたりも十分セクハラ。
営業同行の帰りに、 「今日は君に同行してもらって、本当に助かったよ。次もぜひ君に同行してほしい」 上司としては、誉めたつもりが、相手が異性だったら、これもセクハラになる可能性があるとのこと。
Kさんによると、表には出ていないだけで、実は部下の側からかなりの苦情があり、上司に対して、どうしてもこのような HOW TO 的な教育をせざるを得ないというのです。 ハラスメントの研修で、「○○するべからず」をたくさん教え込まれて、部下と口がきけなくなってしまうマネージャーもいるらしい。どうも笑い話ではすまないようです。
部下が上司に評価して欲しいと思っていること
たとえば、上司が部下に関して次のような事柄を知っていたらどうでしょうか?
評価して欲しいと思っていること
これまであげてきた成果
目標にしていること
キャリアヴィジョン
仕事の満足度
得意分野
苦手分野
持っている資格
目指している資格
仕事量
仕事のスキル
仕事のクオリティ
チームでの立場
職場内の人間関係
人生観
価値観
家族の状況
生活の状況
今興味を持っていること
今困っていること
ストレスの原因
日々の体調
コミュニケーションのタイプ
学習スタイル 、、、などなど。
上司がこれらの情報をもっていれば、コミュニケーションの幅は広がり、コーチングの成果も出しやすくなります。 このことをコーチングでは「部下のデータベースをもつ」といいます。
しかし、このような情報を得るためには、かなり突っ込んだコミュニケーションを取る必要がある。ところがマネージャーは、その加減がよくわからず、混乱している。もう少し踏み込んだ方が良いとは思うが、どうしたらいいかわからない。
マネージャーは部下に対して、戦々恐々として、オブラートに包んだようなコミュニケーションを交わしている可能性があるのです。 ハラスメントの「~するべからず」集は、人との関係性を構築できない横暴なマネージャーのために作られたもの。それはそれで大切なことだとは思います。 しかし、それに怯えて、一歩踏み込んだコミュニケーションに飛び込めないマネージャーがいたらそれはもったいない。Kさんの会社で社員満足度調査をおこなったところ、上司に対する不満のトップは「上司が自分のことを理解していない」だったそうです。
上司に自分のことを知って欲しい、自分のことを理解して欲しい、と思っている部下もたくさんいるのです。
ハラスメントになるのに怯えて部下と距離をもつのか、一歩踏み込んだコミュニケーションを取るのか。簡単に答えは出ないかもしれません。 あなたは、部下とどのような関係を築きたいですか。
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