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先日、新潟の建設会社でコーチングの講演を行いました。その会社の社長は、高校時代のラグビー部でひとつ後輩でした。

講演の後の宴会の席。後輩はスピーチの中で私を紹介してくれました。

「桜井さんはラグビー部のキャプテンでした。当時の桜井さんは、私たち後輩からは"鬼の桜井"と呼ばれていたんです。とにかく練習が厳しい。誉めない。怖い。今日は、その桜井さんから、コミュニケーションはキャッチボール、部下をうまくいかせるためのコーチング、という話を聞き、人は変わるんだなと、感慨深いものがあります」

確かに当時の私は、典型的な体育会のキャプテンでした。後輩が辛いと言おうが、苦しいと言おうが、そんなことはおかまいなし。

当時、一番きつかった練習は「ランニングパス」。パスをしながら100メートルを全力でダッシュするのですが、これを何本も何本も繰り返す。

もうこれ以上走れない! と、皆が思っていそうなときこそ、心を鬼にして、

「again!」(もう一本!)

私は歴代のキャプテンと接する中で、キャプテンとは、強く、厳しく、怖い存在でなければならないと、いつの間にか思うようになっていました。今思えば、当時の私は、自分自身に対して「again!」と言っていたのかもしれません。

その後、私は中学校の教員になりましたが、やっていたことはラグビー部のキャプテン時代と、あまり変わりがなかったように思います。

授業中に生徒がふざけて私語をしていると、「静かにしろ!」と思い切り怒鳴る。生徒が「でも、先生」などと言い返そうものなら「うるさいって言ってるだろう! 黙ってろ!」と、丸めた社会科の資料集で有無を言わさず頭をたたく。授業中、生徒は静かにするべきだ。教師は厳格であるべきだ。そのような正論が頭の中に渦巻いていたように思います。

教員になって3年ほど経ったころ、私は、このコラムの執筆者のひとりである伊藤が主催する、コミュニケーションの研修に参加しました。その研修会で、私は初めて、「コミュニケーションはキャッチボール」、つまり、コミュニケーションは双方向のものなのだという、コーチングの原型を学んだのです。

授業中に生徒が騒いでいるような、以前だったら頭ごなしに怒っているような場面でも、その生徒のそばに行って、なぜ騒いでるのか、どうしてふざけてばかりいるのか、その理由を聞くようになりました。建前や正論よりも、今、目の前にいる人間が何を考え、どのような気持ちでいるのかを知りたいと思うようになりました。自分のことや、自分の授業について、どう思っているのかを知りたくなったのです。

私は意識して生徒の話を聞くようになりました。

「何でも思っていることを話してごらん」

生徒一人ひとりの話を聞くにつれて、私自身が生徒のことを考える時間が、以前よりも増えていきました。この子は毎日どんな生活を送っているんだろう。楽しいこともあるだろうし、辛い思いをしていることもあるだろう。受験も大変だろうし、親とうまくいかないこともあるかもしれない。こうやって落ち着きがないのも、何か理由があるんだろう。 そうすると、生徒に対する興味がわきますから、また生徒の話を聞くようになる。

生徒から私に話しかけてくることも多くなってきました。やがて少しずつですが、怒らなくても授業は静かに進むようになり、宿題や、忘れ物も減っていったのです。

「コミュニケーションはキャッチボール」

後輩のスピーチは、私にその原点を思い出させてくれました。

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