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話を続けたくてたまらない
コピーしました コピーに失敗しました2月22日から25日まで、アメリカでコーポレートコーチ(※1)として活躍しているトレーシー・スティーブンス氏が来日しました。
トレーシーは、企業で技術系のマネージャーを務めたあと、コーチとしての正式なトレーニングを受け、独立。現在は企業の中のコーチ、すなわち「コーチング型マネージャー」の育成に力を尽くしています。
トレーシーは、国際コーチング連盟(※2)に関わる人たちの中で、最も尊敬されているコーチのひとりだという噂を聞いていました。ですから、どんな人なのか会う前からとても楽しみにしていました。
トレーシーのコーチとしての力を実感したのは、来日して2日目の打ち合わせの時でした。彼女とは、一緒にコンテンツを作るというプロジェクトを組んでいるのですが、そのやり取りの際に、とてもエネルギーが湧いてくるのを感じたのです。
ふたりで、今までアメリカと日本の遠距離で取り組んできたことをすり合わせるという打ち合わせをしていたのですが、何が起こってきたかというと、話を続けたくてたまらなくなり、時間が足りない、という体験をするのです。その「話を続けたくなる」という感覚とは、自分の中から体験や知識がどんどん湧き出てくる、という感じです。これは、コンテンツを一緒に作るうえで重要なプロセスで、いったい彼女が何をやっているのか、別の視点で観察していました。
トレーシーに顕著なのは、次のことでした。
・私の話を言い直したりして確認する
・私の話を聞き、それに関連した知識をさらに加えるように自由に提供する
・わからないことがあると「もう少し続けて」と言って促す
・照らし合わせたお互いの話から「これは新しい発見ですね」など、一緒に学習していることを喜んでいる
・会話そのものを楽しんでいるのが伝わってくる
一番の特徴は、こちらが話していることを「正確に捉えている」ということと、それを確認する際に「自分のバイアスをかけない」ということでした。こちらは、外国語である英語で話しているにもかかわらず、相手に伝わっている、という感覚が非常に快いのです。それが、話し続けたい、という気持ちにつながっていきます。
トレーシーに、「マネージャーやリーダーに必要なものは何か」と聞きました。すると、瞬時に次の答えが返ってきました。
「部下を育成する複数のスキルセットです。それは、コミュニケーションスキル、関係性を築くスキル、相手に自発的に考えさせるスキル、相手に関心を持つスキル、相手に話をさせるスキルです」
彼女は2時間の打ち合わせの時間で、そのスキルセットをフルに使っていました。それは、私たちのプロジェクトをスピーディーに前進させることに大きく貢献しました。
コーチの語源は「馬車」。コーチの役割は相手を前進させること。
トレーシーとのやりとりで、改めてコーチングの持つ力を感じ、打ち合わせの後に、国際コーチング連盟の「コーチのコア・コンピテンシー」(※3)を見直してみました。トレーシーは、その中の「アクティブ・リスニング」に関する項目を実践していたので、ここにいくつかご紹介します。
・言葉づかい、声のトーン、ボディランゲージからメッセージを聞き分けることができる
・クライアントの話を明確に理解したかどうかを確認するために、クライアントが言ったことを要約したり、言い換えたり、繰り返したりして言い直すことができる
・クライアントの感情、認識、懸念、信念、提案などを表現することを促し、それを受け入れ、探求し、後押しすることができる
・クライアントのアイディアと提案を統合し、展開させることができる
・次のステップに前進するために、批判や判断を加えずにクライアントが状況を打開できる
マネージャーとして、リーダーとして、私は関わる相手に「話を続けたくてたまらない」という体験をさせているか?
これは今後のチェックポイントになりそうです。
※1 コーポレートコーチ(企業コーチ)
企業と契約し、クライアントの企業内でコーチングを行うプロコーチ。
※2 国際コーチング連盟(ICF)
コーチング業界とコーチの社会的地位確立のため1992年に設立。
本部は米国ケンタッキー州、レキシントン。
※3 コーチのコア・コンピテンシーはこちらをご参照ください。
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