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教えない
コピーしました コピーに失敗しました先日、経営者クラブの友人と食事をしているときに、部下の育成について話題になりました。
その友人は言います。
「部下を育てるということは、フィードバックするということだ。リーダーを育てるためには、大局からのフィードバック。マネージャーを育てるためには、具体的なフィードバック。いずれにしても、愛のあるフィードバックだよ」
その言葉を聞いて思い出したことがあります。
もう20年近く以前。私が前職で、研修講師をしていた頃のことです。
私はまだまだ駆け出しの半人前。研修を行うときには事前に研修の内容を紙に書き、必ず上司のフィードバックを受けることになっていました。
ところがその上司のフィードバックは、
「これはだめ、書き直し」
「OK」
この2種類だけなのです。OKのときはいいのですが、NGのときは、どうしていいかわかりません。
私は上司に聞きました。
「だめな理由を具体的に教えてください」
ところが上司は、まったく教えてくれないのです。仕方ないので、何とか自分で考えて書き直して持っていく。またNG。これが延々と繰り返されるわけです。
悶々とした私は、業を煮やして聞きました。
「せめて方向性とか全体の枠組みだけでも教えてください」
ところが、それに対する答えは、
「それを教えるくらいなら俺が代わりにやるよ。お前にやらせる意味が無いじゃないか」
あるとき、研修開始の30分前になってもOKが出ない。私は直前まで必死に書き直しました。
最終確認を取ろうと思って上司を探すと、いくら探しても見つからない。どうも外出してしまったらしいのです。
当時は携帯電話などありませんでしたから、つかまえることができません。私は自分で全責任を取る覚悟を決めて、その研修に臨みました。
このような上司とのやりとりは、その後2年間ほど続きました。
当時は苦しいとしか思えませんでしたが、今振り返れば、その時期に私は大きく成長したと思うのです。
今大切なことは何なのか。自分がしたいことは何なのか。どうすればうまくいくのか。
自分で考える。自分で全責任を取る。
部下にフィードバックをする立場になった今、私にはその上司に愛があったことがよくわかります。
その頃は、まだコーチという言葉は使われていませんでしたが、その上司は私にとって最高のコーチだったことは間違いありません。
※ フィードバックとは
コミュニケーションにおけるフィードバックとは、コミュニケーションを交わしている相手から伝わってくること、聞こえてくることなど、客観的事実をそのまま相手に伝えることです。
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