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会話をする場
コピーしました コピーに失敗しましたよく、テレビドラマの刑事ものでこんな設定を見ます。
場所は取調室。小さな机をはさんで、刑事と犯人が向き合う。卓上には古びたランプ。刑事が犯人を尋問し、激しく追及する。犯人は最初は反論するが、次第にうつむき答えなくなる。そこにベテラン刑事がやってくる。
「まあまあ、カツ丼でも食えや。田舎のお母さんどうしてるんだろうね」
犯人は自分のことを話し始めて自供が始まる。
これは、非常にステレオタイプな光景ですが、会話の場を作る、という意味においては、とてもうまく集約されていると思います。
コーチの仕事は、相手に「話をさせること」であり、聞き出すことではありません。
私はコーチのトレーニングの場に多く携わりますが、時折、コーチ役が相手を質問攻めにして、身動きの取れない状態に陥らせるのを目撃します。
そのコミュニケーションを分析すると、次のような構造になっています。
質問 > 答える > 質問 > 答える > 質問 > 答える
これが何分間も続くわけですから、相手は息も絶え絶えになるでしょう。
クライアント役としては、相手の質問に答えることだけを繰り返しており、自分から話す機会が与えられないわけですから、これは取り調べ室の尋問と同じです。
では、相手に話をさせるにはどうしたらいいか? それには、カツ丼のような設定が必要なのです。
私は今まで何人もの尊敬するコーチと出会いましたが、その中のひとりが、このコラムにもよく登場するハーレーン・アンダーソン博士です。
彼女が来日し、50名ほどの人を対象にトレーニングを行ったときの情景を忘れることができません。
彼女は、トレーニング開始時間の15分前から部屋で待機し、参加者が部屋にぽつりぽつりと入ってくると、一人ひとりに声をかけ始めたのです。
「こんにちは。あなたは何の仕事をしていますか?」
「今日は何を知りたくていらしたんですか?」
「あなたはどんなことに興味があるの?」
一人ひとりとの会話は、ほんの数秒なのですが、参加者が全員集まったときには、彼女はすでに全員と関係を築いた状態を作っていました。 そこにはすでに、安心できる環境が整っており、自由に話ができる雰囲気が作り上げられていました。その中でトレーニングがスタートしました。
相手が自由に話ができるように場を作る。それは、コミュニケーションが起こるためのプラットフォーム作りです。
コーチングスキルを駆使する前に、どのように場をセッティングするか。それが、コーチとして最初に求められるスキルなのです。
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