Coach's VIEW は、コーチ・エィのエグゼクティブコーチによるビジネスコラムです。最新のコーチング情報やコーチングに関するリサーチ結果、海外文献や書籍等の紹介を通じて、組織開発やリーダー開発など、グローバルビジネスを加速するヒントを提供しています。
コーチングによるウェイ浸透
コピーしました コピーに失敗しました企業は、さまざまな価値観とバックグラウンドを持つ社員の方向性を揃えるために、多種の文書化された「言葉」を打ち立てます。
経営理念、社是、ビジョン、ミッション、コアバリュー......これらの「言葉」は、その会社の「顔」をそれぞれの角度からあぶり出すわけですが、社員に方向性を提示しているという点に関しては変わりありません。
昨今、旧来からのこうした「言葉」に加えて、「ウェイ」を社員に示す企業が増えてきました。
「ウェイ」というのは、シンプルに言ってしまえば、行動のしかた、仕事の進めかたです。成果、結果を出すために、どんなやり方でもいいのではなく、ある規範に則った行動を取って欲しい、 そう企業がリクエストし始めたわけです。
日本を代表する企業の「ウェイ」には、
「常に消費者視点で消費者に貢献する」
「高い創造性をもって可能性に挑戦し続ける」
「異なる考えかたを尊重し多様性を大切にする」
などの言葉が並びます。
さて、この「ウェイ」を社員に提示している企業を見ていくと、確かに「ウェイ」が浸透している企業と、提示したものの浸透がままならない企業とがあるようです。
浸透しない要因はいくつかありますが、ひとつとしては、「ウェイ」を単に「答え」として提示してしまい、結果として社員がその言葉に対する「オーナーシップ」を抱けないということがあります。
どんなに素晴らしい「ウェイ」も、それが一方的に「答え」として示唆されてしまうと、受け手である社員から、「僕たちがやっていないって言いたいの?」「また新しい施策?」などの反発を引き起こしてしまうことが、ままあります。
ある製造会社は、「人を思いやるマネジメントの実践」という「ウェイ」を打ち出しました。これが大見出しで、その下に10ほどの行動指針が書かれています。
しかし、まずもってこの「ウェイ」の中心的な担い手となってほしい部長層の反応は、芳しいものではありませんでした。
部長層を20人ほど集めたグループコーチングで、その真意を問うと、「日頃、数字、数字と詰められているのに、いまさら『人』と言われても詭弁にしか聞こえない」「そもそも人を思いやるということと、業績の達成が両立するとは思えない」。
人は、このように一方的に「答え」を押し付けられたという感覚があると「反射的な解釈」をしてしまいがちがです。解釈の方向性が一方的で、ことの背景が読めないわけです。
そこで、コーチは、部長たちが「反射的な解釈」を一旦脇に置き、「再解釈」ができるように質問を投げかけていきます。
「経営者はどんな想いでこのウェイを提示したと思うか?」
「このウェイを実践したらこの会社の10年後はどう変わると思うか?」
「もし実践しなかったら会社はどうなると思うか?」
「業績と人を両立させようと思うとどんなことができるか?」
「人を思いやるというのはどんなことをすることだと思うか?」
部長たちはこうした質問を受け、それに対する自分なりの答えを探そうとする中で、他人から与えられたのでない、独自の「ウェイ」に対する意味を作り出していきました。つまり、「再解釈」が起こったわけです。
このワークショップは3ヶ月で合計5日間実施され、その結果、ほとんどの部長が「ウェイ」を自分の「言葉」として身につけ直しました。
ひとりの部長が最後に語っていた言葉は印象的です。
「この3ヶ月、かなり経営の視点に立ってウェイを、会社を見ることができました。 最初に聞いたときに感じたウェイに対する異物感は、すっかりなくなりました」
「ウェイ」に対する「反射的な解釈」を取り払い、「再解釈」を起こさせる力が、コーチングにはあります。
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