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コーチが会話をする第一の目的

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コーチングは会話を交わし、お互いのもっている「解釈」に気づき、その解釈の再認識、そして、再解釈が行われるプロセスです。

自分自身の解釈の再認識、再解釈のプロセスは自ら行動を変えていく動機につながります。

コーチは直接クライアントの能力を引き出しているわけではありません。クライアントの気づきを意図的に促したりすることもありません。コーチは会話をつくり出し、解釈、再解釈の過程でクライアントは、自ら行動の起因となるものを見つけます。

さて、私たちは言葉を交わしコミュニケーションを交わします。その際、言葉は一つの記号と考えられます。言葉そのものには何の意味もなく、言葉に対する意味は、個々につくられるものであり、辞書のように一貫した定義があるわけでありません。

しかし、普段使っている言葉、記号の意味は、誰でも同じ意味で使っていると思い込んでいる節があります。

言葉、記号そのものが行動に直結するわけではなく、言葉についている「意味」に基づいて、私たちは行動します。したがって、言葉とその意味の関係が曖昧であったり、間違いがあれば、予測していないような行動につながります。

ソシュール(※)から始まるポスト構造主義者の教えるところによれば、もともと記号と意味の対応は必然的なものではなく恣意的なものです。そして記号の意味は一人ひとりの中で獲得されていくものです。

記号は言葉だけではありません。交通標識や矢印や、ヒトの身振り、絵、音、そして星や花や自然に存在するすべてが、ヒトにとっては記号となります。

ヒトはあらゆるものに意味を見出す生き物です。そしてヒトの知的活動とは記号を操ることと言えます。

言葉と意味の関係を知ることは、すでに存在するものに対応する記号を学習する過程と考えられます。例えば、ヘレン・ケラーが流れる水を water という記号と対応させる「奇蹟の人」のシーンはこのことを強烈にイメージさせます。

しかし、実際には記号と意味は同時に獲得されるものであって、さらに言えば意味とは差異化のことです。例えば、ある動物を犬と呼ぶことは、同じ四足動物でも、猫とは異なるものであるという概念を生むわけです。言語を獲得することは、そのような内的な過程です。子どもを見ていると言葉を獲得する過程はこのようなものです。

さて、言葉と意味の関係ですが、一度言葉に対する意味を持ってしまうと、その意味は普遍性をもちます。意味が固定化していくのです。

しかし、辞書でも定期的にその意味を見直します。時代の流れによってその意味もまた変わっていくからです。そうであれば当然私たち一人ひとりも、使っている言葉とその意味の関係について見直す必要があります。単に時代の流れだけが理由ではなく、そもそも、意味を誤解していたり、意味が十分に満たされていなかったり、自分のものになっていなかったりします。

そこで、会話を交わし他人の言葉と意味の関係に触れ、自分の解釈の再認識、そして、再解釈の機会をもつのです。本来会話にはそのような機能があります。

コーチが会話をする第一の目的はそこにあります。会話を交わし、コーチの視点からものを言い、そこにある「違い」を浮き彫りにします。

クライアントに解釈と再解釈の繰り返しを起こさせることで、クライアントの変化への適応力を高め、また、変化を起こしていく原動力とするのです。

クライアントは、古くなった解釈を新しい解釈に置き換えることで、変化に適応する力を高めていきます。そして、自分自身から周囲に変化を働きかけることができるようになるのです。

※フェルディナン・ド・ソシュール( Ferdinand de Saussure, 1857~1913)
スイスの言語学者。「近代言語学の祖」と呼ばれる。記号論にも大きな影響を与えた。

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