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コーチの役割
コピーしました コピーに失敗しました私は、中学、高校とラグビー部に所属していました。中高一貫教育の学校でしたから、同じ監督の下で6年間プレーをしたわけです。
昨年、18年ぶりにラガーマンとして返り咲き、地元のラグビークラブに入ったこともあって、最近、よく中学、高校時代のクラブ活動のことを思い出します。
幸い、私たちのチームは高校の時、静岡県で優勝し、それに続く東海四県の大会でも準優勝をしました。とても良い思い出として残っています。
特筆すべきなのは、監督はまったくラグビー経験のない素人だったということです。経験がないですから、テクニカルなことをあれこれ詳しく教えることはできません。
彼が監督として素晴らしかったのは、何よりもまず、絶対に優勝するという強い想いを片時も失わなかったということです。
とにかく、頻繁に部員に対して「おい、優勝するぞ!」「絶対東海大会行くぞ!」、政治経済の先生だったのですが、授業が終わって、話しかけられて、勉強の話かと思いきや「優勝するからな」。
完全に私たちは彼の想いに引っ張られました。そして、なぜか、本当になぜか「間違いなく自分たちは優勝する」、部員は信じて疑いませんでした。
さて、彼は細かい技術は教えられませんでしたから、とにかく私たちに考えさせました。もちろん、全く制限なく考えさせるのではなく、大きな戦略は出します。
「うちはそんなに身体は大きくないから、がんがん相手に突っ込んで行くようなことはやるな。お前らに怪我させたくないしな。フォワードはすぐにボールをバックスに供給する。バックスはボールを早く外に展開して、それをフォワードがフォローする」
大方針は語ってくれますが、あとは私たち次第です。
フォワードもバックスも、昼休みに、授業の合間に、そして寮で(寮制の学校でした)、どういうサインプレーをするか、どういう練習をするか、わいわいやりながら考えました。
素人集団の私たちには「セオリーではこう」といった枠がないですから、他のチームが考えつかない突拍子もないサインプレーを生み出します。実際に試合をすると、相手は呆気に取られ、ものの見事にその奇想天外なサインプレーが決まるということが何度もありました。動きの速いラグビーの最中に、本当に相手がぽかんとして立ち尽くしてしまう。なかなか快感でした。
ただ、もちろん自分たちで考えるだけでは、さすがに強豪チームに勝って優勝することはできません。
監督は、とにかくありとあらゆる自分のネットワークを使って、というよりも細い細い糸をたぐり寄せて、「なんでこんな有名人が来てくれるの?」というような人を、何人も連れてきてくれました。
かつて日本代表だったという人だけで3人。まったく名も知れない高校のラグビー部の練習に一度ならず、二度三度と足を運んでくれるわけです。
監督から言われました。
「いいか、とにかく気持ちのいい挨拶をしろ。そうすればまた来てくれるから」
もちろん、挨拶をするだけでなく、普段は聞くことができないラグビー理論に、それこそ私たちは食い入るように耳を傾けました。
静岡県で優勝した試合で、その監督を高々と胴上げしたことを昨日のことのように思い出します。
私がコーチという存在の価値を信じる理由のひとつとして、この監督の存在があります。
まさにこの監督は、私たちが今ビジネスで実践している「コーチ」でした。
クライアントのゴールの達成に思いを馳せ、それを、時にはクライアント以上に信じ、関わる。クライアントの仕事を専門的に理解することはできませんが、その成功に向けて、さまざまな角度から質問をし考えてもらう。自分のネットワークを活用し、様々な専門家を紹介する。まさに、ラグビー部の監督が実践したことを今、自分はコーチとして実践しているように思います。
何も仕事として「コーチ」をやっている私たちばかりではありません。
昨今、自分の専門外の部署に管理職として転任する人も増えています。もちろんその仕事に詳しくなるに越したことはありませんが、「コーチ」というスタンスでマネジメントをすることは十分可能だと思います。
「全部自分の方が上でなければならない」というプライドを、脇に置く勇気が少しだけあれば。
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